見出し画像

日本料理とかつお節の分岐点(仮)

 どこから書いていいものか、どうタイトルを付けてよいのか非常に悩ましい議題ではあるのだが、とりあえずの(仮)。

 最近かつお節を削るようになった分際で書くのもおこがましいが、常々思っていたことを書く。これを見た生産者と日本料理人は少し嫌な思いをするかもしれない、仕方ない。

 この話の原点は、僕の周りにはかつお節を削っている人がほとんどいない、そして皆さんの周りにももうほとんどいないであろうということだ。まぁいるところにはいるのだが、ほぼ珍獣なほど希少だ。
 ここ数年、日本料理人やかつお節業者が忙しなく「日本の技術、伝統文化、日本の味を残す!」と息巻いているとおり、ものすごい勢いでかつお節の消費量は減少し続けている。データによると、2000年から2015年の15年間で3割減少という危機的状況だ。

だが、彼らは果たして本当に、
「日本の技術、伝統・文化、日本の味を残す!」と思っているのだろうか、
(はい、荒れ)

 かつお節の消費量が減少している背景は、端的には手間とコストの問題だ。というか、むしろそれしかない。白出汁、ほんだし、パック出汁、固形コンソメから何々の素まで、手間とコストを極限まで削減したライバル達のオンパレード。上記リンクデータの「4.マーケティング戦略」にもあるとおり、かつお節が如何に低きへ流れていったのかは明白だ。


 ここで少し脱線、本線。
 まずかつお出汁を作る時点で私は最低限の分岐点があると考えている(これがタイトルの理由)。

それは、
「良い昆布を水出しし沸かして、削りたての良いかつお節を入れる」

 これとこれ以外のかつお出汁では全く違う出汁が引けてしまう点である。
それがたとえ、かつおパックのような鰹節に近いもの(近くないけど)を使っていたとしても、言うなれば味噌汁とコンソメスープくらい違うものができあがる。
 本当にえげつないくらいに全く別物だと考えてよい。
 
逆にここさえ守っておけば、所謂一流日本料理店の味を再現することもそう難しくない(ハイパー厳密には難しい、後述)、少なくとも真っ当な鰹出汁ができあがるだろう(お出汁の詳細な引き方については割愛。)

しかし、ここで問題が発生する。
「じゃあ良い昆布と良いかつお節はどこで買えばいいの?」問題

 結論から書くと、ほぼ不可能^^;
 利尻昆布10年熟成とかで検索してみれば分かるが、絶対リーチしない。
かつお節も同様、雑多な商品の山々に埋もれているだけならまだしも、そもそもどこにも載っていない。
 テレビ番組で「お出汁の引き方」や「昆布の種類の見分け方」はあっても、良い昆布やかつお節をどこからいくらで買えるかなど見たことがない。これは専門料理雑誌でも同様で、料理人自身の「何とか料理人の全て」という本にさえ何一つ載っていない。これが厳密にはお店の味の再現が難しい理由で、そのお店が使っているお水もお酒もお醤油も昆布もかつお節も何一つ、買える場所からお値段、分量まで一切不明なためである。日本人全員に残したい、伝えたいはずのものがお弟子さんの継承のみ(それすらかなり怪しくあやふやだが)、そりゃ先細りするし消えるよね。


 つまり、我々の心であり、魂であり、日本の伝統・文化、日本の味である、美味しいお出汁はほぼほぼ絶対引けないのである。

 日本料理人は口々に言う、「高いと思う昆布やかつお節でも2番出汁3番出汁まで引けばそんな高くないですよ」、と。
 イタリア料理人「高いオリーブオイルも使う量から見ればそう高くないよ」、うん!銘柄とお値段が分かるから買える、教えてくれてありがとう。で、昆布とかつお節は?
 絶対残す気ないでしょ(震え声)。

 片や、ただでさえ魚を燻製乾燥カビ付けしたうえに削ったスーパーコスパの悪いものなのに、その辺で買うと酸っぱい・生臭い・濁ってる何かが出来上がる商品。片や、白出汁やコンソメのような手軽で安価な商品。そりゃ消費も減少するよね。

 お出汁は引くのが面倒という意見もあるだろう、しかしこれは核心をついていないように思える。
 ネットのペペロンチーノやチャーハン動画が荒れるのはご存知だろうか。
それくらい人気(?)の料理なのだが、あんなのに比べれば昆布を水につけて、その水を沸かしてかつお節を削って入れるなど朝飯前のはずだ。
 つまるところ、良い昆布・かつお節が手に入らないことにより、朝飯前の手間さえかけるのを惜しむほど美味しくないお出汁しか作れない原因に帰結する。だって、自前でラーメンのスープ作るやつがいる国だぜ?


 ここは日本で、日本だ、だからこそ美味しいお出汁を飲めるべきだと思う。
 職人さんたちの拘りも理解できるし、料理人の営利的なエゴも知っている。
 良いものは必ず売れるし買うはず!などと甘いことを言うつもりもないが、現状はあまりに酷いと言わざるを得ない。
 我々は日本料理のお出汁の美味しさを、お椀の得も言われぬ香りでいて、慎ましやかな美しさを知っている。
 それが故に美味しくないお出汁を我慢できない。
 お前ら料理人は心のどこかで「雑多なパンピーには、お出汁の繊細な味は分からないし、理解されることもない」と思っているだろう?

 我々がかつお出汁に最も身近だからこそ、かつお節は低きに流れるべきではなかった。夜寝る前に昆布を水につけ、朝起きたら歯を磨くようにかつお節を削る、そして良い品物を紹介する。ただそれだけのことを啓蒙すればよかったのだ。



注:かつお節屋さん他生産者の方々、いつも大変お世話になっております!こんな気の悪くなるような文章を最後まで読んでいただき痛み入ります。今後ともよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?