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ニートが家に住むことになった。#09

どうも、この度ニートが住むことになりました。

(ヌ)断捨離

かんたくんと出会ってから、ニートが勝手にかんたくんを連れて帰ってきて飲むようになった。家に来るとかんたくんはいつも「寅女ちゃんの家はもっと良くなる」と仕切りに言い続けており、その自信げな発言に興味を惹かれついに家改造のためにかんたくんを呼び、断捨離をすることになった。
一応、ニートが来る前に一通り部屋を片付けたが、かんたくん曰く「物が多い」とのことでまずは押入れの中の断捨離から始まった。寅女はご想像通り物を捨てられない性格である。「これは?」「これは?」と一つ一つものを出して捨てるか捨てないかの判断を下していくが、最初はだいたいのものが「捨てない!」だった。そんな寅女の様子を見てかんたくんは「手にとってときめかないものは全て捨てる」と頑固な寅女を押し切って、最終的にはゴミ袋6袋くらいのものを捨てた。その後洋服も同じように一つ一つ精査し続け大量の洋服を捨てた。押入れの中や箪笥の中のものの入れ方のコツは「もの・服が呼吸をできるように。余白を持たせて配置する」ことらしい。今まで一ミリの余白もなかった雑多とした押入れの中がかなり余白のある整理整頓された場所となって、自分の心が少し軽くなった気がした。
次に棚の配置についてだ。変えたほうがいいと言われた。エアコンの風がそのままぶち当たる場所に棚を配置しており、これだと部屋の中の空気がうまく巡らない、と言われた。なるほどそういうふうに考えると言われた通りだ、と思い変えたかったのだがそこは時間オーバー、また別の日に実施することにしてその日は終了した。
自分の部屋は心の様子を表している。これまでの社会人生活、誰もが度肝を抜くぐらいの汚部屋に住み続けていた寅女の心は当然荒れ果てていた。荒れ果てていたと同時に、何をしても疲れが取れなかった。汚い部屋を掃除したいけどなかなか着手できない人はぜひ、「気の置けない友人を呼び、一つ一つのものを手に取りときめきを確かめ、ときめかないものは捨てる。捨てられない場合は友人に背中を押してもらう」ということをしてほしい。ものが少なくなって、初めてわかる。少し心が軽くなった感覚が。

次の日、稀にある出社日だった寅女が家に戻ると前日話していた棚の位置が変わっていた。ほとんど家に帰ってこなくなっていたニートが珍しくとても誇らしげな顔をしてベッドに腰掛けて私を待っていた。やってくれたの?ありがとう!!と言うと、「寅女ちゃん忙しそうだから。喜ぶかなと思って」とにこにこしながらこちらを見てきて、不覚にも少しだけキュンとしてしまう。
ただ少しだけ気づいていたことがあった。棚を移動させて掃除までして、ニートも仕事だったはずなのにそんな時間あるはずがない。なんでこんなに仕事終わるの早いんだろう、と少し疑問に思ったものの、少しのキュンのせいでそこは確認することなくその日が終了した。

(ネ)Valentine's Day

そろそろそんな季節か。ニートとは言え男性である。なんだかんだ仕事で忙殺されていた寅女に、そんな疲れている様子も目に暮れず私にどうでもいいことをぺちゃくちゃ話をし、ただのニートでありながら毎日死ぬほど楽しそうに生きている彼の様子はかなり生きる糧になっていた。そんな日々の感謝(?)を込めて、何かプレゼントしようと思った。
バレンタインの話題を寅女が口にした時、ニートがチョコが嫌いであることが判明。これはチョコを渡すよりも別のものを渡したほうがいいと思い考えた結果ニートがこの世で一番好きなお酒を渡すことにした。お酒の中で何がいいのかはよくわからないのでとりあえず新宿の伊勢丹のお酒コーナーでBallantine'sというウイスキーを購入。家で直接渡そうと思い帰宅している最中いつものように「ごめん今日も家帰らないや」と連絡が来て、寂しい気持ちでいっぱいになり何故か涙が溢れてきて、初めて「好きなのかもしれない」と自覚してしまった。

翌日家に帰ってきたニートにお酒を渡すと想像以上に喜んでくれて嬉しかった。これで嬉しいと思うだなんて、やはり好きなのかもしれないという私の自問自答を増進させた。もうこの時には当初私の家に住むことになった前提がほぼ皆無の状態であり、ただ家にニートがいて、私はその存在で寂しさをただ紛らわせているうちに、疑似恋愛のような感覚に陥ってしまっていたのだと思う。ただこの時はどうしたらいいのかわからなかった。

私があげたそのウイスキーを嗜みながら、突然「夜勤始めることにした」と言ってきた。なんで?と思ったがその時の寅女は彼への干渉をかなり諦めていたため、色々聞いた上で「そうなんだ、頑張って」と応援することにした。きっと1ヶ月間一緒に住んできて彼の思考回路もおおよそ理解できてきたと勝手に思っていたので信頼していたところもあった。冷静になるとどこに信頼できる要素があるのか教えてほしいが、人間とはそういうものらしい。近くに居ると見えなくなるものがある。愛着が生まれてくるとなんとなく信頼してしまうのだ。

その後、本当に夜勤生活がスタートした。朝の5時頃帰宅して、寝ているニートを横目にそっと仕事をし始め、私が仕事をしている最中にゴソゴソと起き始めてクソ眠そうな顔で家を出ていく日々だった。それまでニートと話していたたわいのないおしゃべりの時間が急に皆無になった。ただただ仕事中に大きないびきをかきながら寝ている男に変わってしまったのでなんとなく嫌な気持ちになって、「夜勤やめてほしいな」と伝えた。すると意外にも素直に「わかった、明日やめてくるよ」と言われ翌日。

(ノ)ニート、ホストになっていた。

その日は土曜日だった。起床するとマッシュ男から1枚のスクショが送られてきていた。ホストのInstagramアカウントで、誰?と思ったがよく見るとアイコンの顔写真がニートだった。もう一度言う。アイコンの顔写真がニートだった。マッシュ男も何も知らないらしく、ただ”おすすめのアカウント”に出てきた模様で「本当に本人かはわからない」と言っていたがアカウント名がニートの誕生日と完全一致していたため本人説濃厚だなと思った。
よく考えると夜勤なのに「歌舞伎町の近くで時給1600円」「ネクタイしていかないといけない」「革靴を履いていかなければいけない」などの謎発言を連発していた挙句、見た目について注意されたから髪の毛切ってくると言って急に散髪屋に行ったり、痩せなければいけないと言って激務で疲弊している寅女を夜中に連れ出して近くの公園を全力ダッシュで走らされた挙句、散髪屋で眉毛剃ってもらえなかったから整えてくれない?とお願いされニートの眉毛を整えてあげたりしていた。それまで見た目を気にしているそぶりは微塵もなく、毎日コールセンターのバイトにもスウェットで通っていたのにも関わらずだ。また、さらによく考えてみると毎朝ニートを起こそうと思って近づくと酒と香水が混ざったなんとも言えない夜の匂いがプンプンしていたし、髪の毛は明らかにワックスで固めた後でカピカピになっていた。総じて「ホストであること」と言動が一致しすぎていて、してやられた!と少し悔しい気持ちが込み上げてきた。
その後すぐに、「嘘をつかれていた」ということに対してものすごく腹が立ってきた。すると社長から「コールセンターもやめてるとかないかな」と返信があり、さらにイライラしてきた。元はと言えば彼が生活を立て直すためにまずは固定給が入る職につかなければいけないというところから、忙しい中一緒にバイトを探してあげたのに、辞めたことを一緒に住んでいる私に言わないなんてまじで人のこと舐めてるだろ、と怒りを爆発させたが社長に「まあ事実わからないし夜勤は辞めたと言っているので3日経過観察と行こう」と言われ、一旦落ち着くことにした。

ちょうどその日はかんたくんと2人でご飯に行く約束をしていた。集合して開口一番この話をして、「社長からは経過観察しようと言われたけど、モヤモヤするんだよね」と言うと「寅女ちゃんが我慢するのが一番良くないからモヤモヤするなら言ったほうがいい」と言われ、その日仕事終わりのニートを呼び出し3人で夜の新宿中央公園に向かった。

適当な場所に腰をかけ、マッシュ男から送られてきたスクショを見せて「これニートくん?」と聞いた。「そうです」と言われた。嘘ついていたことが明らかになったので、怒りが大爆発し持っていたペットボトルのお茶をぶちまけて「人のこと舐めるのも大概にしろよこ○すぞ」「今すぐ家出て行ってよ、そんなしょうもない嘘つく奴なんかと一緒に生活なんてできない」「二度と目の前に現れないでほしい」と叫んだ。
一通り私の怒りが落ち着いてから少し冷静になって話を聞いてみると、
「嘘をついたことをその日から毎日後悔していたが、日が経つにつれてどんどん言えなくなった。職がない、と言うことに対して焦っていて、なんとかして自分でどうにかしようと思っていたが職探しの仕方が全然わからない。寅女ちゃんに相談したかったけど言えなくなってしまったので苦しかった。」
「目の前のことに飛びついて、後先考えずに行動してしまった。ホスト始めてから社長と寅女ちゃんに申し訳ないと言う気持ちでいっぱいだった。でも目先のお金を稼がないとと思っていた。」
「かんたくんには事前にホスト始めることも辞めることも申し訳ないと思っていたことも全部言っていたから今日2人で遊んでいるのを聞いて絶対その話をされているだろうと思った」

「でも同時に、寅女ちゃんからその話をしてくれた、、、ということに少し救われた。言い出したかったけど言えなかったから。」
「とにかく本当に申し訳ない。次から絶対嘘つかないし、チャンスがあるならもう一度だけほしい」

そこまで聞いて、寅女「他に嘘ついていることないの」と聞いたら「ない」と言ったので「コールセンター、辞めてないの?」と聞くと黙りこくり始めた。

この短時間で嘘をつかれたらもうどうしようもない。半分以上諦めて何故辞めたのかを聞くことにした。以前、何度も寝坊で遅刻していたがあまり怒られなかった♪と言う態度で寅女を困惑させていたことを記載したが、実際は会社の偉い人にブチギレられておりもう次寝坊したら最後と言われて後がなかった状態だったらしい。なのにも関わらずご想像通り寝坊し、クビになっていた。家に帰ってこなくなったのも納得した。きっと寅女と顔を合わせるのが気まずくて家に帰りたくなかったのだろう。よくよく聞くと夜道を歩きながらスト缶を飲んで適当な公園で野宿したりしていたらしい。また、辞めていない体裁を守るために本当は仕事がないのに私に起こされとりあえず家を出て、家の近くの図書館で7時間ほど過ごしてから、家に帰宅していたらしい。本当の馬鹿とはこのことだと心から思った。クズすぎて言葉を失った寅女。ただ、それでもこれまで一緒に住んで、彼のことを本気で応援してきたことは認めたくないけど確かな気持ちだった。悲しかった気持ちを涙ながらに伝えるしかなかった。今思うと無様な姿だ。

とりあえず話が落ち着いたので一旦一緒に家に帰り、次の日社長とマッシュ男と4人で話をすることになった。


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