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コンサートミュージシャンの新たな可能性-クラシカルバーチャルピアニストお披露目会見レポート

バーチャルピアニストがオーケストラとリアルタイム共演して「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏する!?
今年3月に行われたフェスタサマーミューザKAWASAKIのラインナップ記者発表会では文字だけではよくわからないその情報にメディア側も戸惑いを隠せない様子でした。
6月26日に行われた今回の「お披露目会見」では、実際にそのバーチャルピアニストとオーケストラによるリハーサルが見学できるとあって、何が起こるのかワクワクしながら会見場であるミューザ川崎シンフォニーホールに向かいました。

ポルタメタプロジェクトとは

KADOKAWAとドワンゴは、クラシック界初となる「バーチャル上に精密に楽器演奏者を再現する」技術を導入したバーチャルアーティスト開発を行うプロジェクト「ポルタメタ」を2023年10月に始動しました。今回その第1弾アーティストとしてバーチャルピアニスト「潤音ノクト」(うるねのくと)が川崎市フランチャイズオーケストラ東京交響楽団と8月にミューザ川崎シンフォニーホールで共演します。

ホールに入ると、正面に大きなモニターが設置され、ウェルカム演奏として「華麗なる大円舞曲」を演奏する潤音ノクトさんの姿がありました。このバーチャルピアニストは、実際には実在の人間が弾くピアノをステージ上でバーチャルのキャラクターがリアルタイムで再現する(この言い方でいいのかどうかわかりませんが)ものです。画面上のキャラクターは、その指先や顔の表情まで全身が、その実際には存在する人間のピアニスト(なんだかまだるっこしい言い方になりますね)の挙動を反映しています。
しかしソロ演奏なら正直言って録画でもわからないのでは?と思っていたら、続いて「ラプソディ・イン・ブルー」のリハーサルが、クラリネットのポルタメントが印象的な前奏から始まりました。そういえば、ポルタメントとポルタメタって似てるな。。
オーケストラが盛り上がって、いよいよピアノの出番。

正面が潤音ノクト。ピアノが一部欠けているのは、本番には解消されるそう。

おお!タイミングばっちり!
音はスピーカーを通してのものですが、そこにあるオーケストラとバーチャルピアニストはグルーヴを共有し、違和感なくリアルタイムで共演していました。
本プロジェクトの要でもある指揮者の原田慶太楼さんは会見の中で、絶対にディレイ(遅延)がないことが共演の絶対条件であり、技術チームに厳しく要求したということを明かしていました。映像や会話だけならば、多少のディレイは様々な配信を見る中で許容する感覚もあると思います。ですが、何十人もの生身の人間が全身感覚を使って同期する「オーケストラ」という芸術の中にバーチャル演奏者が違和感なく入っていくということは、文字通り「ゼロ遅延」でなければ成立し得ません。

本プロジェクトのために開発された様々な技術が投入されている

本番は、日本最大のオーケストラフェスティバル「フェスタサマーミューザKAWASAKI」のフィナーレ公演という大舞台。もちろん有料でチケットを購入する耳の肥えた聴衆を満足させるクオリティを徹底的に追求していることが、関係者のコメントからも伝わってきました。

ミュージシャンの新たな可能性

今回の会見で、ポルタメタプロジェクト側が目指すビジョンとして「グローバルな展開」と、「才能発掘の場」ということが掲げられていました。
キャラクタービジネスを目指すのではなく、年齢や性別、国籍などを超えて技術や表現だけで勝負することができる新たなキャリアの可能性がこのバーチャルピアニストにはあるとのこと。確かに、学歴やコンクール歴はその人の実績を示すものではありますが、現在の実力を示すものとは必ずしも言えませんし、そうした肩書などを抜きにして、新たなキャラクターを創出していくというのは全く新しい試みだといえます。
YouTuberピアニストとも違う、既存の形態のコンサートに入り込んでくるバーチャルピアニストという存在はそれだけで新規性がありますし、見た目や衣装、背景は自由だし、海外からもディレイなしで共演できるとなれば、国や地域の文化に合わせた展開もでき、移動せずともグローバルに活躍できるピアニストが生まれる可能性もあります。

フォトセッションの様子

イノベーションを起こすオーケストラ、起きるまち

会見でも少し触れられていましたが、東京交響楽団は、2020年コロナ禍で来日できなかった音楽監督のジョナサン・ノットが指揮をした録画映像でベートーヴェンの「田園」の演奏に挑戦したことがあります。それも、フェスタサマーミューザKAWASAKIの公演でした。

指揮者が来日できず、録画された指揮の映像で演奏を行った

あれから早4年、オーケストラと遠隔で共演するということが技術の発展によってもはや現実になりつつあるということに、驚きを感じます。
オーケストラは伝統的な芸術分野ではありますが、こうしたイノベーティブなプロジェクトは東京交響楽団の持つチャレンジ精神から生まれてくるものであり、それが「音楽のまち・かわさき」で行われているということにワクワクします。原田さんによれば今回の曲目も、川崎市市制100周年を契機に、初演から100年となるガーシュウィンのラプソディ・イン・ブルーの演奏を構想したそうです。まさに記念すべきステージになりそうですね。

コロナ禍で起こった様々なチャレンジは、いわばマイナスをゼロにするものでした。しかし今起こっていることは、ゼロを1にも10にもする新たなステージだと実感する会見でした。
本番は8月12日、ぜひお見逃しなく!


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