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そんな感じだった?

体を重ねて時間が過ぎる。愛という言葉で片付けていいのだろうか。この行為。でも、幸せではある。だから愛なのだろう。横でぐだっとしているこの男のことは私は好きだ。大好きだ。この男もそう思っているということにしておこう。虚しくなる。
付き合いは長い。もう5年は経った。結婚まではまだ進まないが私は進んでもいいと思っている。家族になることより先に一緒に住んでしまったのがこのダラダラの原因なのか、よくわからない。でもこの男の寝顔を見ているこの時間が意外と好きだと気づいた。月明かりに男の顔が見える。

なんかいい。待ち受けにしたい。

でもこの瞬間はきっと写真では撮れないと思ってやめた。そういう時って多々ある。肉眼じゃないとダメなんだ。そんなもんだ。
写真の温度と肉眼の温度の差。無機物は写真でも映えるが、有機物は映えない時もある。温度があるもの同士だから共鳴するのか。何故そうなるのかはわからない。などと考えているうちに私は二度寝してしまったらしい。人が動き回る音で目が覚めた。
コーヒーの匂いとパンの焼けた匂いがする。そしてたぶん目玉焼きも。

「おはよう」

とさきほど待ち受けにしたかった男が言った。男はベランダにいて、口に咥えたものから煙を出す。

「え?」

「え?」

私の「え」に呼応して「え」が返ってきた。やまびこかよ。

「たばこ吸わなかったよね」

そう彼たばこを吸わないタイプの人間だったのだ。今日までは。何かの心境の変化か?気になるところだ。

「コンポタだよ」

と彼が謎の言葉を置く。

「コンポタ?」
「コンポタ味だよ」

謎の言葉を掴んで眺める。ハッとした。あれたばこじゃないや。うまい棒だ。火をつけてあるうまい棒だ。どおり太いわけだ。

「うまい棒なんで火をつけてんの?うまいの?」
「え、不味い」

どういうことだ。不味いのにうまい棒に火をつけてたばこのように吸っている男がいる朝。

「結婚しようか」

という私の唐突なワードが静かな朝の空気をより静かにした。

「うまい棒に火をつけて吸う人を理解できるのは私ぐらいだと思うよ」

そう言うと彼はくしゃっと笑った。その顔も待ち受けにしたい。でもこんな些細な光景も肉眼というシャッターで保存していきたい。そう、私は彼と生きていきたいんだと思った。そんな朝だった。

「なんで、たばこみたいに食べてみたの?」
「いや、かっこいいかなぁーって。目玉焼き食べる?」
「もちろん」

今日も一日頑張ろう。

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