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【SS】優しさを取り戻せ #AIアートイベント

退廃した町

 この街は、都会から一線をおいた場所に隔離同様の環境で存在している。ここで生まれたものは、この町の外に出ることを許されない。その代わり、この街は無法地帯として放置されている。つまり、殺人でも強盗でもなんでもありの町なのだ。当然この街で生き抜いていくには、正義を捨てなければならない。

「世の中が悪いんだ。俺のせいじゃない。こんな街でまともな生活ができるわけがない」

邪悪な魂と取引したリュウ

 仕事もろくになく、犯罪が蔓延る町の中で育ったリュウは自暴自棄になっていた。根は優しい性格だったが、成長と共に優しさは長生きするためには邪魔だと認識し始め、悪の道に入っていった。それも究極の悪の道へ。そう、悪魔に匹敵するような邪悪な魂と取引をして屈強な鉄のような体と鬼のような形相を手に入れた。身体中から黒い煙のようなものが常に立ち上り、とても人間とは思えない佇まいに、街の住人はその威圧感を恐れ誰も近づこうとはしなくなった。

妖精の住む天空の街


天空の街に住む妖精

 そんなリュウを見ていた天空に住む妖精が一人いた。なんとかして退廃した街を救いたいと考えていた妖精だった。でも自ら下界に赴くことは禁止されている。なんとか助ける方法はないものかと随分思案した。そして出した答えは、自分の分身を二人作り、それぞれに街の浄化とリュウの覚醒という役割を与えることだった。街を変えた後でなければリュウを変えても意味がないと考えたのだ。この街で邪悪な魂と取引したのはリュウ一人。つまり街を浄化した後、リュウも元の状態に覚醒させることができれば、助けられると考えたのだった。妖精は天空の街から自分の分身二人が成功することを祈って送り出した。この二人は、街を浄化するアミとリュウの覚醒を助けるユミとして全く別の少女の体を与えられた。


アミ

 まずは、アミによる街の浄化である。どんよりとした空気に包まれている街には暖かい心と十分な優しさ、他人に対する思いやりや助けてあげる気持ちきが必要である。しかし、そんなものは退廃してよどんだ空気の中には存在しない。アミは、街の中心に行って、輝くような姿と共に妖精からもらった「人の心に優しさをもたらす風」で街中を爽やかにしていった。人々は何が起きているかわからなかった。ただ風に吹かれていると、それまで疑心暗鬼で他人を信じたりすることがなかったのに、隣人の心配をしたり、転んだ子供を助けなければと思うようになっていったのだ。それと共に、街全体がなぜだか明るくなっていき、活気が出て来たように感じられた。アミは十分に街全体が優しさに包まれて安定するまで、優しさをもたらす風を操り続けていた。風を吹かせ続ける分、アミに与えられた生命力は減少していった。

 そんな様子をリュウはビルの半地下の窓から覗いていた。そして、この少女を止めないと、自分の存在価値がなくなってしまうと考え、敵視し戦いを挑もうとしてスキを狙い弱みを見定めていた。リュウは相手が子供だろうが女だろうが容赦無く殺してしまう。


邪悪な魂の寺

 ユミはそんなリュウの心の動きを読んでいた。アミはリュウと衝突すると消滅させられてしまう。そうなるとせっかく浄化した環境が元に戻ってしまうことを知っていた。ユミは、そうなる前にリュウを覚醒させて元の優しいリュウに戻さなければならなかった。そのためには、リュウが取引をしてしまった邪悪な魂を成仏させてやらなければならない。ユミはリュウが取引してしまった邪悪な魂が宿っている街はずれにある森の中の彷徨う魂で成り立っている邪悪な寺に向かった。大きな角を携えた獣のような構えで、入るものを拒絶するような威圧感があった。この中に入り、闇を消し去ることができれば、魂は成仏できるはずである。


ユミ

 ユミは迷うことなく入り口を入って奥に進んでいった。同時に、邪悪な多くの魂がユミに襲いかかって来た。ユミは、真っ直ぐに前を向き頭上から降り注ぐ光と共に闇を照らしながら進んだ。この光は妖精からもらった力だ。太陽の光が届かない場所でも明るく照らし邪悪な魂を救う光を放ってくれるのだ。ユミが歩くとユミの頭上で常に輝き続けてくれるのだった。ユミが入っていき光を浴びた邪悪の魂が成仏して天国へと導かれ始めた。邪悪な魂は抵抗することができなかった。それほどまでに光は強力だった。
 しかし邪悪な魂も易々とやられまいとして魂同士でかばいあいながらユミに攻撃を繰り返した。いくつかの魂はユミの体まで到達しダメージを与えた。何しろ数が多い、繰り返しの魂の攻撃を受けたユミの体の部分は黒く変色していき、次第に運動機能が弱まり動かせない部分も出て来た。ユミは足への攻撃をなんとか手で防ぎながら必死になって前に進んだ。両手は真っ黒になりほとんど動かくなっていた。
 ユミは執拗な攻撃に耐え、結果だんだんと邪悪な魂はいなくなり、全ての魂が成仏すると、邪悪な寺自体がその支えを失い崩れ始めた。同時にユミの頭上から照らしていた光は輝きを失い、暗くなったと思った瞬間、建物全体が一気に崩れ落ち、ユミはその中で押し潰されて命の火が消えた。ユミの命は邪悪な魂の成仏のために使われたのだ。ユミは最初から覚悟して戦いに挑んでいたが、アミも知らないことだった。

 邪悪な魂がいなくなり始めた頃、リュウに異変が起きていた。身体中に激痛が走り、アミを襲うどころではなくなり、半地下の部屋でのたうちまわっていた。そして、ユミの命の火が消え去った時、リュウは完全に気を失い元の優しかった姿を取り戻していた。顔は穏やかな青年となり優しさが滲み出ていた。


覚醒したリュウ

 アミの優しさをもたらす風は、最初はリュウの邪気によってリュウには届くことはなかったが、リュウが気絶してしまったことにより、風は半地下の部屋にも入り込んできて、リュウをやさしく包みこんだ。アミは、半地下への入り口のドアをあけ、リュウのそばに寄って来て抱きしめた。しばらく抱きしめられていたリュウは目が覚めた。その時には、邪悪な気を纏っていたリュウの存在は無くなり、優しそうな青年となって完全に覚醒していた。アミは優しく微笑み「よかったね」と声をかけた。リュウの覚醒を確認したアミは吹かせていた風がそよ風程度にまで弱っていることに気づき、自分の命の時間がほとんど残っていないことを知った。

 リュウは起き上がり、目を閉じゆくアミを逆に抱き抱えていた。
「君は一体誰だ。僕を救ってくれた君は」
「わ、わたしはアミ。。。天の妖精の使いよ。あなたとこの街を救いに降りて来たの。でももう使命は果たしたわ。消えるわね。。。よ、か、っ、た」
 言葉が終わったかと思ったら、半地下の部屋でつむじ風のような小さな竜巻が起こりアミの体を小さな小さな光の集まりに変え、運び去ってしまった。リュウは一人たたずみ涙を流していた。

「僕が弱かったばっかりに犠牲にしてしまったね。ごめん」

 街全体は救われた。これからはリュウをリーダーとしてもっともっと住みやすい街に変わっていくことだろう。天の妖精はこれからも見守り続けてくれるだろう。


あとがき
あずみのさんが作ったAI絵を使ってストーリーをつけてました。ストーリーとしてはちょっと抑揚のないものになってしまいましたが、楽しまさせていただきました。


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