見出し画像

【SS】07.引き継がれた復讐  ※クリエイターフェス

毎日の晩酌は一日の疲れを癒してくれます。ほろ酔いになると眠っていたもう一人の自分が目を覚ましたような感じにもなります。そんなことから発想を膨らませたブラックショートショートです。お楽しみください。


引き継がれた復讐

 皆さんは、自分の意志で活動していますか?
 明らかに自分の意志であるという自信を持っていますか?
 もしかすると誰かに言われたことを忠実に再現しているだけでありませんか?

 私の中にはどうやらもう一人の自分が存在しているようなんです。自分ではわからないのですが、どうも夕方から夜の間の記憶はないのでその間はもう一人の自分に支配されているのではないかと不安でたまりません。

 そうやって、相談にやってきた60代の男がいました。男は、会社を定年退職後、特にすることもなく山の麓の家の中でぼんやりして過ごすことが多かったようです。妻とはかなり前に離婚し子供たちも独立して疎遠になっていました。一人暮らしの老人になってしまっていたのです。生活資金は年金だけが頼りということもありましたが、田舎の一軒家に住んでいたため固定費はそれほどかかっていません。だからなのか、気を紛らわせるためなのか、ご飯を減らしても毎日の晩酌だけは必ず続けていたようです。時間も決まっていて夕方日が沈む前の16時に飲み始め外が暗くなったら飲むのをやめるというのが習慣になっていました。

 相談を受けた病院の先生は、男に内緒で16時ごろに男の家の近くで男の行動を見守ってみることにしました。あるよく晴れた秋の日、病院を出た先生は、男の家の前にやってきて、男に見つからないように家の裏に周り、裏山を少し登ったところで双眼鏡を構え男を観察することにしました。先生は、飲みすぎて寝てしまうから記憶がなくなるのではないかと思っていたようです。

 16時ごろになり、男は台所から焼酎を持ってきて縁側で飲み始めました。なんとストレートです。男は湯飲み茶碗に焼酎をトクトクとついでグビッと呑む動作を数回繰り返した後、縁側に大の字で寝てしまいました。やっぱり、そうだったと先生が思った瞬間、男の体から、白い煙みたいなものがスーッと舞い上がり、男の上で数回旋回した後、夜空へと消え去ってしまいました。

 それを見ていた先生は腰を抜かしそうになりましたが、男の身が心配で、なんとか縁側まで行って確認しました。

 そこには、脈を打っていない男が静かに横たわっていました。息もしていません。先生は、その場にいること自体が間違いだと思い、ほうほうの体で男の家から去っていきました。「明らかにあの男は死んでいた」先生はそう思っていました。

 夜が明けて、先生は気を取り直して病院に行き診察を開始していました。そこに、現れたのです。男が。。。先生はびっくり仰天するとともに心臓発作を起こしてしまい、その場で帰らぬ人となってしまいました。診察に来ていた男は、静かにその場所から消えていました。看護師が集まり、応急処置も施しましたが、先生は帰らぬ人となってしまいました。

 そして男は、誰も見ていないことを確認し、ニヤリと笑みを浮かべ病院を後にしました。その後、警察がやってきて調査しましたが、直前の診察のはずだった男のカルテは無くなって見つからなかったそうです。それに、受付を始め看護師さんたちは誰もその男の記憶がなくなっていたということだそうです。

 おやっ、不思議ですよね。病院関係者は男の記憶が無くなっていたのに、なぜ警察は男がいたことがわかったのでしょうか? 実は、男は自分が診察に行ったら先生が急に倒れたということをわざわざ警察に伝えに行っていたのです。

 結局、先生の死は突発的な心臓発作で片付けられました。しかし、不審に思った警官が男の家があるらしいという場所に確認に行きました。そこには、荒れ果てた畑だけがあり、家は見当たらなかったそうです。警官もなす術もなく戻ってきたそうです。

 伝えられていた話では、かなり昔にこの場所に夫婦で住んでいた家があったそうです。しかし、夫婦ともに急に具合が悪くなり病院の先生を呼びにこの夫婦の一人息子が町の病院へ行き先生を連れてきたそうです。しかし、先生が夫婦に注射をした途端に夫婦は泡を吹いて倒れ亡くなってしまったそうなのです。

 どうやら今回いなくなった男は、その時の夫婦の一人息子で、男の様子を見にきた先生は、夫婦に注射をした先生の息子だったようです。



#クリエイターフェス #ショートショート #創作 #小説 #ショートショート書いてみた


よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。