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【ドラマで話題】高純度のフローライトってすごいの?そもそも結晶の純度って何?



最近のテレビドラマが面白い…

最近の、日本のテレビドラマが中々面白いですよね。
筆者は10代頃から「日本のドラマより海外ドラマの方がお金かかってて面白い。」的な逆張り思考にあったので、あまり日本のテレビドラマを見ない年月が続いてきました。

しかし海外ドラマも人気シリーズがシーズンを重ねるごとに段々と勢いを失い、最後は露骨な打ち切りエンド…みたいなのが結構あったことに失望し、あまりドラマ自体を見なくなっていきました…。

ですが最近は、配信コンテンツとの競争もあってなのか日本のテレビドラマも非常に面白くなってきていますよね。
また、加入してる配信サービスの違いで分断されがちだったりするエンタメの趣味について共通の話題を持てたり、リアルタイムでSNSにつぶやいて盛り上がれるという、テレビならではの強みや面白さというのも感じます。

特に最近は大規模な海外ロケを行った某大作サスペンスドラマにドハマりしてしまいました。
大いに話題を生んだその大作ドラマですが、物語のキーとして作中に「純度99.5%のフローライト」というのが登場しました。

ドラマの中では、大きく経済状況を変える鉱物資源として扱われていて印象に残った方も多いのではないでしょうか?

半導体の製造に関わっていることもドラマで言及されたフローライトでしたが、一体どんな鉱物なのでしょうか?
そして鉱物に「純度」という概念が使われたことが耳慣れず疑問に思った方も多いのではないでしょうか?

そして「純氷」として氷を販売する氷屋も多いですが、それを目にした方には「氷にも純度ってあるの?」と思った方がいたかもしれません。

今回は「結晶の純度」とは何なのか、それについてフローライトや氷を例に解説してみます。

フローライトってどんな鉱物?

まず、ドラマで話題になったフローライトという鉱物ですが、これは日本では一般的に「蛍石」と呼ばれます。

加熱すると発光し、割れて弾けるという性質を持ち、その発光の様子から「蛍石」と呼ばれるようになったそうで、読み方は「ほたるいし」の場合も「けいせき」の場合もあります。(なお、ブラックライトを当てても光るので蛍石が光るのを見たい方はそちらをおすすめします)

フローライトは天然のフッ化カルシウムの結晶で、本来フッ化カルシウムは灰白色なのですが、不純物が混ざることでかえって綺麗な色が付きます。

このフローライトですが、決まった方向に割れる性質、つまり「へき開」を強く持っている鉱石で、フローライトの場合「四方向に完全」、つまり衝撃を加えた場合、上記写真のような綺麗な正八面体に割れることが多いです。

その美しい見た目から、ミネラルコレクターに収集されることも多いフローライトですが、その真価はやはり産業的な価値にあります。

半導体ってそもそも何だろう?

半導体集積回路(IC)のような複雑な電子部品も
突き止めればスイッチのような単純な構造の積み重ねである。

そんなフローライトはドラマでも半導体の製造に使われることが言及されていましたが、ここでいう半導体は文字通りの「電気を良く通す金属などの導体と、電気を通さないゴムなどの絶縁体の中間物質」という意味ではありません。
半導体集積回路(IC)」、すなわちシリコンを主原料とした集積回路のことです。文字通り半分導体である半導体は、時には電気を流し、時には電気を止めるスイッチ、つまりトランジスタを作るのに向いています。
そのため、半導体の板(シリコンウェハ)に微細な回路を焼き付けることで半導体集積回路を作ります。

個人的には半導体集積回路を半導体と略すのは、大理石を彫って作ったハンコを「大理石」と略すような違和感を感じるのですが、近頃では「半導体=半導体集積回路」はもうすっかり定着してしまっていますので、ここでも半導体集積回路を半導体と呼びます。

では具体的にフローライトをどのように半導体(集積回路)の製造に使うのでしょうか?
実は、フローライト自体が半導体の原料になる訳ではありません…。

まず、フローライトには「異常部分分散性」というある変わった性質があり、簡単にいうとレンズなどに使用した場合、ボケや歪み、色ズレが極めて少なくて済むという特徴があります。

その特徴はカメラレンズに像を映すにはもちろん、対象に投影するのにも適しており、これはごく小さな半導体の材料に微小な回路を焼き付けるのにも使用され、半導体ステッパーと呼ばれ現代のデジタル社会に欠かせない道具となっています。

半導体に刻まれた微小な回路。ウェハと呼ばれるスライスされた
半導体の板上にある感光性樹脂の膜に、光で焼き付けられる。

しかしフローライトの産業的価値はこれに留まらず、その最も重要な性質は硫酸(H₂SO₄)と反応させることでフッ化水素酸(HF)を得ることができることです。

この反応を化学式で表すとCaF₂+H₂SO₄→CaSO₄+2HF

このうちCaF₂がフローライト(フッ化カルシウム)、2HFが目的のフッ化水素です。
副産物として硫酸カルシウム(CaSO₄)が出ます。

このフッ化水素は半導体製造工程において「エッチング工程」と「洗浄工程」に用います。

エッチング(Etching)」とは、元々化学薬品などを用いてガラスなどに腐食して模様や絵などを刻み付ける手法の一つですが、半導体加工においてはウェハと呼ばれるシリコン(金属ケイ素)の素材に前述のステッパーで回路を焼き付けた層から、不要な部分を除去することを指します。

そして「洗浄工程」ですが、半導体は極めて小さな不純物が原因でも回路に損傷が起こるので表面の不純物を徹底的に洗い流す工程が必要になります。

精密電子部品の洗浄に用いられるフルオロカーボンという有機化合物は、半導体だけでなく医療現場では目や肺の洗浄にも利用されている物質で、この製造にもフッ化水素が必要となります。

フルオロカーボンの一種、パーフルオロヘプタンと青く着色された水。
比重のためカニと金魚は水の中にいるが、25セント硬貨は一番下に沈む。
Wikipediaより:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:FluorocarbonCrabFish.JPG 作者:Sbharris (Steven B. Harris)様 ライセンス:CC 表示-継承3.0

フローライトは半導体製造の万能ツール!

フローライトは、半導体製造を彫刻に例えるなら、石にケガキをするペンであり、石から形を削り出すノミであり、削った石の粉や欠片を除去するハケにも使うわけです。

フッ化水素は半導体製造を始めとした様々な産業に用いられるのですが、フッ化水素の原料となるフローライトは、現在のペースで採掘するのであれば、あと40年で採掘可能な深度にある世界中全てのフローライトを掘りつくしてしまうと予想されています。

またフッ化水素自体が猛毒であることや、副産物として排出される二酸化炭素も問題視されており、より新しい方法で半導体などをつくる術が求められていますが…まだまだは我々はこの美しい毒の結晶にすがりざるを得ないでしょう…。

なおフローライトそのままでは毒性はありません(でも胃酸と反応するので食べないでください)
ミュージアムショップで売っているところや、日本でも採れる場所がありますので探せば案外簡単に手に入ります。是非入手してみてはいかがでしょうか?

…まぁ、長々と書いてきましたが重要なのはフローライトはやはり重要な資源であるというシンプルな話ですね…。

純度の高い結晶ってどういうこと…?

では、ドラマで話題になっていた「高純度のフローライト」とはどういうことなのでしょうか…?

前述の通り、フローライトとはフッ化カルシウムの天然結晶のことなので、純度の高いフローライトとはすなわち、「不純物を含まない純粋なフッ化カルシウム結晶」に近いということです。

フローライトの色は含まれるフッ化カルシウム以外の成分に起因するため高純度のフローライトはフッ化カルシウム本来の灰白色であると思われます。
青かったりはしないはずです…。

前述の通り、フッ化カルシウムには半導体製造において非常に多様かつ重大な役目がありますので、フッ化水素を得るのに最適な純度の高いフッ化カルシウムはとてつもなく重要な資源といえます。
それはもう…様々な陰謀を巡らせて争奪戦が起きるほどには…。

ちなみに結晶度と呼ばれる、結晶部分と非結晶の部分が合わさった物質における、結晶の部分を示す度合いもあります。
これは主にガラス質(アモルファス)が含まれていることが多い火成岩(マグマが冷えて固まった岩石)に対して使われることが多い指標です。

実は透明なガラスですが、分子のパターンが整った結晶になっているわけではなく、アモルファスと呼ばれる液体でも個体でもない特殊な状態にあります。例えば、黒曜石は透明な結晶のように見える鉱物ですが、ほぼガラス質で構成されていて、結晶ではありません。

黒曜石はほとんど結晶でないため、加工が容易であり
矢じりなどとして人類に最初に活用された準鉱物資源となりました。

しかし前述の通りフローライトはフッ化カルシウムの結晶なので、フローライトの純度とは結晶度のことではなく、フッ化カルシウム以外の成分がどれだけ含まれていないかを示していたのでしょう。

氷もある種の鉱物であり、純度もある!

さて、ここまでお読み下さった方、半導体の専門家でもない、いち情シス担当者の拙い解説に付き合っていただき、大変ありがとうございます。

さて、実は氷も見方によっては鉱物に分類されることはご存知でしょうか?
鉱物の定義とは「地質学的作用により形成される、天然に産する一定の化学組成を有した無機質結晶質物質のこと」とされます。

氷ももちろん、水が凍って自然にできることがあり、そして一定のパターンを持った結晶なのですが、地質学的作用により形成されているとは言い難いので、厳密には鉱物とは言い難いです。

しかし、一般的に鉱物と見なされることが多い物質にも厳密には鉱物の定義を満たしていない「鉱物とされるもの」は存在します。

前述の、ほとんどが結晶ではなくガラス質(アモルファス)で形成される黒曜石がそれです。
また、生物が生成するサンゴや真珠といった宝石も、地質学的作用によるものではないので、鉱物ではありません。

また、逆に地質学的作用によって形成される結晶であっても、有機物で構成されるカルパチア石は厳密には鉱物ではありません。

石英にインクルージョン(内包物)として含まれたカルパチア石(黄色い部分の結晶)。
カルパチア石の化学式はC₂₄H₁₂、つまり炭素と水素から成る有機物である。
Wikipediaより:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Carpathite-49556.jpg 作者:Rob Lavinsky様 ライセンス:CC 表示-継承3.0

それらを考慮すれば、氷はほとんど鉱物の条件を満たしていることになります。そんな氷にも、前述のフローライトのように「純度」の概念を当てはめることができます。

この場合、もちろん氷の純度とは「いかにH₂0以外の成分を含んでいないか。」ということになります。

原料水のろ過が不徹底であったり、多くの気泡を含む氷は、H₂0以外の成分を多く含んでいるため「純度の低い氷」ということになります。

純度の低い氷は、不純物や気泡のため透明度が低く、白く濁っている傾向にあります。

右:H₂0以外をほとんど含まない「超純氷®
左:自動製氷機で作られた標準的な氷

氷屋が販売する氷は「純氷」と呼ばれ、業務用の自動製氷機やご家庭で作られる氷と区別されることがありますが、純氷が「純氷」と名乗れる所以はここにあるのです。


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