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趣味とか好きなことがなかった私が、クラフトビールを飲んでいたら好きなものだらけになったお話

好きなことが特になかった。
 
小学校の頃は嫌々少年野球に通い、
友達となんとなくスマブラをして塾に行く。
そんな感じだった。
 
中学は親に褒められるから勉強をしたし、
高校は「ここまで続けてきたし」と「モテるかもな」っていう理由で野球部に入った。
 
そんな腑抜けた心は大学でも続いて、
”就活で有利になるように”色んな活動をしていた。
 
 
 
 
 
何かに熱中している人とか
趣味が多い人とかを見ていると、
羨ましいと思った。
 
羨ましさを埋めるために
何かを始めては辞め、関わっては離れ、
結局何にも夢中にはなれなくて、
虚しさばかりが残った。
 
 
 
 
 
 
社会人2年目の冬、
クラフトビールが好きなお客さんと飲みに行くことになった。
 
ペールエールを飲みながら、
仕事の話や、お互いのことを話した。
 
せっかくだからお客さんと同じやつを、
と思って二杯目に一緒にIPAを頼んでみる。
 
「IPAってさ、なんで”インディア”って付くと思う?」
と突然尋ねられた。
 
「え、インド発祥とか、そういうことですか?」
 
「違うんだよ。18世紀にね、船でイギリスからインドに運ぶために作られたんだ。ホップをたくさん入れて、長い航海で腐らないようにね。口の広いグラスで飲むと、ホップの香りと苦味が広がるでしょ。」
 
そう言われて飲んでみると、
ホップの豊かな香りが、口と鼻いっぱいに広がった。
 
 
 
 
 
 
その日から、なんとなくクラフトビールが気になって、
違う種類のものを買っては飲んで、
発祥やら、味の違いやらを調べてみた。
 
ローソンで仕事帰りに
缶のクラフトビールを買って、
家で飲んでいる時ふと思った。
 
「あれ、俺、クラフトビール好きなんじゃね?」
 
 
 
 
 
 
そこからだった、
急に、今までなんとなく関わっていたものが、
ドドドっと好きになった。
 
気づけば私は、好きなものに囲まれていた。
 
ビールとクラフトビールと、
日本酒と焼酎とワインと
コーヒー(淹れる時間含め)と色んな香りのお茶と、
 
素材の味を活かした料理とご当地グルメと
甘いものと、
 
筋トレとスポーツと、
それらの後にがっつり食うごはんと、
 
藤井風さんと
生花と自然とお笑いと哲学と
一人の時間と広い空間と
誰かと深く理解しあえた瞬間と
言葉と戯れる時間と。
 
 
 
 
 
突然好きなものに囲まれていた、
いや、好きなものに囲まれていたことに気付いたのだ。
これまでの人生で育んだ、かけがえのないものたちに。
 
 
 
 
 
 
人にはきっと、
恋するように好きになる人と、
愛するように好きになる人と、
そのグラデーションで間に挟まってる人がいるのだと思う。
 
きっと私の抱く好きという気持ちは
"恋している"という感覚でなくて、
"愛している"感覚に近いのだ。
 
知れば知るほど愛おしくなる、
突如生まれるのでなく、時間をかけて育んでいくような、
熱狂とはまた違うそんな感覚。
 
普段は特段意識もしないけれど、
ふと「ありがとう」と伝えたくなるような、
突如胸があたたまるような、
そんな感覚。
 
 
 
 
 
 
褒められるために
就活のために
モテるために
 
何かのための手段だったやつらと、
同じ時をたくさん過ごして、
良い部分も悪い部分もたくさん知って、
 
振り返ってみたら、
もはやそれは”何かのため”の手段ではなくて、
それ自体が目的であるような、
そんな特別に変わっていて。
 
 
 
 
 
 
私はそんな風に、
物を、事を、人を、
好きになるのだと思う。
 
「好きなものがない」と悩み苦しんだあの時間は、
「好きなものがない」時間ではなかった。
 
目の前のものを好きと思えるように
”好き”を育んでいた時間だった。
 
 
 
 
 
 
きっと一人ひとりに、
好きの形があるのだと思う。
 
だから羨むことも、卑下することもない。
 
いつか今までの人生の沢山のものたちが、
特別に変わってゆくから。

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