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音無

映画「セブンガールズ」の上映の時、嬉しかったこと。
舞台挨拶を扉の前で待っていると場内から拍手が聞こえてきたこと。
それも毎回毎回、あの音楽が終わると聞こえてきた。
ああ、今日も誰かが拍手を映画にしてくれている。
そう思うと、ああ、良かったなぁ。と大変だったことの全てが報われるような気分だった。

他にもね。舞台の千秋楽とかさ。
バンドやってた時の「アメリカ」っていう曲の大サビとかさ。
↑(なんちゅうタイトルだ)
紙テープが客席のいたるところから飛んできたこと。
いつの頃からか定着して、僕はいつもそれが楽しみになった。
コール&レスポンスもそうだけれど、何かが繋がっていると感じる瞬間だった。

さて映画「演者」。
完成披露試写会では少し起きたけれど。
基本的に終映後に拍手が起きる作品じゃない。
やべえ、寂しい!とか思ったりもしない。実は。
あんなに嬉しかったくせにだ。
それを目指さなかったと言ってもいい。
確信犯的な終わり方にしている。
こうしたら拍手がしやすいんだよなという答えは持っていた。実は。
むしろ、その方がいいのかもなと悩んだ時期もあった。
僕自身も実は大団円的な終わり方の作品が大好きだったりするし、そもそも素晴らしい作品に拍手を贈るということ自体が大好きだ。
それでも確信犯的にそうしなかった。
もちろん、拍手してくださっても良いのだけれどさ。

映画の終わりはどこか?
とても難しい質問だと思う。
基本的には映写機が止まった瞬間が正解で良いのだろう。
でも、客席にいる僕個人の受け止め方としては違う。
事実がどうあれ、観念的に見れば個々人で変わるに決まっている。
実際、エンドクレジットが流れると席を立つ人だっていることだしさ。
物語の終わりが映画の終わりだっていうことなんだろう。
客電がついて明るくなることが、映画の終わりという人もいるだろう。
あの瞬間はやっぱり急に世界から放り出されたような寂しい気分になる。
もしかしたら映画館を出る瞬間かもしれないし、家に帰って作品のことを考えながら眠りにつく瞬間までが映画の人もいるかもしれない。
一服するまでとか、コーヒーを飲むまでとか、そんな人もいるかもしれない。
頭の中で言語化してレビューを書くまでが映画の人だっているだろう。
映画の終わりは事実として明確だけれど、映画という体験の終わりは一人一人違うのだから。
子供がカンフー映画を観ればいつまでも終わらないのと一緒さ。
あちょー。

映画「演者」はだから確信犯なのだ。
終わりのラインまでお客様に委ねてしまいたかった。
大団円的な全てが収束していくようなことはしたくなかった。
見ていない人にはチンプンカンプンかもしれないけれども。
終わりを終わりとしないというか、そうしたかった。
というか、そうせざるを得なかった。

終わった瞬間。
静かになって。
誰もすぐに席を立たないような。
大きく息を吐いてからじゃないとなんか立てないような。
そんな映画になればと思った。
僕自身も映画や演劇で数本だけそういう体験をしてきたから。
そんな僕のような人が一人でもいたらと思った。

だからなんだろう。
その深呼吸というか。
映画の世界からゆっくりと現実の世界を受け取る過程というか。
その空気を感じた時に、拍手と同じようなものを感じる。
拍手のように大きな音が出るわけでも、動きがあるわけでもない。
微かに息を吐く音や、何も映っていないスクリーンを見る目や。
なんかそういうもので感じとるぐらいしか出来ないもの。
舞台挨拶に向かった時、それがあることがあってさ。
ああ、これはやばいぞ。ちょっと、なんか感じるぞっていう瞬間がさ。

あれはなんなのだろう。
勝手な思い込みなのかもしれないけれど。
舞台にずっと立っていたから感じるものなのかもしれない。
すっとした空気というか。

大団円は大好きなんだよ、これほんと。
でもそれとは全然違う質の、あれ。
僕だけが現実の世界にずっといるような感覚。
それは拍手以上の共感なのかもしれないといつも思うよ。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。