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【SS】結婚事情

 全く知らなかったが、毎年11月6日は、お見合い記念日らしい。

 1947年、東京の多摩川河畔で集団お見合いが開催された時に記念日として制定されたらしい。結婚紹介雑誌『希望』が主催したもので、戦争のため婚期を逃した20~50歳の男女のために開催されたイベントだった。そう、当時は戦争のために結婚すらままならない時代背景と結婚は家と家を結びつけるものという背景を受け多くの参加者が集まったようだ。

 結婚に対する考え方も少しずつ変化して、お見合いという言葉自体も使われなくなり、恋愛を経て結婚するというのが一般的な考え方として定着するようになり、現代に至っている。

 2000年を過ぎた頃は、それすらも変化しているようだ。ネット社会が当たり前になり、人々はスマホを片手で操る時代に入っている。そして見えない敵との戦いのため仕事もリモートでできる作業が増え、政府も後押しをしている。そうなると、男女が知り合う機会はどんどん少なくなっていく。もちろん、結婚に興味を示さない人たちも増加し結婚する年齢も少しずつ高くなり、ひいては子供の出生率も低下し続けている。現代では、マッチングアプリという出会いの場を提供するネット上のアプリが人同士の出会いを助けるツールとして台頭して来た。ひと昔であれば結婚相談所みたいな機能を包含しているのだ。

 そしてさらに時は流れ、2100年代に突入すると、バーチャル世界とアバター中心の世界になってしまった。街というものはリアルの世界がなくなり全てはバーチャルの街として日々変化成長している世界が築かれた。そしてその中を闊歩するのは、アバターと呼ばれるリアルの自分の代わりの存在だ。そして、出会いは、バーチャルの街を歩いている時にすれ違いざまにメッセージが送信されてくるのだ。

「今、すれ違った方があなたのお相手に世界中で最も相応しい方です。コンタクトしますか?」

 そして、両方の意思が確認されると、バーチャルの世界での結婚を前提としたお付き合いが始まる。あくまでもバーチャルの世界の中で。その後、結婚合意に至ると、現存するチャペルにお互いにリアルの体で向かっていき、顔を隠したまま結婚式が執り行われる。お互いが実存することを確認するのが結婚式の目的だ。式が終わったら、またそれぞれの家に帰り、バーチャル世界での同居が始まる。

 こうしてバーチャル世界の繁栄と共に、地球上の人口は年々急速に減少し、人類は絶滅の危機を迎え始めようとしていた。


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