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あの頃は〇〇なんて無かった

早く帰りたいっ。
クラスの悪友に「土曜日に”週刊少年ジャンピング”を売る駄菓子屋がある」と聞いたからだ。


本来は月曜発売のジャンピングを土曜に読めるだと!?。僕は大きな魅力を感じていた。
ランドセルに教科書をしまうときからそわそわしていた。


「昼食べたら、お前んち行くわ!」


友人と熱い約束をし、帰路についた。


「ただいまぁ!」
「あおかえりー!ほんなら作り始めるわぁ」



ランドセルを置きに部屋行こうとすると、何かが焼ける音がする。
ジュジュジュジュジュジュ・・・・・・
ジャンピングも読みたいが、今は腹が減っている。気になるのは昼食のメニューだ。


今日はチャーハンだった。


僕にとって、チャーハンは家で食べるものだ。
中華料理屋へ出かける時は、エビチリやチャーシューメンといった家では作れないものばかり食べていたのだ。

チャーハンはすぐにできあがった。
中華鍋や大きなお玉など、家にはない。
だからドーム型ではなく、ドンブリに無造作に盛られた一般家庭式チャーハンだった。


具材は、タマゴ、ネギだけである。
チャーシューやウインナーといった肉系のものは一切入っていない。

スプーンですくい、口に運ぶ。
金属製だったので、スプーンはすぐに熱くなる。
下唇を火傷しないように気をつけた。

キャプチャ
(フリー素材)


油によってカラリと焦げ付いたネギ、ふわふわのタマゴ、そして一粒一粒が中華味に包まれた米が口中で混ざり合った。
レンゲと違って一度にすくえる量が少ないため、右手をひたすら動かす。

食欲が落ち着いたら、おかずにも手を出す。
肉系のものがないチャーハンだったので、それを補うおかずの役割は重要である。


今回は、シャウエッセンである。



肉系おかずの中では、最高クラスだ。
祭りの屋台で「フランクフルト」が売られているが、シャウエッセンの屋台を出した方が絶対売れると思う。

シャウエッセンは“ボイル焼き”してあった。
ボイル焼きとは、少量の湯でボイルし、湯が蒸発しきってなくなったら焦げ目がつく程度に焼く調理法である。


ボイルによって脂肪分や旨味成分が溶け合い、焼きによって焦げ目の香ばしさが加わる。

キャプチャ
(フリー素材)

そのシャウエッセンを半分の長さでパリッと噛み切ると肉汁がピウッと飛び出した。
シャウエッセンを咀嚼しきってしまう前に、チャーハンを口中に入れ込むと、動物的アブラの旨味が加わり至福のひとときを過ごせた。


チャーハンのベースとなった味は、永谷園の粉末である。
このころはウェイパーや香味ペーストという手軽に本格中華の味を出す調味料なんて無かった。
だが、それでも十分に楽しめたのだ。


 
食後の一服をすることもなく、友人の家まで自転車を走らせた。
駄菓子屋に連れて行ってもらうと、本当に週刊少年ジャンピングがあった。


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