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変化の種を見つけ育てる

 閉館の看板がついたホテルの前を通り過ぎ、ふと思った。

 「いつも同じで、10 年変わらぬ上質さがあったホテル。出張の数少ない楽しみでもあったあのオムレツはもう食べられない」。だが撤退の原因は、他社との戦いに敗れたのでも、ホテル事業以外が足を引っ張ったのでもない。完成系としてのサービスを守る姿勢が変えてはいけない枠として働いていたように感じる。

 水が温まり熱湯に、湯が沸騰して水蒸気に変わるような変化がサービス・イノベーションである。同じ作業の繰り返しからは、変化が生まれないのは明らか。日々の仕事が変化へのインプットにならなければ、新たな仕事は特定の人頼みとなる。最も力を注ぐのが開業した年で、徐々に評価が下がっていくことにもなりかねない。

 残念ながら多くの現場にあるのは作業である。変化の役割とは、期待されていないのが実情ではないだろか。典型的なのがかつてのダイエー。本部主導の経営は現場の気づきや違和感を封じ込めていた。たとえそれが、革新の種になるものであったとしても、現場から離れたジャッジは、生活者である
主婦の欲求から徐々に離れていった。

 自分たちが築き上げてきたものが、時に変化の足かせとなることがある。
上質を守るためのルールが新しさへの動きを縛る。サービスをつくりあげていく過程にはトライアンドエラーの創造が伴うからこそ人や場が輝いて映る。その時マニュアルは最低限の守ることであったはずだ。

 そのホテルはいつも同じであった。ここ10 年変わらぬ上質さがあった。私のようなたまの宿泊客には、なつかしさに映るサービスは、週に一度、月に数回訪れる人にとって代わり映えしない日常になっていたのだろう。ではどうすれば、現場オペレーションとイノベーションはつながりはじめるのだろうか。

 決して難しい仕組みは必要ない。現場での二つの気づきをもとにサービスを、マニュアルを見直す習慣がつくれればいい。二つの気づきは、くやしさとうれしさを感じた出来事。くやしさを感じる葛藤の中に乗り越える課題が、うれしさを感じた瞬間に再現性を高める価値が隠れている。

 いつも新しさを提供できている企業ほど、感じたことを振り返りその意味を考えている。昨日お客さま接点で感じたこと、思ったことを出し合いながら真の改良点を探っている。例えばレストランAは、開店までの2 時間を昨日の出来事の振り返りにあてている。自分たちのサービスを深化させていくための対話を行なっている。

 昨日のうれしさはみんなでできるサービスに加わり、くやしさは乗り越えるべき課題として今日の実践での試行錯誤がはじまる。

 最良のサービス。ここに正しい答えはない。ないからこそ、かかわる人の知恵を集める対話が正しい答えに近づく対策になる。マニュアルに書かれたサービスコード、開業時のコンセプトは過去にあった答えである。守るのは大切だが、過去を生きていては変化を起こせない。

 今日と未来をつなぐ、オペレーションと変化をつなぐ媒介は、足元にある気づき、くやしさとうれしさの意味の振り返りでできていく。

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 okamura.ippin@gmail.com


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