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ドラえもんとインフルエンザの思い出

わたしの実家には、特番のドラえもんだけを録画したドラえもんスペシャルビデオがあった。
テレビでドラえもんスペシャルが放送するたびに、両親がこまめにビデオテープで録画してくれていたものだ。
わたしはギリギリビデオテープに触れていた世代で、ギリギリのぶ代ドラ世代。途中でわさびドラに変わった世代だ。声を聴いている長さでいえばわさびドラのほうが長いけど、のぶ代ドラの声もちゃんと覚えている。
そのドラえもんスペシャルビデオは、ふだんはラックにしまってあって、あまり観る機会がなかった。当時のわたしは外で遊びたがるお年頃で、家のテレビの前で何時間もじっとしていられなかったのだ。

ふだんは観ないけど、年に数回、必ずそのビデオを観る機会があった。
それが、インフルエンザで寝込んだときだ。
幼いころのわたしは、必ず毎年インフルエンザをはじめ、強めの風邪や発熱で寝込むことがあった。外に遊びに行けず、身体を動かして本を読んだりゲームをしたりすることもできない。
そんなとき、身体を動かす必要もなく、ベッドの中からでも楽しめたのが、このドラえもんスペシャルビデオだった。
身体を動かせないくらい具合が悪かったときは、ひたすらドラえもんを観ていたので、わたしの中では「ドラえもん=インフルエンザ」みたいな式ができあがっていた時期があった。

当然、スペシャルだから2~3時間ほどの放送時間で、放映されるお話も数が多かった。そのスペシャルが3本も4本も録画されていたわけだから、それはもうたくさんのお話がビデオに入っていた。
もうそのほとんどを思い出せなくなってしまったけど、いまでも心の中に残っているお話が2本だけある。

それが、『人生やりなおし機』と『のび太は独裁者?!』だ。




人生やりなおし機』は、読んで字のごとく、のび太が人生をやりなおそうとするお話。同名のひみつ道具も登場する。

今回は教訓うんぬんはさておき。
これを観ていた当時のわたしは、たぶんのび太と同じくらいの年齢。それなのにもかかわらず、「わたしも4歳くらいに戻れたらなあ」と発熱でふわふわした頭の中で妄想をしていた。
いまとなってみれば、小学5年生なんて本人の頑張り次第でどうとでもなるじゃん、と思ってしまうが、当時のわたしは自分を取り巻くいろいろに諦めかけていたような気がする。何に諦めていたのかも思い出せないけど。
なんかこう、生きづらさというか周囲の友だちと根本的に馴染めないと自覚したのがこの時期だっただろうか。

寝込んでいるとき特有の心細さや幼いわたしの仄暗い感情と、『人生やりなおし機』のお話のちょっと不気味な怖さが記憶領域のへんなところで紐づけられた結果、いまでも心に強く残っているのかもしれない。

というか、のぶ代ドラの時代って、けっこう不気味なお話あったよね。
わさびドラになってからちょっとマイルドになった気がする。




続いては『のび太は独裁者?!』というお話。
登場するひみつ道具は「どくさいスイッチ」。こちらは有名なお話だと思う。

このお話も怖かった。
観たのは『人生やりなおし機』と同じ時期。だから、同じように周囲との関係について悩んでいたのだと思う。
スイッチひとつで気に入らない人間を消し去ることができるって素晴らしくない?
そう思うくらい嫌いな人間が周りにいたのだろう。
人間関係に頭を抱えるのは昔からだったみたい。

お話の中で、のび太はいじめてくるジャイアンをスイッチで消してしまう。そうしたら今度はスネ夫がいじめてくるようになり、そのスネ夫を消したらまた別の人が、その人を消したらまた別の人が……みたいな状態に陥る。
嫌いな人がひとりいなくなっても、今度はノーマークだった別の人が台頭してきてその人も嫌いになる、みたいな。
お話を観ていた当時のわたしは、そんなことあるわけなくない?と思っていたけど、年齢が上がるにつれてちょっとずつ理解できるようになる。そして最近になってとうとう、これが事実だという確信を得たのだ。

職場にどうしても相容れない上司お互いに嫌いあっている同僚など、正直いっしょにお仕事したくないなあという人が何人かいた。
これはただのラッキーな話なんだけど、わたしが入職した年から数年をかけ、その人たちはみーんな異動や退職するなりしてほんとうにいっしょにお仕事をすることがなくなった
そのときは「これで楽に呼吸ができる」と思っていたけど、そういう人たちがいなくなったあとは、そういう人たちに抑圧されていた別の人たちが本性を現してくるようになった。これまでは、いっしょにお仕事できて嬉しい!と思っていたはずの人でさえ、わたしは嫌いになってしまった。

ふと「どくさいスイッチ」のお話が頭をよぎった。
あ、あれってほんとうの話なんだ。
十云年ごしに、お話の本質を理解したのだった。

そんなこんなで、『のび太は独裁者?!』は実体験も伴って心に強く残ったお話になった。

余談だけど、我が家では「どくさいスイッチの話みたいに~」とエピソードのたとえとして使っても通じるくらい浸透している。
友だちには通じなかった。




昔ほど盛大に寝込むような風邪をひかなくなった。
インフルエンザをはじめ、季節性の感染症に罹ることもぐんと減った。

もし、今後インフルエンザや他の感染症に罹ったとき、わたしは何を観て時間を潰すのだろうか。
いまはドラえもんスペシャルビデオも手元にない(何かのついでに処分しちゃったかも)。なんならビデオデッキもない。
場所や道具を問わないYouTubeもあるし、Netflixもある。
うーん。今度寝込んだときに決めよう。そのときの気分ってあるし。

それにしても、手軽に時間を潰せるようになった。
一方で、なんだか味気ないなあとも思う。
場所も道具も必要だけど、その物でしか感じられないよさもあるよねってハナシ。

今回はこんな感じでおしまい。

おつかれ。


(わさびドラに交代してからぼちぼち20年だって。そりゃわたしも歳をとるはずだ……)