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「エイジ」重松清

こんばんは、harunaです。
みなさん、突然ですが質問です。
もし、あなたと毎日顔を合わせている人が、犯罪者になってしまったら、どう思いますか?

この小説は、まさにその出来事を中心として、中学生たちのリアルな日常を主人公・エイジの視点から描いた話です。エイジは、家族との関係は良好、成績もそれなりに良く、友達もいて、同じクラスの女子に恋をしている、普通の中学2年生。彼のクラスでは、あることがしょっちゅう話題になっていました。それは、その年の夏に発生した、連続通り魔事件。エイジもクラスメイトに混ざってそれを話していました。心中では、
「通り魔は、どうして見ず知らずの通行人を殴るのだろう。」
「頭おかしいんじゃねーの?あんた。今度会えたら、そう言ってやろう。」
と他人事のように思いながら。これは、エイジでなくとも、同じような話を聞けば、多くの人が同じように思うことでしょう。事件のニュースを見ていて、「なぜこんな酷いことができるのかわからない」と思うのと同じですね。通り魔の犯行はだんだんエスカレートしていき、ついに捕まります。そしてその正体は、いつもエイジのすぐ目の前に座っていたクラスメートでした。遠い存在と思っていた通り魔は、自分の近くにいる同じ14歳の少年でした。エイジは、その日から考え始めます。その人はどんな気持ちで通行人を殴っていたのだろう、と。目を閉じて、犯人の状況を頭の中でロールプレイしても、わからないことが降り積もっていくばかり。「かわいそう」と「許さない」の間にある、犯人への気持ちがわからない。「幻のコンパス」「幻のナイフ」を想像で人の背中に刺してみる。破壊衝動的な「その気」が、自分の中にもあることを知る。そこに近づけば近づくほど、一線は思ったより簡単に越えられてしまうことに気づく。じゃあ、犯人は普段、「その気」をどこに隠していたのだろう、犯人と自分は、何が違ったのだろうか、とまたわからない問いが増えていきます。
そんな沢山の葛藤と必死に戦いながら、エイジが犯人の立場を身をもって経験しようとし、少しずつ成長していくところが、この本では表現豊かに、かつ清々しく描かれています。重松清さんは本当に、もどかしい、言葉に表せない気持ちを文字に起こすのが上手いな、と思わされました。そんなエイジの成長の様子が、読み終わる頃にはみなさんの背中をそっと後押ししてくれる、そんな話になるだろうと思います。ぜひ、読んでみてください。

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