ぎりぎりやめて
木こりである僕は木を切っていたはずだった。だが今は女神のような人にすこぶる説教をされている。
「そういうのはダメだよ」
と怒られている。なんで怒られているのか全然理解ができない。商売道具である斧を下に置いて説教をされている。状況が読めない。仕事をしていたら急に「おいおい」と声をかけられた。この女神は近くの湖の中にいた。そこから出てきたかと思うと説教だった。
僕は手の握力が人より強かった。握りつぶすつもりはなくても大抵のものは握りつぶしてしまう。このコントロールができるようになったのはつい最近。大人になってからだ。それでも斧の持ち手には手の跡がくっきり残る。それくらい握力が強い。
木を切るのが仕事で木を毎日切っているのだが、木を切れなくてすかしよろける時がある。そのことに対してこの女神という人は怒っていた。
「手から斧がすっぽ抜けないってなんなの?」
と言われている。どういう意味か聞くと大抵の木こりは木を切れずにすかした時、斧が手から滑り落ちてそれが湖に落ちてしまうらしい。それでその斧をこの女神が拾い上げているのだとか。だが、僕はイレギュラーで。すっぽ抜けそうなのに抜けないからかなり拍子抜けらしく、水面から少しだけ顔を出して落ちたか確認する毎日らしい。斧も落ちてこないから結局陸に上がれずじまいででもすかしたりするからそれは見ていないといけなくてでも仕事はなくてみたいな状態のループらしく。それで八つ当たりにきたとのこと。
「八つ当たりになってるのは知っているの。大人だから。でもごめんね。本当にその握力は何?やめて欲しい。すっぽ抜けて欲しい」と先ほどよりは冷静になったのか落ち着いたトーンで言われた。
「風邪ひかないんですか?」
「え? 何が?」
「服とか髪とかびたびたですよね?大丈夫ですか?」
「これがフォーマットだから大丈夫。水の中が普通で、今この状態がイレギュラーだから。大丈夫なの」とちょいと香るヒステリー匂いがする返しをされた。そのあとぶつぶつ言いながら水の中に入っていった。水に入るギリギリで「その握力は迷惑」と言い入っていった。とんだとばっちりだった。
それからというものトレーニングを重ねてすかしをしなくなった。ちゃんと木に当てれるようになり仕事の効率も上がった。
ある日視線を感じたので見てみると対岸に女神がいた。いかにも不服そうな顔をしていた。
「落としたほうがいいんですかー?」
と僕がそう聞くとものすごく不機嫌な顔でこちらに向かって泳いできた。
どうしたんだろう。きっと今からまた説教だ。
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