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社長芸人による芸人経営学.7

芸人経営における経理部門の役割です。

芸人事業を個人で行う場合、個人事業主としての税務申告が必要となります。

事業開始時点でそれほど多くの経費を使う予定がないのであれば、白色申告でも問題ないでしょう。青色申告の届出をしておくことで赤字の繰延ができますので、先々に稼ぎが多くなった場合に節税することができます。

毎年確定申告をする必要があるので、入出金の記録と帳票を準備しておきます。

芸能事務所に所属していてもその会社の社員ではありませんので、個人事業主として税務に関しては正確に抜け漏れなく申告する必要があります。

法人を設立してそこから報酬を得る場合、役員報酬とするのか更にそこから売り上げを得るの化、株主として配当を受けるのかなど様々な方法があるので、その場合は会計事務所等に依頼する方が効率が良くなります。

実際のキャッシュフローについて考えてみましょう。

まずはライブに出演するための費用が必要になります。

交通費と参加費です。私のようにポルシェでライブに行く場合、駐車場代も必要です。特に、ライブが開催される場所は新宿と下北沢、中野周辺が大多数なので、この費用がバカになりません。

もしこれからお笑い芸人になろうとするのであれば、極力中野周辺に住むことをお勧めします。まず、新宿まで歩けること。これが重要です。

売れていない芸人は、基本的にすぐ打ち上げをします。何も成し遂げていないのに何を打ち上げてるんだという疑問が湧くのも当然です。

参加費を支払ってライブに出て、三人ほどのお客の前でネタを3分やって、ズルズルにスベって、何をやり遂げた感だしとんねんというご意見もごもっともです。

しかし、スベったからこそ打ち上げが必要なのです。売れていないもの同士、スベったもの同士、しっかりと傷を舐め合い止血をします。もしここで止血しなければ出血多量で芸人として致命傷となります。また、打ち上げでお笑い論を語ることも大変重要です。これは、「自分は今、芸人をやってるんだ」という充足感を得るのに不可欠です。その際、基本的に自分より芸歴が長い全てのお笑い芸人を『さん』付けで呼びます。

松本さん、内村さん、出川さん、宮迫さんなど、会ったことがない著名な芸人に対してさん付けで呼ぶことで、自分自身がお笑い芸人ヒエラルキーの一員であることを確認します。これは私自身も励行していました。初めて「浜田さん」と言った時のこそばゆいような、どこか誇らしい気持ちを今も忘れることができません。

こうした打ち上げは、しばしば深夜に及びます。お笑いライブはだいたい平日の夜21時前後に終わります。ですので、22時頃から打ち上げが開始されるのですが、終電を過ぎるまで打ち上げが続くことが大多数です。

これは、なるべく遅くまで終電を逃すまで飲むという行為が極めて「芸人っぽい」からです。「終電を気にする=次の日のバイトのため」という現実から目を逸らす効果もあります。

とはいえ、始発まで飲む経済力は売れていない芸人にありません。なので、必然的に始発まで路上にいるか、歩いて帰るかの2択となります。となれば、新宿や下北沢から徒歩で帰れる範囲に住む必要があります。だから、中野なのです。

また、公園や駅前広場などで打ち上げをすることもあります。その場合、季節によって体力的に辛いこともありますが、何よりコストが少なくてすみます。

上述の通り、お笑い界のヒエラルキーの一員であるかのように振る舞っていますが、「先輩が後輩に奢る」というお笑い界のシステムは、ほとんど適用されていないと思ってください。これは、売れている芸人限定のシステムです。

フリーターがフリーターに奢るというのは合理性がないわけです。しかし、割り勘であったとしても先輩は後輩に対して「芸論」を語りますし、ネタへのダメ出しも行われます。後輩が希望しているかどうかに関わらず、先輩芸人からのダメ出しや指導は必ず行われます。これは、お金を出せない分、せめて後輩に知識だけでも伝えたいという切実な思いやりの形でもあります。

お金は奢れないから、知識を奢るというシステムであるとご理解ください。

また、打ち上げにおいて、後輩はお笑い界のルールに則って先輩の自慢話に付き合うという義務も生じます。「錦鯉さんに可愛がってもらってる」であるとか「5年前にM-1の3回戦までいった」などという様々な武勇伝を披露していただいた際には、なるべく「ダウンタウン松本さんにハマっている」「M-1敗者復活で惜しくも投票で負けた」くらいの感じで相槌を打つことが求められます。

また、駅前広場での打ち上げでコンビニで缶チューハイを奢ってもらえるケースもあります。その場合も叙々苑をご馳走になったのと同等の喜び方で感謝を伝えなければなりません。これはルールというよりマナーの問題です。

上記のように、ライブ出演ごとに参加費、交通費、打ち上げ代で5,000円前後は出費があります。これらを勘案してキャッシュフローを管理してください。

収入については、ほぼ無いでしょう。私自身も、おひねり制ライブというものに出演した際にお客様から頂いたのが

・期限切れのピンサロのスタンプカード(半分スタンプ押印済み)

・聞いたことがないラーメン店のもやしトッピング券

・使用済みテレホンカード(おそらく後3回くらい通話できる余力あり)

だったことがあります。

ですので、エントリー制ライブにしか出演できないという段階をいち早く脱する必要がありますし、この段階においては生活費の他にライブ出演経費の予算計画を立てなければなりません。

原則としてライブ出演にかかる費用は経費計上できます。打ち上げ費用についても、長期的に仕事に繋がったり同業者との関係性を築くことでお笑いのレベルが向上するというのは商品開発的な要素もありますので、税務署と打ち合わせの上で経費としてカウントするべきであるといえます。

皆さまの支えがあってのわたくしでございます。ぜひとも積極果敢なサポートをよろしくお願いします。