御前田次郎

おんまえだじろう。怪談朗読家、怪読師。竹書房主催 第一回怪読戦優勝。

御前田次郎

おんまえだじろう。怪談朗読家、怪読師。竹書房主催 第一回怪読戦優勝。

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  • 怪談奇談

    御前田次郎が書いた怪談および不思議な話をまとめています。ほとんどが創作ですが、実際にあった事象が紛れ込んでいるかもしれません。

最近の記事

夢で感じた重み

 夢を見ている時、人は身体的な実感をどれくらい感じるのだろうか。脳内で起きているだけだから身体実感なんかあるわけがないとお思いかもしれないが、そうでもないらしい。少なくとも私の場合はそれを感じることが多い。  たとえば地を蹴って空を飛んでいるときの浮遊感。美女と抱き合っているときの肉感。走って逃げなければならないのに足がなかなか前に進まない時の足の重さ。それ以外にも尿意を感じながらトイレを探すシーンにはよく出くわすが、これは現実に起きている感覚なので除外すべきかもしれない。

    • コーヒー豆の怪

       私は無類のコーヒー好きで、豆を自分で挽くのは勿論のこと、休日は生豆を買い出しに行って自宅で焙煎することも多い。  ある日曜日、私は行きつけの豆店に稀少な豆が入荷したとの情報を得て、勇んで買いに行った。限られた狭い地域で生産されており、今年の豆は特に出来がいいという。早く飲んでみたいと、帰宅するとすぐ焙煎器に入れて火を掛けた。弱火で水分を飛ばし、それからやや火を強める。この辺りで豆のはぜるパチパチという音が聞こえだす。私はこの音が大好きだ。この豆はどんな音を奏でてくれるのか。

      • 母に会えたら

         私には霊感がないらしい。そもそも霊感の厳密な定義など分かっていないのだが、霊を見たことも怪しい声を聞いたこともないし金縛りにあったこともないので、とにかくその類の鋭い感覚を持ち合わせていないということだけはわかる。  それでも何年か前に広島の平和記念公園で慰霊碑の前に立ち、真っ直ぐに正面を向いた時にぞわぞわっとしたものを感じたことはある。それが霊感というものなのかは私には分からないが、全くゼロというわけではないのかもしれない。  そんな私に図らずも自分の霊感を試す機会があ

        • クリスマスね

           年の瀬も迫った冬の夜、彼女と近所の公園を歩いていた。人もあまり通らない小さな公園にもかかわらず木々が青白くライトアップされている。こんなの税金の無駄遣いだよなと思いながらも枝の形に広がる冷たい光を見上げていた。彼女は俯いて歩いている。さっきからずっと俯いている。すると突然、 「××××ね」  彼女が俯いたまま何かを囁いた。 「クリスマスね」  おそらくそう言ったのだろう。何をあたり前のことを、街中クリスマスムードなのに今さら気づいたのかと思ったが 「そうだね、クリスマスだね

        夢で感じた重み

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        • 怪談奇談
          10本

        記事

          さよならビッグマウス

          最近、私はツイートで大口叩くことが多くなっていた。ほとんどは怪読戦を前にして意気込んでいたのだが、恐らく受け手との間の温度差が大きく、冷やかに見ている方も多かったのではないかと思う。こういう態度は当たり前ではなく自分でもどうしちゃったんだと思っていた。 まずベースには強い思いがあって、怪読戦、特に私のパフォーマンスに期待を持って頂きたいということ。いつもなら強い言葉をストレートにぶつけずに捻った言葉でインパクトを残そうとする。だが今回は現王者ということもあって勝利を確信した

          さよならビッグマウス

          会議卓は踊る

           この話は友人のHから聞いた話であるが、90パーセント嘘ではないかと私は思っている。なぜなら彼はお調子者を絵に描いたような人物で、私は彼の景気のいい出まかせに何度騙されたか分からないほどなのである。それでもたいへん興味深い話だったので、かなり脚色しつつもここに紹介することにする。  Hが勤めるIT企業の会議での出来事である。プロジェクトの方向性を決める大事な会議であるが、なんとも重苦しい空気が漂っている。部長――実際はカタカナの長い肩書きらしいが忘れてしまったのでこうしてお

          会議卓は踊る

          告ックリさん

           これは、ある二十代の男性――名を優斗さんとしよう――彼が小学六年生の時の話である。  ある日、クラスの男の子四人でコックリさんをやろうということになった。優斗はその中の一人だった。  放課後の教室。やり方を詳しく知っているのは翔太という子だけだった。彼はリーダー的な存在で生意気な態度も多く、ルールを説明するのもシート作りを指示するのも得意気だった。  さあ、はじめようと、鳥居の記号の前に十円玉が置かれた。四人が指を乗せ、視線を合わせてうなづき合う。 「コックリさん、コック

          告ックリさん

          虫の命

           三十代の主婦A子さんは、とある動物愛護団体に所属している。そういった団体は数多あるが、A子さんが入っているのは主に犬猫の殺処分を問題にしている団体であるという。  ある日の午後、A子さんは市民ホールで開かれている集会に参加していた。著名人の講演がメインのイベントだったが、その後で一般の会員による自由なスピーチの時間が設けられ、A子さんも登壇して思う所を話した。  集会が終わって会場を出ると「スピーチ良かったですよ」と何人かに声を掛けられた。気分を良くして歩いていると、後ろ

          私がメーテルになった日

           友人のSは古くからの松本零士ファンである。彼の部屋に遊びに行くとコミックが全巻ずらりと本棚に並べられ、別の棚にはキャプテンハーロックなどの人気キャラクターのフィギュアやメカの模型がびっしりと並べられている。  数ある作品の中でSが特に好きなのは『銀河鉄道999』だそうで、コミックとテレビと映画の違いなどは何度聞かされたかわからない。そればかりか、車のナンバーを999にしているほどである。  ある時、私は近所――と言っても自宅から十数キロ離れたところにホテルの廃墟があると知

          私がメーテルになった日

          これからの御前田 ―活動の方向性―

          私、御前田次郎はこれからどうしようとしているのか。怪読師として得意分野の朗読で勝負し続けるのか。それとも、怪談の世界のど真ん中に入って行って怪談師として実話怪談を語り、賞レースで優勝を狙うのか。そのために怖い話を蒐集するのか。怪談を執筆するのか。期待と興味を持っている方もいらっしゃるかもしれないし、お前のことなんか興味ないという方がほとんどかもしれない。さて、これから先どうなるのだろうか、私自身も分かっていないのである。 いや、そういうわけにもいかないので、この辺で進む道を

          これからの御前田 ―活動の方向性―

          怪談・怪読の記録(2024/3/30更新)

          2024.3.30 朗読「怪談の法則 イントロダクション」(文:糸柳寿昭) @怪談社「怪談の法則」雷5656会館 ときわホール 2023.12.29 朗読「母に会えたら」4分(作:御前田次郎) @「【怪談朗読】母に会えたら」YouTube 2023.12.24 朗読「クリスマスね」4分(作:御前田次郎) @「【怪談朗読】クリスマスね」YouTube 2023.11.26 朗読「異形」6分(作:糸柳寿昭?) @「まつり2023 怪読戦決勝」東医健保会館大ホール 2023

          怪談・怪読の記録(2024/3/30更新)

          引っ越し

           雅江の部屋がいわく付きの物件であることを知ったのは彼女が入居して三ヶ月経った頃だった。雅江とは女子大の時からの親友で、お互いの家に泊まることも多く、自分の家よりも居心地が良く感じるくらいだった。ところが今度の部屋はちょっと違った。胸がざわついて落ち着かなかったり、寝苦しい夜を過ごすことも多かった。  そして五回目に泊ったとき、胸騒ぎが具体的な形となって姿を現した。私たちと同じくらいの若い女の姿が壁際にぼんやりと浮かんでいた。雅江は隣りでスヤスヤと寝ていた。翌朝、雅江に訊いて

          怪談最恐戦2022 怪読戦 参戦記

          2022年10月9日に実施された、竹書房Presents「怪談最恐戦2022」怪読戦において、私、御前田次郎が優勝することができた。せっかくなので私が何を考えてどのように関わってきたのかを、自分の中の整理も兼ねて、ここに記そうと思う。 怪読戦とは怪読戦の前に怪談最恐戦を知っていただく必要があるだろう。怪談最恐戦とは、竹書房が主催し、プロ・アマ問わず応募できる怪談コンテストである。「日本で一番恐い怪談を語るのは誰だ!?」をキャッチコピーに2018年から開催されている。 この

          怪談最恐戦2022 怪読戦 参戦記