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自己紹介作品 パート4:揚げる前のがんもどき

自己紹介作品。今回で最後になります。揚げる前のがんもどきの作品です。お楽しみください!

『5PM』


「てってれれーん」
呑気な聞きなれた音が僕の心を揺さぶる。パパもママも頑張って働いてるなぁ。僕のために。
僕の家は貧乏だからママもパパと同じ現場で住み込みで働いている。段ボールが沢山積まれた、危ない現場だけど給料は他よりは良い、と言って無理ばっかりしている。僕はそれを応援する役。パパとママの好きなドラえもんのアニメを見ているだけだけど。それでも「いてくれるだけで元気、出るよ」と2人は言ってくれる。その言葉で僕は救われる気がする。

ある日、僕はいつものように現場の柱の下でドラえもんを見ていた。あまり体調は良くなく、少し体が重かった。少し伸びをしようとし、画面から目を離した瞬間、手が近くに立てかけてあった金具に当たってしまった。金具は僕の方に倒れてきた。咄嗟に動けなかった。動けない。体が思うように動かない。どうしよう。声も出ない。懸念して目を閉じた瞬間、痛みを感じなかった。恐る恐る目を開けてみると僕の前にはパパがいて、その下にはママがいた。2人は息をしていなかった。それ以降の記憶はない。

目を覚ますと、白い天井に白いカーテン、そこは病院だった。記憶を失ってしまった僕は、覚えているのは何も無かった。僕の名前は何?
「祐希、起きたかい?」
僕の顔を覗き込んだのは1人の老人だった。
「だ……れ……」
辛うじて声は出せた。でもこれ以上は出なかった。
「そうかぁ、もう忘れちゃったよなぁ。小さい頃だもんなぁ。わしは祐希のおじいちゃんじゃよ。今日からわしと住むからなぁ、よろしくなぁ」
優しく話しかけてくれた。おじいちゃん……か。僕はまだ身構えていた。
「なん……で……」
「いつか祐希にもわかる日がくるよ……」
そういったおじいちゃんはしんどそうだった。
そうして、おじいちゃんとの生活は始まった。おじいちゃんとはたくさん話した。おじいちゃんは優しく、口数も多い方だった。でも、絶対に僕の親については話さなかった。故意的に避けているように感じた。僕も何となく、触れてはいけない気がして聞けなかった。
退院して最初の日は金曜日だった。
「いいか、祐希。絶対にテレビは7時以降は見ちゃダメだ。わかったな?」
それまで優しい言葉ばかりかけてくれていたおじいちゃんが強い口調で言った。でも、何も考えず、僕は了承してしまった。おじいちゃんも全くテレビを付けなかった。僕は自分は何かを忘れてしまっている気がしてならなかった。でも、気にしないようにしていた。

10年の日々が経った。おじいちゃんももう歳となり、ガンにかかり、入院となってしまった。余命、3ヶ月。僕は高校三年生になって、受験勉強をしながらもおじいちゃんのお見舞いに土曜日の授業後などを使って通っていた。
「今日も悪いなぁ。家の方は大丈夫か?」
「大丈夫だよ。もうすぐ大学生だよ、1人でも生活できるよ。」
「そうかぁ。よかったそれは……」
「テレビ付けようよ、おじいちゃん。」
「そうだな、まだ5時だもんな。うん。いいぞ。」
僕はおじいちゃんがいなくても律儀にも守っていた。ポチッと電源ボタンを押すとテレビ朝日だった。
「てれてててててててーん」
そこに流れたのはドラえもんだった。僕が電気ショックにあったように、険しい顔をしたのと、おじいちゃんがハッとしたように息を飲んだのは同じ時だった。震えが止まらない。なんでだろう。何があったんだっけ。どうしたんだっけ。僕は……僕は……恐る恐る後ろを向くとおじいちゃんが懸念したような顔をしていた。
「いいか、祐希。よく聞くんだ。おじいちゃんが祐希にこれから手紙の場所を教えるからな。でも、おじいちゃんが死ぬまでは読まないで欲しい。」
「わかった……」
こんなに怖いおじいちゃんは初めてだった。おじいちゃんが告げた場所は、どこかで聞き覚えがあって、行くのが怖い場所だった。

数週間後、おじいちゃんは星となってしまった。僕は恐る恐る指定された場所に行き、事情を説明すると、真顔で“あの“場所へ連れていかれた。思い出した。僕は全てを思い出した。7時以降にテレビを見てはいけない理由も全てわかった。本当は夢を沢山与えてくれるはずだった。今でも与え続けてくれているはずだった。僕が手を伸ばしていなければ……
「こちらがおじい様から預かっているお手紙でごさいます。」
「ありがとうございます……」
封筒の裏には「ここで読んで」と震えるような文字で書いてあった。
僕が思い出したこと、全てが手紙には書いてあった。おじいちゃんの書いた手紙は水に濡れたような跡があって、文字は全て震えていた。僕の手も震えていた。目から涙が溢れて、止まらなかった。

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