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アネホアラーム:長期樽熟成テキーラが消えていく理由 (訳:小野ちはる)

テキーラファン御用達の”Tequila Matchmaker”というケータイアプリを運営するScarletさんとGloverさんのサイトTASTE TEQUILA.COMでは、メキシコ・ハリスコ州より最新の情報が発信されます。

前回の記事からさかのぼって、気になるトピックをまた日本語に訳しました(許可取得済)。今回の3月の記事は、個人的にもショックなニュース!

”Añejo Alarm: Why Aged Tequilas Are Disappearing”

Scarlet March 23, 2021

熟成テキーラファンの皆さん、メモしてください。あなたのお気に入りのテキーラ、高級品のテキーラが無くなってしまうかもしれません。もうアネホテキーラは、市場に出せるものがなくなってしまっているとの情報があるのです。

「テキーラ生産者にとってテキーラが高額になることは不本意で、価格は下がったほうがいいと思っているんですが、熟成中のテキーラがだんだんなくなりつつあります。」Jake Lusting氏(ArteNOM Selectionテキーラ、オーナー)

テキーラの原材料の価格はここ数年で急激に上がり、2016年には1kg当たり4ペソ(8/17付で約¥22.)だったのが、今では1kg32ペソ(約¥175.)にも届きそうなほど高くなっています。

原材料アガベ(リュウゼツラン)の価格は、常に上がったり下がったりのサイクルを繰り返しています。それは、アガベ農家が、需要のほとんどない時には作物を放置し、値段が上がってくるとまた植え始めるためです。ですが、今回のアガベ価格の急上昇はいつもと違って長引いています。2017年以降ずっと、キロ当たり25ペソ(約¥137)以上を記録しています。

ご参考までに、テキーラづくりにかかる資金として、1キロ当たり30ペソ(約¥166)だとすると、大型のオーブン一つを満タンにした場合40.000 US$(約¥440万8/17現在)かかります。(ノン・オーガニックのアガベの場合)

それがテキーラ生産者にとっては時折ジレンマとなります。投資した利益を回収するのに時間がかかる「アネホ」になるまで、1年以上熟成を待つべきか、それともブランコ(樽熟成なし~2か月未満)やレポサド(樽熟成2か月~1年未満)を作ることに注力するべきか、というジレンマです。

アガベの価格上昇と需要の高まり

価格の問題が製造量の縮小につながる中で、アネホの供給にはまた別の影響がありました。コロナ禍で需要が急増したのです。2020年のテキーラの売り上げは、収益で言うと54%上昇し、量は38%増加しました。スピリッツの中では断トツです。

需要の急増で、残っていたエクストラ・アネホ(XA、樽熟成3年以上)は見事に枯渇してしまいました。そして今、アネホが手に入りづらくなってきているのです。

「人気のある『Don Julio 1942』や『Patrón Extra Añejo』『Clase Azul Añejo』などのアネホやエクストラアネホは、去年からしょっちゅう売り切れてしまうことには気づいていました。」Roman Romaya氏(Old Town Tequila アメリカ、サンディエゴのテキーラショップ)

「今は100$~300$の範囲で、どのアネホも売り切れです」

これは、多くの人がまだバーに行けない中、外食・外出すれば使ったであろうお金で、ボトルを1本まるごと買えることに気づいたからかもしれません。

「ご自宅の棚の上段に置かれるでしょうね。」Romaya氏は言います。

生産者たちもアネホを手に入れようと躍起になっています。

「毎週、テキーラのブランドや蒸留所からアネホをまとめて買いたいという電話がありますが、うちにも、うちの分だけしかありません。今は、なかなか見つからないですね」Jaime Villalobos Sauza氏( Suave Tequila 蒸留責任者)

もちろん、需要が大きくて供給が少なければ、価格が上がります。Romaya氏によると、テキーラ全体が値上がりする傾向にあり、それはメキシコでも同様です。

「もうアネホはないですね」とEmilio Ferreira Ruiz氏(メキシコ・ハリスコ州トラケパケのテキーラショップTequilas El Buhoオーナー)は言います。「しかもテキーラ全体が値上がりしていて、アネホほどではないけれど、ブランコでさえもそうです。原料のアガベの価格が高いままなのです。」

「クリア」な競争相手

最後に、アネホ不足の他の要因があるようです。クリスタリーノです。クリスタリーノとは、アネホやエクストラ・アネホテキーラをフィルターにかけ、樽熟成で着いた色素を取り除き、色を透明に、または透明に近いものにし、プレミアム感やスムースな味わいを売りにしています。

クリスタリーノはメキシコで急成長したカテゴリーで、現在ではアメリカで売れています。テキーラ生産者の中には熟成したテキーラのストックを、需要に合わせて、クリスタリーノのほうにより多く使っているところもあります。

クリスタリーノの流行がアネホのストックを枯渇させているのでは?とFerreira Ruiz氏に聞いたところ、「そのとおりです」という答えでした。

さらに新しい現象も起きています。新しいタイプのクリスタリーノ・テキーラが、最低2か月の樽熟成で作れるレポサドを利用して作られ始めました。

「これはアネホの不足によるものです」(Ferreira Ruiz氏)

我々のデータベースには、「レポサド・クリスタリーノ14」をリストアップしています。(その後たくさん増えましたが…。そしてこれからも増えることでしょう)

アネホファンはどうするべき?

現在もしお気に入りのアネホが売り切れだとしても、さいわい市場にはたくさんのブランドがあり、すべてのブランドがアネホ不足なわけではありません。 Tequila Fortaleza,や Don Fulano, Casa Noble, Tapatíoなどのブランドは、独自の樽熟成計画があり、平常通りの出荷をしています。

「アネホとエクストラ・アネホの将来の見通しを考えて、当社の各ブランドでは従来の樽熟成計画よりも多くの樽を仕込み始めました。」Carlos Camarena氏(Tapatío, Tequila Ocho, El Tesoro de Don Felipe蒸留責任者)このように、アネホやエクストラアネホ商品の需要の急成長に対して、対策もされています。

皆さんは、これを機に今まで飲んだことのない熟成テキーラに挑戦してみますか?それともやはり、お気に入りのものを待ちますか?おそらく樽熟成テキーラは、もうすぐ、また売り場に戻ってくるでしょう。ただし、お値段は上がっているでしょうね。

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