ポジティブ心理学の巨人2人から、我々が学んできたこと
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ポジティブ心理学の巨人2人から、我々が学んできたこと

ONENESS MAG - ワンネス財団

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2021年は多くの人が大変な損失に苦しんだ。ポジティブ心理学の分野では、最も影響力のあった2人の研究者が亡くなった。ミハイ・チクセントミハイエド・ディーナーである。2人の名誉に則って、人類の自らを育み開花・繁栄させる営み(フラーリシング)に関して彼らが成した功績に思いをはせ、感謝をささげたい。

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ミハイ・チクセントミハイ(出典:Wikipedia)

チクセントミハイは、1934年に現在のハンガリーで生まれた。子供の頃より好奇心と活力に溢れていたが、第2次世界大戦の勃発とその後の動乱が彼の世界を変えた。青年期にカール・ユングの講義に出席したのち、彼はアメリカへと旅立ち、最終的にシカゴ大学に身を落ち着けた。そこで、なぜ人々が今ある形で生きているかの解明に取り組み始めた。

筆者は、クレアモント大学院大学でチクセントミハイの下で学んだ。チクセントミハイは、マーティン・セリグマンと共同で、人を縛る枷ではなく人間のポテンシャルにフォーカスした研究分野を形式化した。それがポジティブ心理学である。長年にわたって彼の研鑽を受けた私に刻まれたのは、偉大な業績に対する畏敬の念に加え、飽くなき知識欲、そして世界をより良くするための創意を世に贈り続けることを本懐とした生きざまだった。


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エド・ディーナー

エド・ディーナーは、全く異なる環境で育ったが、同じように人生の謳歌・繁栄に資する条件の解明に意欲を駆り立てられたようだ。彼は、カリフォルニア州グレンデールに生まれ、州中部の農場で育った。ワシントン大学で博士号を取得後、34年間イリノイ大学で教育と研究の道を歩んだ。その間、人が自分自身の人生を評価する方法である、主観的ウェルビーイングの研究を切り拓いた。

具体的には、ディーナーは何が人々を幸せにするのか理解しようと努め、これを飛躍的に発展させた結果、Dr.ハピネスの称号を得るまでになった。彼の研究は、幸せな人が共通して持つ傾向や何が人々を幸せにする(しない)かの解明に寄与した。2人の娘(マリッサ、メアリ=ベス)と息子(ロバート)も心理学者であり、彼の遺産は脈々とこの分野を感化し続けている。

チクセントミハイとディーナーの双方は、人間の行動に関する通念をシフトさせた。更に重要なことには、我々がいかにより幸せに、生産的になれるかについての知見を提供してくれた。偉大な思想家である2人の知見の概説はたやすくないが、彼らに思いをはせつつ、ここに彼らが残してくれた10の考え・コンセプト・知見をまとめたい。


1. 人間のウェルビーイングは、科学的に精査でき、そうすべきである

チクセントミハイとディーナーは、ポジティブ心理学の創始者たちの中に数え上げられている。彼らは、心理学の研究における新しい思考法の導入に部分的に関与した。2000年代初期以前は、心理学は殆ど人間の欠陥の学問だとみなされていた。これも重要な取り組みだが、人々の何が悪い(問題な)のかの理解と修繕へのフォーカスは、自ずと人々の何が良い(適切な)のかがなおざりになってしまう。チクセントミハイとディーナーは、我々がベストな人生を送る助けとなる資質…感謝からやり抜く力まで…の科学的研究が広まるのに貢献した。

2. 幸せは(多く)は他の人との関係に負っている

人間のフラーリシングの理解を追求する中で、最初に出る質問に「何が人を幸せにするのか?」がある。この主題に関する意見は各々だが、ディーナーはエビデンスを検証した最初の1人だった。彼の発見は、最高レベルの幸福を回答する上位10%の人たちに共通する1点は、彼らが友人や家族と強いつながりを持っており、彼らと一緒にいる時間を出来るだけ費やしていることである。

ポジティブ心理学の巨人2人から、我々が学んできたこと-03

3. 我々はフロー状態を目指すべきだ

幸せに関するディーナーの洞察は、人々の気分・感情・感覚がベストな状態であるために何が役立つかを教えてくれる。一方で、チクセントミハイは個人がベストな状態であるために何が貢献するかの理解に切り込んだ。彼は、ミュージシャンやロック・クライマーなどの技能を発揮する人たちを研究し、彼らのスキルとチャレンジが理想的に交わるときに最もスキルが伸びることを発見した。チクセントミハイがフロー状態と呼ぶ、自分の限界を少しだけ超えて自分を伸ばす瞬間が、世界中の会社や学校、そしてピーク・パフォーマーたちの活力源になってきたのである。

ポジティブ心理学の巨人2人から、我々が学んできたこと-04

4. お金で幸せは買える…ある程度まで

誰もが「お金で幸せは変えない」という金言を知っている。しかし、それが正しいのかに関しては侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が続いている。このエビデンスを集め、社会の認識に啓発を行ったのが、やはりディーナーだった。彼の知見では、一般的に豊かな国では貧しい国よりより高い幸福度が報告されている。また、これが単なる偶然ではないことを示すため、富が向上した国で幸福も高まったことを解明した。議論は続いており、これは個人が一定の富に達するまでしか正しくないことを主張するリサーチもある。だが、幸福が開花しやすい条件作りでお金が重要な役割を果たすことを、ディーナーは提示した。

5. ウェルビーイングは多くの部分から成り立っている

これだけ幸福が重視される中で、良い気分や感覚で満たされていることが良い人生の中心にあるとの印象を受けるかもしれない。しかし、チクセントミハイやディーナーなどの研究者は、ウェルビーイングの一般的理解を広げようとした。例えば、フローは常に快い状態ではなく、苦闘やフラストレーション(欲求不満/悔しさ)が伴いやすい。チクセントミハイは、自分をさらに伸ばす意欲がしばしば内発的動機の感覚より生じていることを明らかにした。これが、単に幸せになるだけでなく、熟達するための原動力となり、人をより困難な道へと向かわすのである。

6. 幸せはあなたの健康に良い

幸せがすべてではないが、それには特典もある。ディーナーと同僚らが示して見せた関係性のうち、主観的ウェルビーイングが更に健康になり長生きするのに寄与するというものは、特に目を引く。これだけでも十分に惹きつけられるが、ディーナーはウェルビーイングを収入の増加、仕事の成績の上昇、そして創造性の向上とも結びつけることに成功した。

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7. 我々は自分で思っているほどテレビが好きではない

トップ記事にはならないかもしれないが、チクセントミハイは人々を研究する新しい方法も導入した。従来、人生に関する知見を得るには、わずかな期間だけ観察するか、アンケート調査で人々に経験を思い出してもらうかしかなかった。チクセントミハイと同僚らは、人々に体験中にそのことについて質問した。この方法を通じ、チクセントミハイは、人々がテレビの視聴に多くの時間を費やすが、これが最もエンゲージメントの低い活動の1つで、趣味や仕事すらよりもずっと劣ることを明らかにした。

8. 個人だけでなく、制度や社会もウェルビーイングに寄与する

 大衆向けの心理本・ブログを読めば、「あなたは自分の幸せをコントロールできる」というような文章によく出くわすだろう。これには真実も含まれているが、チクセントミハイとディーナーは制度の持つ役割について解明しようと努めた。ディーナーは、ある文化で人を幸福にするものが、他の文化で必ずしも人を幸福にしないことを見出した。チクセントミハイは、ウェルビーイングをGDPのような国全体を計測する指標の1つに推すなど、国家がどのように国民のウェルビーイングをサポートできるかの探求に、研究生活の晩年を費やした。

9. 自分のウェルビーイングは変えられる

 ポジティブ心理学の潮流以前の心理学では、個人には既定の幸福ポイントがあり、この目盛りは大幅には変わらないというのが1つの通説だった。そうだとしたら、わざわざそれを向上させようとする意味はないことになる。ディーナーは、特定の大きな出来事がウェルビーイングを恒久的に変えたことを見出し、この神話の書き換えに貢献した。これは、介入が長く続くインパクトを与えられることを示唆し、ポジティブ心理学者が人を取り巻く条件の向上へと自分たちの研究成果を応用することに先鞭をつけた。

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10. 学びを生活の中で実現することは可能だ

 良い人生を送るために必要なのは何かを口で言うのは簡単だが、これらの理想を実際に生きるのは難しい。しかし、チクセントミハイとディーナーは、純粋にそのために努力を傾け続けた。彼らは、家族・友人・同僚から愛され、研究生活と同様にプライベートでも非常にポジティブだった。まさに率先垂範のお手本であった。


 ミハイ・チクセントミハイとエド・ディーナーは、これらの知見を我々に与え、更にもっと多くのものを残してくれた。彼らの教えと在り様は、敬愛と記憶の対象となり続けるだろう。そして、2人に思いをはせながら、人生を能う限り十二分に生きることの何たるかを身をもって世に刻んだ彼らの遺産を、我々も受け継いでいきたいものである。

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ここにミハイ・チクセントミハイ氏、エド・ディーナー氏への感謝の意とその功績をたたえ、ご冥福をお祈りします。

〈引用〉

James McConchie (2021). "What We Learned From Two Giants of Positive Psychology". Greater Good Magazine. 15 Dec. 2021 〈https://greatergood.berkeley.edu/article/item/what_we_learned_from_two_giants_of_positive_psychology?fbclid=IwAR06Ei6hIB1xJbqsUYDlALNTr-qX_U5HZGSMr6HWb8BCDMfTxjd0x79lEAQ〉

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