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誕生日には、私なりの花束を

「この人に出逢えてよかった」

心底そう思える人と生涯でどれくらい出逢えるのだろうか。時々、そんなことを考える。

私、といえば、「あの時、この人と出逢えて本当に良かった」と全身で感じられる方々と巡り合えた経験が多い方だと思う。

恩師や友人ら実際に会える面々はもちろん、大好きな作家さんや役者さん、はたまた楽曲や作品など形を超えて「出逢えて良かった」対象に常々心充たされている。

そして、私はこうも考える。

「この気持ちをどう表せばいいのだろう」と。

作品に対してならば、日記の欄を感想でびっしり埋め尽くすもよし。
憧れの役者さんや作家さんには、その思いを応援のメッセージと共に手紙なりエッセイなりにしたためて発信するもよし。

では、身近な友人や家族には?

改めて思いの丈を伝えるとなると、気恥ずかしさや時間のなさで中々実行に移せないのが現実。大人になればなるほど何とやら、とはよく言うものだ。

しかし、命に限りがあるのもまた事実。
どんな生物でもいつか必ず命は尽きるし、どうやっても時間は取り戻せない。

頭では分かっていても、現実味が無いため深く理解することは中々難しい。けれど、もし溢れんばかりの思いの丈を伝えたくなったときには、照れずに堂々とその意を表す方が良いと私は思っている。



かなり前置きが長くなってしまったが、
先日私は親しい友人二人にささやかなプレゼントを贈った。

出逢ったタイミングこそ違うけれど、どちらも「私の人生に現れてくれてありがとぉぉぉ!」と叫びたくなるくらい大事な存在だ。ここでは二人の名前を仮にユカミナさんとする。

ユカの誕生日の数日後にミナさんの誕生日が来るので、何を送るかを早急に決めなければならなかった。……のだが、思うように素敵な雑貨と巡り合えず、結局何も準備が出来ないまま時間だけが刻々と過ぎていった。

「や、やばい」

ユカの誕生日まで残すところ約一週間。
今から準備しても郵送で時間がかかる為、誕生日以降のお届けとなってしまう可能性が高い。

せっかくならば、当日に届いて欲しい。
でも、もうお店に行く時間は無い。二つの思いに揺さぶられながら、何かいい方法は無いかと唸っていると、とあるアイディアを思いついた。



「あ、動画を作って送ろう」

以前、地元を離れたユカが帰省した際に一緒に撮った大量の写真を使って動画を作ってくれたことを思い出した。

当時の私は日々の生活に疲れを感じ過ぎていたこともあって、動画の内容も作ってくれたことも本当に嬉しくて。再生する度に勇気と元気を貰えたものだ。

半アナログ人間の私に作れるのだろうか……と一抹の不安を覚えながら、静かにCanvaを立ち上げた。──ユカの誕生日まで残り5日。



「なにこれどうすりゃええのん」

恐れていた予感は的中し、写真は動かないわ音源のタイミングは合わないわ、散々デジタルの波に揉まれ機械オンチはショート寸前。

何よりも一番困ったのは、時間をかけて修正を施しても保存・ダウンロードが出来ないといった謎のバグに見舞われたことだ。後々原因がぼんやり分かったのだけれど、もう、バグの渦中はパニックでしかなかった。

結局誕生日の前日になってもバグは続いていたので、泣く泣く作り直してやっと動画らしい動画が完成した。──ユカの誕生日まで残り45分。ギリギリだがなんとか間に合った。



コチッ……コチッ……。
いや、何回再生押しますのん!と己にツッコミをかましながら動画の出来を確認し、ユカへ動画とメッセージを送った。

どうかな。喜んでくれるかな。(ドキドキ)
てかちゃんと届いてるよ……ね?(ドキドキ)

ふたつの鼓動を行ったり来たりしていると、ユカからラインが返ってきた。みっつめのドキドキを感じながら画面を覗く。

『素敵な動画まで、、感動です』
『ほんとにいつもいつもありがとう😭』

と感涙絵文字つきのそれはそれは嬉しい言葉が両の眼に映し出された。私がユカを喜ばせるために企てた計画だったのだが、ここまで喜んでくれるとは思っていなかったので私の方も目頭がじぃぃぃんと熱くなった。

よし、今度はミナさんの動画を作ろう!
ぽかぽかマインドのまま、早速準備に取り掛かった。



これは何に置き換えても言えることだと思うのだけれど、一度経験するのとしないのとでは気の持ちようが全く違う。

ユカのときはあんだけアタフタしてバグりまくりだった操作画面も、嘘のようにサクサク作業を進めることが出来た。(まぁ、音源のタイミングを合わせるのには苦労したのだけれど)

今度は細かい修正をしすぎて完成がギリギリになってしまったが、無事当日に送信完了しほくほく気分でくつろいでいると、ラインが鳴った。

『とってもうれしい。💗とっても感動しています❣️✨』

ミナさんだ。ハートもキラキラも嬉しかったのだが、その後も可愛らしいThankyouスタンプが携帯の画面と私の心をブルブルと震わせた。



「花束」は、豪華絢爛な花だけを集めたものばかりを指すのではなく、道端に咲く可愛らしい草花を集めたものも等しくそう呼ぶ。

大事な友人の笑顔を思い浮かべながら、色とりどりの花を摘むように編集する作業は本当に楽しかった。茎が折れないよう、花が枯れないようしっかり手入れをしながらひとつの花束が出来上がった喜びは計り知れない。

照れずに思い切って渡した私なりの花束。この花たちは決して枯れることはないけれど、時折水をやるように見返してくれたら私は嬉しい。


Inspired by……『花束を君に』

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