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【SS】大型炉端焼き店の閉店後

 とあるビルの4Fに大きな炉端焼きが店を構えていた。結構な人気店で芸能人も時々訪れる。魚や野菜を焼く網の周りに40席、それが二箇所あり、それぞれに板前が3人ずつついている。そしてテーブル席は、6人がけ席が2つずつで2列並んでいるようなかなり大きな炉端焼きの店である。

 午前2時に閉店した後は、何人かが集まって、メンバー行きつけのお店に行く。板長かマネージャがいると大抵は奢ってもらえる。しかし、行くのは決まって狭いゲイバーである。次の日も仕事なので、長居はしない。大体2時間くらい楽しんで帰ることが多い。この店のマスターというのかママというのかわからないが、綺麗なドレスに身を包んでいるくせに、青い髭を残したままという変わった接客スタイルを貫いていた。話が面白いわけでもなく、ただただ皆んなとふざけて飲むのである。思えば、炉端焼きの仕事中は、大声で笑うことは少ない。なので、大きな声で笑える店に行くのかもしれない。

 仕事が終わった後の腹ごしらえもこの店でするのだが、ママは作れないので、もっぱら中華の出前となる。しかし、そこは良心的で料金の上乗せはしない。最も、中華料理屋さんとの間で手数料のやりとりがあるのかどうかまではは知らない。多分、あるのだろう。

 このお店に最初につれて行ってもらった炉端焼きの従業員は、ママからの予期せぬ歓迎を受けることになる。これが楽しみで同行していると言っても過言ではない。まずはママが名前を尋ねる。そして、「よろしく」と言いながら、背骨が折れそうになるくらいの強さでハグされる。

 そして、気を失いそうなくらい締め付けられて、熱い口付けを受けてしまうのだ。その時には、もはや抵抗できる体制ではなくなっているので、周りからの拍手喝采を浴びてしばしそのままの体制の維持を余儀なくされる。見ている分には面白いのだが、自分の番はとてつもなく嫌な一日で終わることになる。若いアルバイトのメンバーは全員一度は洗礼を受けていた。ママは強しである。

 しかし、ハグの対象になるのは、20代の男性に限られていた。

 ママは若い子が好きだったようだ。

 しかし、一度洗礼されたメンバーは、次を見たいがためにアルバイトを継続し、新たな洗礼を見に来ることが目標にもなっていたのである。なんとも、仕事の継続の動機を作るのは意外なところにあったのだ。


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