27:ヨシノさんとの出会い

※登場人物は全て仮名です。また一部詳細を変えています。

夏、イナダさんのお店である"あの"Bar主催でバーベキューが行われた。

"あの"Barに通って8年になるが、この様なイベントを主催しているとは知らなかった。

Barのスタッフであるメグミちゃんが声を掛けてくれたものに、二つ返事で参加を決めたものだった。

のちにメグミちゃんから、こんな連絡があった。

このバーベキューに、ヨシノちゃんも来るんだって。

もう、コガくんやマイちゃん、ヨーコちゃんやユミコさん、クボさんやヒロ…誰ともエミちゃんの話をしなくなっていた時期だった。
話はしたかったが、もう出来ない雰囲気になっていた時期だった。

そこに、エミちゃんと関わりが深かった人が突如現れた。

エミちゃんと凄く仲が良かった、どこに行くにも何をするにも一緒だった、自他共に認める親友同士だった、しかし男が原因で仲違いしてしまった、少なくともナオさんやユミコさんなど、お店界隈の人はみんな、二人が仲が悪い事を知っていた、それがヨシノさん。

コガくんはこう言っていた。

エミちゃんは前に、女は苦手…って言ってて、実際に女の友達もほとんどいなかったみたいなんだけど、ひょっとしたらその親友との事を気に病んでたんじゃないか、と。

そして、ヨーコちゃんもこう言っていた。

私はエミちゃんに、本当に友達として接して貰えてたのかわからない、と。

エミちゃんと遊びに行った時に偶然ヨーコちゃんと会って、ヨーコちゃんを飲みに誘った事があった。ヨーコちゃんは一緒に来て、一緒に3人で楽しく飲んだ。

ヨーコちゃんと別れたあと、エミちゃんはオレにこう言った。

ヨーコちゃん来てくれて良かったね~。
ヨーコちゃんはお店の人だし、来てくれないかと思った。

耳を疑った。
お店の人って何?と。

何度か書いているように、ヨーコちゃんはBarのスタッフをしている。
もちろんアルバイトで、それを本職にしているわけではないが。
Barでは、ご挨拶の様に"一杯どうぞ"と、その日のスタッフに1杯奢るのが、なんとなくの慣例になっている。つまり、スタッフが酔っ払ってる日は、お店が繁盛している一種のバロメーターみたいなものだった。

そうやっていつも、お酒をご馳走してる間柄だから、そうではない今日は来てくれないかも、という意味合いだったのだろう。

言ってる事はわかる、しかしそれはオレには理解出来ない感覚だった。
確かにヨーコちゃんはBarで働いているが、それで生計を立てている訳でもないし、ましてやキャバ嬢やガルバの様に、一緒にお酒を飲む事をサービスとして売っている訳でもない。

エミちゃんの事で知らない事は多かったが、知ってる上で理解出来なかった数少ない感覚がコレだった。

もちろん、ヨーコちゃんには、エミちゃんがそんな事を言ってたなんて口が裂けても言えないが、ヨーコちゃんは感じ取っていた。

そんなエミちゃんを作り上げる原因になったかも知れないヨシノさんが来る。

しかし、それなりの大人数が立食で交流するバーベキューというイベントの性格上、幾ら常連達しか来ない酒場主催イベントであったとしても、来ている全員と話す訳でもないし、改まって自己紹介をするわけでもない。

必然と知ってる同士でつるむし、知らない人と接する時も、酒飲みのフィーリングで何とかなっちゃうものだ。名前を知ってる必要すらない。

そんな中で、エミちゃんを知ってる同士、という理由で接点を持つことも難しいだろうし、何ならそんな事をするつもりもなかった。

遠目に見たヨシノさんは、小柄で華奢でラフで髪をベリーショートにしたボーイッシュな感じで、年齢はオレやエミちゃんより少し上に見えた。

華奢な点は同じとしても、長身でいつも女の子らしくも派手ではない落ち着いたファッションをしていて、髪も長かったエミちゃんとは見た目だけを見れば正反対だった。

ヨシノさんはメグミちゃんと飲んでいたが、一瞬メグミちゃんの視線につられる様に二人一緒にこっちを見た。

そして、結果的にヨシノさんの方からオレに接点を持って来た。





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