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人格詐称 第七章

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第七章 自殺願望の女性

 また年が明けた。だんだんと両親の記憶が薄れていくのを優は感じていた。同時に、冬の寒さが和らぐ頃になってくるともう一人の優が頻繁に現れてくるようにもなっていた。そんな折、優はたまたま見つけたインターネットの自殺支援サイトを覗いていた。もちろん公には出回っていないサイトである。たまたまネットサーフィンをしていてたどり着いたのである。投稿を眺めていると、「もう生きていても仕方ありません。どなたか私の自殺を手伝っていただけませんか」という内容が目についた。優は、インターネットメールのアカウントを新規で申請し、その女性にコンタクトしてみた。山梨に住んでいる女性だった。西湖の駐車場で二日後に落ちあうことを約束してお互いのメールを削除する約束をした。優は、メールアカウントの解約を即座に実施した。あとは、女性がメールを消してくれることを祈っていたが、削除されなかったとしても足がつくことはないだろうと確信していた。優は女性の車のナンバーを聞いていたので西湖についたらナンバーを頼りに落ちあうことにしていた。ナンバーは・232だった。偶然かどうかわからないが自殺の語呂合わせのように感じたので、少しだけ引っ掛かっていた。

 当日は早起きして湘南バイパスから小田原に入り、そのまま御殿場へ抜けて西湖まで車を走らせた。平日なので、それほど道路は混んでなかった。西湖についた時には午前十時ごろになっていた。もともと、それほど観光客で賑わう場所ではない。カヌーや釣りをする人が訪れることが多い場所だ。車に乗ったまましばらく待っていると、聞いていたナンバーの車がやってきた。かわいい日産マーチだ。女性が乗るにはちょうどいいサイズなのかもしれない。少し様子を見ることにして、車から見ていると、後ろから白いクラウンがピッタリとついている。嫌な予感がした。女性は周りをキョロキョロし始めた。髪の毛を後ろで結んでポニーテールのようにしている。優は気づかれないようにスマホをいじっているふりをしていた。一時間ほど経過した時、白い車から男が降りて女性の車のドアをノックして何か話をしているようだった。「やはり、罠だったな。これはお仕置きに値するな」と優は心の中でつぶやいた。さらに三十分位したら、白い車が先に駐車場を出て走り去った。女性の方は車から降りてきた。薄いピンクのセーターにジーパン、そして白いスニーカーを履いている。その女性は大きく背伸びをした後、周りを見渡して、ふぅっとため息をついたような仕草をして、何やらスマホに打ち込んでから車に乗り込み、発進させた。優は、気づかれないように距離を保ちながら後をつけた。女性が着いた先は警察署だった。「婦人警官だったのか。サイトを利用して自殺幇助するやつを捕まえていたんだな。姑息な手をつかうな」と優はだんだんと腹立たしさを覚え始めた。警察署から見えないところまで車を移動して、さっきの女性が出てくるのを根気よくまった。常備していた双眼鏡がこんな時に役に立つとは思わなかった。

 夕方六時ごろになって動きが出始めた。さっきの女性が服を着替えて出てきた。昼間の格好はおとり用として着ていた服のようだった。白いブラウスに薄いグレーのカーディガン、紺色のスカート、足元はパンプスだった。結んでいた髪はほどいていた。毛先は少しカールしているようだった。格好は違っていても、ちょっと距離が離れた目と富士山のような唇が特徴だったので見間違えることはなかった。女性が乗り込んだ車は昼間とはちがう軽の白いアルトだ。もちろん、ナンバーも違う。やはりおとり用のくるまだったようだ。女性の乗った車が走り始めたので、また、後をつけて走り始めた。三十分くらい走ったら二階建てのアパートに到着した。どうやらここに住んでいるようだ。これで場所は特定できた。女性がアパートの階段を上がっていき、しばらくしたら部屋に電気がついた。優は、一人暮らしであるということと部屋の位置を把握した。しかし、今日はそれ以上の計画を持っていない。一旦、帰ってから再度計画を練ることにしてその日は帰った。

 丸一日を潰すことになってしまったが、優としては収穫に満足していた。危うく罠にはまってしまうところだったが、お仕置きをする相手を特定できたし、住まいも把握したのである。

「僕を罠に嵌めようなんてことは百年早いということをわからせてやる。でも今じゃない。みんなが今日のことを忘れる頃にだ。そうだな半年後くらいかな。それまでは平和で幸せな時間を送っていてくれ」

 優は自宅に戻り、翌日東京まで出かけた。久しぶりの人混みに紛れて歩くのは酔いそうで好きではない。目当ては雑貨屋だが、欲しいのは真鍮か木でできたできるだけ背が高い円錐型のリングスタンドだった。できるだけ雑踏のような環境で買えるところに行きたかったがなかなか見つからなかった。ネット販売は数多く見つけられるのだが実店舗にはあまり多くの種類はなさそうである。そしてやっと東急ハンズで見つけることができた。木製で高さが十二センチある円錐だった。大きな指輪、小さな指輪を多く飾れそうだった。



つづく


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