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映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』感想

【前半】

舞台は、謎の宇宙船が上空に漂う東京。
いつしか宇宙船は日常になり、人々は呑気に暮らす様になる。ご多分に漏れず、おんたん(=あのちゃん) と 門出(=幾田りら) も5人組の仲良しグループと平穏に暮らす。


序盤は、友情の素晴らしさに惚れ惚れした。
中高生になれば、男女の仲になる子も出てきて、仲良し5人グループの中にも彼氏持ちが現れる。しかし、喧嘩っぽい言い合いはありつつも、一応は放課後のツチノコ探しに誘ったり、決して仲間外れにしないの5人組の関係性が、素直に素敵だった。
キホが彼氏と別れた際にも「こんなことなら、おんたん達とツチノコ探しておけばよかった…!」と吐き捨てていた。ツチノコ探しでも何でも良いのだが、友達の中だけの言語で、感情を共有できる相手がいること、そして、その結びつきがとても強いことが、単純に羨ましかった。

また、門出の家族との軋轢も描かれていた。
宇宙船が飛来した日に出かけて以来、帰ってこない父。飛来した宇宙船が出す磁場を極度に気にすることで、門出を振り回す母。家族の心がバラバラになっている中で、尚も止まらない母の身勝手に耐えきれない門出は、母と衝突してしまう。

どうしても親と仲良くできない。でもここまで育ててくれた恩もわかってる。その板挟みの気持ちは、誰もが経験した事ある気持ちだと思う。覚えのある痛さがむず痒かった。
ここら辺のシーンは、2011年頃の原発問題にインスピレーションを受けている様にも思えた。当時、似た様な状況だった家族が、この日本のどこかにいたのではないだろうかと思ってしまった。

ある時、母船から発射された中型船が、撃墜失敗により井の頭公園付近に墜落。被害者のニュースには、キホの名前が。

とんでもない展開に、動揺を抑えきれない仲間たち。中でも、殊更明るく振る舞うおんたんの背中が、言葉では言い表せない悲しさを物語っていた。

何より、ここのあのちゃんの演技が圧巻だった。

あのちゃんが「アニメ声」なんて今更すぎる説明だけど、実際にアニメのハマり役をもらうと、こんなにも化けるのかと驚かされた。
「いつもよりわざと明るくしてる」「いつも通りに振る舞おうとしている」という強がりの演技が、彼女のチグハグのアニメ声に合わさって、感情が強く動かされた。あのちゃんの表現者としての才能に、脱帽した。もっと色んな作品に出てほしいと思った。

【後半】


大葉に詰められたおんたんによる、追想パートがスタート。最初は、おんたんと門出が仲良くなったきっかけのほっこり物語かと思いきや、世界の真実の一部が明かされる内容だったので、驚かされた。

幼少期、おんたんと門出は塾の夏期講習で出会い、UFOを見た事で意気投合。そしてその夜、2人は宇宙人を発見し、なし崩し的におんたんの家で匿うことになる。

翻訳装置で宇宙人と会話をすると、彼は「ある意味では侵略しにきたとも言えるし、別の目的で来たとも言える」と口を開く。怯えるおんたんに、門出は「人間がそんなに悪い奴じゃないって事を分からそう」と提案する。その目的の達成のため、2人は、宇宙人が貸してくれる道具を善行に使っていく。

しかしある時、門出が道具の出力の調整を誤って列車の脱線事故を起こしてしまい、犠牲者を出してしまう。やってしまった事の大きさと、自らの正義に反する行いに大きく動揺した門出は、闇堕ちを開始する。

門出は「貴方が知ってる悪い人を教えてください」と、成敗した悪い奴から悪い奴を聞き出し、さらに悪い奴を成敗していくという、悪魔の数珠繋ぎを開始。彼女は宇宙人の道具を使って、ダークヒーローとして暗躍していく。


この闇堕ちパートの幾田りらの演技が凄まじかった。

私が今まで幾田りらに感じていた、シンガーとしての不気味さが、表現として昇華された気がした。
普通、一度聴いたら忘れない歌声には、声質に特徴があったり、節回しやリズムの取り方が独特だったりなど、何かしらの強烈な癖があると思っている。
しかし、幾田りらから「強烈な癖」みたいなものを感じたことがない。なのに、彼女の歌声は強烈に耳に残る。「綺麗すぎて、癖がなさすぎて、逆に鮮烈に耳に残る歌声」というのは初めての感覚だった。

上記は、生で聞いたことがないのも理由の一つだとは思う。しかし、彼女の歌声から「人間臭さ」みたいなものを感じたことがない。何なら、「夜に駆ける」が世に出たばかりで顔出しがなかった時、人類が生み出した最高のVOCALOIDなのかとすら思っていた。

そんな私の勝手な所感が、正義を盲信し続ける、門出の穢れなき危うさに、あまりにもリンクしていた。

改めて、主演2人の人選が大正解すぎる。声に癖がありまくりのあのちゃんと、癖がなさすぎるの幾田りらを組ませて、しかも2人に主題歌を歌わせるなんて、興行の仕方が天才だと思った。

「イソベヤン(≒ドラえもん)でデベ子(≒のび太)が嫌いだった。私だったら、もっとひみつ道具を有意義な使い方できるのに。有効に使わないのは悪で、それに気づかないのは馬鹿。」
そう自分に言い聞かせ、止まらない門出を止めたのは、おんたんだった。

「良い人悪い人は簡単に区切れるものじゃない。貴方がいじめられてたのを見て見ぬ振りした私も悪い人の側面がある。」という趣旨の彼女の言葉に我に帰ったものの、もう後戻りできないところまで罪を重ねてしまった門出は、塞ぎ込む。

「ずっと何でイソベヤンはデベ子なんかに内緒道具(≒ひみつ道具)を貸すんだろうと思ってた。もっと有意義な使い方できる人に貸せば良いのに。でもわかった。イソベヤンとデベ子は友達なんだ。私に必要なのは、友達だったんだ。」

悲痛な叫びと共に、投身自殺を図る門出。
そこで追想パートは終了。

物語は現代に戻る。
母船から放たれた中型船が、無数の小型船を発射。これまでで1番の迎撃体制を整えた政府は、フルパワーでレーザーを発射。結果、宇宙船だけ焼き尽くされた事で、無数の宇宙人が、空から降ってくる異常事態が発生。

『世界滅亡まで、あと半年』
前編終了。


何だこの終わり方。続きが気になりすぎる。
後章でどう着地させるの、これ?

終演後に行ったトイレで、隣のサブカル少年たちが話しているのが聞こえたのだが、映画では、原作のストーリーの順番を入れ替えたりしているらしい。何だよその情報。絶対に原作も読まなきゃいけないじゃん。

余りにも作者の思う壺すぎる。

最後に、物語の横断的な感想として、死に役が1人もいないのがすごかった。普通に考えて、2時間弱の映画に出して良い登場人物の数じゃない。なのに、全員に役割がちゃんとあって、且つ物語に全く無駄がなかったことに驚かされた。

例えば、「おんたんの兄」も臭い事を言う賑やかしのキャラかと思いきや、語りパートで抽象的に本作のメッセージを伝えるキャラとして、必要不可欠だった。
更に、小比類巻くんもキホちゃんの彼氏としてほっこりパートで活躍するのかと思いきや、最後の最後で世界の真実パートに欠かせないキャラになっていた。
また、石川の田舎のパートも、変わった子扱いされてしまう2人が東京に出てくる事で、後編にどう関わってくるのか見物だった。
この広げに広げた大風呂敷を、後章でどう回収するのか、楽しみでしょうがない。

何より物語の進み方として、前半の日常パートで散々笑わせておいて、後半の展開でぶん殴ってくるのが好きすぎる。ちょこちょこ笑い声に包まれていた劇場が段々と静まり返り、最後は皆が固唾を飲んでスクリーンを見つめていた様は爽快ですらあった。

絶対に後章も観に行こうと思った。

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