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ナカザワ・キネン野庭吹奏楽団演奏会と非言語対話について

ナカザワ・キネン野庭吹奏楽団の第19回定期演奏会にお邪魔しました。

ナカザワ・キネン野庭吹奏楽団とは、かつて神奈川県にあった県立野庭高校吹奏楽部のOB楽団です。数年前にあった『仰げば尊し』というドラマのモデルになりました。

野庭高吹奏楽部のことを描いた本も出ています。

ともかく、超有名校なわけです。強豪校でした。…でした。そう、今はもうないんです。2003年に統廃合されてしまいました。
学校を率いた中澤先生も1996年に亡くなっていて、多くの人に愛された野庭サウンドは一時消えかかってしまいました。それを復活させてくれたのが、今回邪魔したナカザワ・キネン野庭吹奏楽団というわけです。

この辺りのことは続編のブラバンキッズ・オデッセイに詳しいので、ご興味のある方はどうぞ。

野庭の説明はこれくらいにして。

私なんぞがおこがましいのですが、今はもう無い野庭を知るブラスっ子として、ナカザワ・キネン野庭吹奏楽団を10年以上推している者として、野庭サウンドへの想いVer.2023春を綴ります。

私はこの楽団が大好きです。

野庭高校のころから好きでしたが、当時は私が子どもだったので、好きというより恐れ多いような、別格の存在だと思っていました。いま考えれば気軽に定期演奏会とか行けばよかったんですけどね、近いんだし。一方的に近寄りがたい、雲の上の存在のように感じていました。

野庭が全国大会から遠のいた後、いろいろな学校が台頭しました。私も何度か普門館(かつて全国大会が行われていた会場。野球でいう甲子園のようなところ)に足を運んだことがあって、華々しい演奏や超絶技巧に熱い拍手を送りましたけれども。

野庭の音は、なんというか、温かいんですよね。
上手い、素晴らしいのはもちろんで。
ビリビリに研ぎ澄まされたツーン!っていう音じゃないんです。
温かくて、面白くて、心地よくて、それで上手いんです。

これは本当に難しいことです。

ビリビリに尖って上手い音は、結構あります。あと上手いけどつまらない音もあります。でも上手くて温かい音は、私は野庭以外思い当たりません。本当に稀有な、大切な音楽をいつも聞かせてくれます。そうした音を作ることが、中澤先生の教えだったのでしょう。

ここ数年はコロナで演奏会を中止したり縮小したりしていました。吹奏楽…飛沫ナシには活動できませんからね…。練習は音が漏れないように密室にするし。

そんな中で今回の定期演奏会は、久しぶりに、満員のお客様でした。客席の間隔なし。それにコロナ禍では招待客中心だったのが、今回は一般チケットも発売してくれたのかな?久しぶりに来た様子の方が多く見受けられました。

最後の曲は定番のブラジル。まだ「ブラジール!」の掛け声はやめておきますとのことでしたが、その穴を埋めるかのような熱い演奏。曲が終わらないうちから拍手が響いて…。

拍手しながら「誰かブラボーって言って!!」と思いました。
そしてすぐに「あ、だめか」と分かりました。ブラジルの掛け声も出せないんだから、ブラボーなんて叫べるわけがない。

でも。
あの瞬間、多くの人が心の中で「ブラボー!!」って言ったはずです。聞こえた気がしました。そしてそれが、指揮者の杉本先生や団員の皆さんにも届いたんじゃないかと思います。杉本先生は客席の感動を受け止めてくれているように見えました。

音楽は、コミュニケーションなんだなぁと思いました。

伝えようとしてくれる奏者と、受け止めようとする観客がいて。観客が「素晴らしかったです!」という気持ちを出すと奏者が「ありがとう」と受け止めてくれる。

あの拍手の時間は「いい演奏をありがとう」と「聞いてくれてありがとう」の往復で開場が満ちているような、幸福な感覚でした。

言葉がなくても、音楽で心を通わせることってできるんですね。
むしろ、言葉じゃない分、豊かな気持ちを通わせられるのかもしれない。
言葉にはならない、感覚的な感情を伝えるのが、音楽なのかも。
野庭の音には、その力があるように思います。

情報革命が起きて、私たちの生活は言葉で溢れています。
日々の活動も認知的なものが大きなウェイトを占めていますね。
言葉を操り、認知力をフル活用して生活しています。

それで毎日を効率的に、上手くこなしているつもりですが。
こういう時間を過ごすと「なんて惜しいことしてるんだろう」という気分になります。

言葉にならないものもあるでしょう、目に見えないものもあるでしょう。それを切り捨てて言葉面だけ帳尻あわせて「上手くこなしてるつもり」だなんて。おいおい私、一体何を分かったフリしてるんだ。

上手くやるより深く味わえ。
”ないようである”ものを感じとれるか、言葉の外にあるものをくみ取れるか…。

そんなことを考えたひと時でした。

この日のために準備してくださった楽団員の皆さんと関係者のみなさんに、改めて感謝します。本当にありがとうございました。
次回の演奏会情報は公式サイトをチェックだ!

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