わたしの太陽
昨年夏の話だ。
標高3000Ⅿを超える富士山八合五勺で、私は朝日が昇るのを待っていた。
気温は氷点下だ。それに加え、風を遮るものなんて何一つ無い中吹き付ける風は、容赦なく私の体温を奪っていく。
1時間以上待っただろうか。まだかまだかと寒さに凍えながらも、東の空がだんだんと赤く染まっていくのを眺めていた。
私は、一刻も早く太陽の温もりで身体を包み込んで欲しかった。
「早く!」
その赤は次第に濃くなってゆく。
「早く顔を見せて!」
赤く燃える朝日が恥ずかし気に顔を覗かせた瞬間、私は不思議な感覚に陥った。
「太陽が私のために昇ってきてくれた」
私もそんなにバカではない。太陽が一つしかないことなど遠の昔から知っている。
しかし、あの時私は他の誰よりも太陽を求めていた。
そして、太陽も「そう急かすな」と文句を言いながらも私の期待に応え、冷え切った私の身体を太陽は優しく包み込んでくれた。
そう。あの時の太陽は他の誰のものでもない「わたしの太陽」だった。
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