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受け身

プロレスの基本は受け身だってジャイアント馬場さんが言っていたのです。
毎日のように興行があるプロレス。肉体同士がぶつかり合うわけで。
どんな大技をくらってもノックダウンしても次の日は試合がある。
というかその大技すら受け身が出来る選手しかかけてもらえない。
まずは基礎としての受け身がどれだけできるかで出来ない選手は絶対にメインイベンターにはなれないというのは大納得なわけで。

受け身が巧い選手がいるだけで試合は面白くなる。千変万化、あらゆる攻撃を受けるわけで試合展開も多様になっていくわけですから試合の面白さは受け身のレベルでグンと変わってくる。
ところがですよ。ところがなんです。
受け身が巧い選手がじゃあ確実にスター選手になれるのかと聞かれるとそんなことはないわけです。
うわ!この選手は受け身が巧いなぁ。こんな大技まで受け身とってるなあっていう選手でもメインイベントにまで出ていてもスターには、なれない選手がいる。昔からのファンからの評価が高いという選手になる。

これがすごくお芝居に似ているなぁって思います。

たまたまお芝居で受ける芝居についていくつか目を通して、ああ、そうだなぁ。その通りだなぁと納得しつつ。実は今の俳優さんたちはその受けがすごく上手なんだよなあと思って。いやほんとうに巧い。そういう役者が色々な作品に採用される時代になったんだなぁって思うのです。つくづく。
芝居を成立させるし、様々なテンポの変化や状況の変化に対応してシーンを成立させていく。大したもんだなぁとちょっと驚くぐらいで。

でも。逆が。逆のやつで、ん?ってなることがあって。
いわゆる外連味。「決めゼリフ」。
お芝居はよくキャッチボールと言われるわけで、相手役とぽんぽんと受け手は投げ返して成立していくものなわけですけれど。セリフに関わらず、視線だけとか、なんだったら無言で動かなくてもキャッチボール的なやり取りがあるわけです。そこまではすごくよくて、ああ心地よい芝居だなと思うのですよ。
でもそのキャッチボールだけじゃないわけです。メッセージというか。
バツンと、客席に向かって直線的に何かを発する。
その強さを感じることがすごく少なくなっているというか。苦手になってきているような気がしていて。
そういう作品が減っているのは時代的な背景なのか、そもそもそういうことが出来なくなってきているのかどっちなんだろう?って考えていたり。

あ。TBSの日曜劇場の一連の作品群だけは別です。
歌舞伎俳優を積極的に採用していたりするのはケレン味のスペシャリストだっていうこともあると思います。あの枠のコンセプトなのか製作人なのかプロデューサーさんなのかは知らないですけど、決めゼリフを気持ちよく言える俳優じゃないと通用しない作品を常に製作しているなぁと思います。

「ふざけんな!」っていう一発の気持ちよさ。
そっちのが難しくなってきているのかな。
昔は受けるってことの方が難しいとか高度とか思ってたけど。
なんて最近は感じ始めていて。
あるいは怒りのピークとか、そういうところ。

バンドで言えば楽器隊の永遠に聞けるセッションみたいなものの素晴らしさをすごく巧みに演じていてすごいなぁと思うのです。
でもそこに心をぶん殴ってくるようなヴォーカルだとか、肉体を引き裂きにくるようなギターだとか、そういう表現をする俳優がいつの間にか減っている気がして。

かつての名優たちの持つ決めゼリフの凄味ってやっぱさ。ねぇ。
一生忘れないだろ、これっていうやつがいっぱいあってさ。
まぁ、こねくってなくて、腹の底から心を発射するみたいな。

なんとなくなんですけどね。
何が一番大事とかはきっとなくて。
作品のスタイルで変わるんだろうとは思います。
僕はどっちの芝居も好き。
そしてどっちの芝居も出来る俳優さんみると、うほーっていつも思います、はい。

どっちかだけ出来るだけでもすごいなぁと思うんですけれどもね。
でも受け身がうまい選手が好きってのはマニアックだったんだけどな。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。