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【読む湯治♨️】ユニーク湯に行く

温泉に求めるものとは何だろうか。それは一般的には「癒し」だと思う。喧騒から解放され、ゆったりする時間は何にも代え難い。この場合想像されがちなのは、温泉宿に宿泊し、一日の終わりに湯船に浸かるひとときだろう。
一方で、温泉に「刺激」を求めるという選択肢はあまり思い浮かべられないのではないだろうか。しかし実は、自然と戯れるアクティビティやアトラクションで楽しむテーマパークに匹敵するほどのポテンシャルが、温泉にはある。そこでは唯一無二の体験ができる「ユニーク湯」が待っている。
私は1年4か月にわたって日本一周をしたことがある。その過程で326か所の温泉を訪れたが、今回はその中でもとっておきのユニーク湯をご紹介したい。全て日帰り入浴のできる場所なので、ぜひ事前に受付時間を確認のうえ立ち寄ってみてはいかがだろうか。

①乳頭温泉郷〈秋田県仙北市〉

☆ユニークポイント
泉質の異なる温泉7か所を湯めぐりできる!

乳頭温泉郷といえば「鶴の湯」が取り沙汰されがちである。あの茅葺き屋根の本陣と乳白色の露天風呂だけでも、秘湯感溢れる素晴らしい体験はできるのだが、その他の温泉も鶴の湯に全く引けを取らない。
ここでは全七湯を簡単に紹介させていただく。

◯鶴の湯
足元から新鮮なお湯が湧く乳白色の露天風呂が魅力的。
◯妙の湯(たえのゆ)
金の湯と銀の湯を味わえる。内装はとてもお洒落で、露天風呂から渓流が望める。
◯黒湯温泉 ※冬季休業
ターコイズブルーのお湯が湧く。浴場の隣にある源泉も見ることができる。
◯蟹場(がにば)温泉
大量の湯の華に包まれる。蟹の柄が施されたオリジナルタオルが可愛い。
◯孫六温泉
湯の華漂うお湯と、青緑色の透き通ったお湯の2種類。静かな山の中に佇んでいる。
◯大釜温泉
緑白色のお湯が湧く。小学校の校舎を移築して造られた。
◯休暇村 乳頭温泉郷
乳白色のお湯が湧く。湯船は広く、レストランも併設されている。

ここでは語りきれない魅力があるので、過去の訪問記もご覧いただけたら有難い。

黒湯温泉

②地鉈(じなた)温泉〈東京都新島村・式根島〉

☆ユニークポイント
野趣溢れる秘湯に浸かりながら見上げる星空が格別!

式根島といえばメインの目的はマリンアクティビティに据えられがちだが、実は「野湯」の島でもある。特に地鉈温泉は感動的な体験を味わえる。
この温泉は潮溜まりの中から湧いている。源泉の温度が高いので、潮溜まりに海水が流れ込む満潮の時間帯を狙って入りにいくことになる。当然温度管理はされていないので、自分で適温の場所を探して浸かるのも野湯の醍醐味である。
また、満潮が夜の場合、満天の星を見上げながらお湯に浸かるという心震える体験が待っている。昼は昼で、真っ赤なお湯が湧いているというインパクト溢れる光景を目にすることができる。さらに、地面を巨大な鉈で割ってできたような温泉までの道程も、冒険のようで気分を昂らせてくれる。

地鉈温泉までの道程

③那須湯本温泉〈栃木県那須町〉

☆ユニークポイント
温度の異なる6種類のあつ湯と濃厚な硫黄がインパクト大!

那須といえば避暑地の一つとして確固たる地位を築いているが、一方で「激アツ」な体験もできる素晴らしい観光地である。
那須湯本温泉「鹿の湯」は、大浴場に入るとまず細長い湯船がある。これは頭にお湯を被る「かぶり湯」のために設けられている。このお湯が48℃とかなり熱いが、これが湯あたり防止に効果がある。
そのあとは湯船に浸かることになるが、41、42、43、44、46、48℃の6種類の湯船に分かれており、自由に入ることができる。44℃以下はあつ湯の範囲だが、46℃は人を選び、48℃はもはや熱すぎてチャレンジの場となっている。ただ、温度が上がるほどすかっとした浴感を味わえる。
お湯の乳白色の濃度も随一。漂う硫黄の香りが堪らない。

因みに鹿の湯に纏わるエピソード「おじさんは温泉でヒーローになる」を公開しているので、そちらもぜひご覧いただきたい。

鹿の湯

④奈良田温泉〈山梨県早川町〉

☆ユニークポイント
南アルプスの秘境に湧くとろとろのお湯はまるで化粧水!

奈良田温泉「七不思議の湯 白根館」は、一本道の果てにある南アルプスの秘境・奈良田集落にある。奈良田集落の位置する早川町は、日本で最も人口の少ない「町」でもある。
そのお湯はまるで化粧水。これが地中から湧いているとは俄かに信じ難いほどとろとろで、ずっと肌触りを楽しんでいたくなる。濃厚な硫黄の香りにも感動する。
また、露天風呂のお湯は透き通った美しい青。天候によっては白濁して見える日もあるらしく、七不思議の湯と呼ばれる所以にもなっている。

白根館

⑤長湯温泉〈大分県竹田市〉

☆ユニークポイント
天然のラムネ温泉は飲んでよし・浸かってよし!

大分県の温泉といえば別府・由布院がフィーチャーされがちだが、実は他にも名湯が多数存在する。その中でも特に個性的なのが長湯温泉である。
長湯温泉の「ラムネ温泉」はその名の通り炭酸泉。湯船に浸かっていると夥しい数の気泡が肌に纏わりつき、本当にラムネに浸かっているかのような錯覚に陥る。おまけに湯口から注がれるお湯を飲むこともでき、まるでレモネードかのような酸味がある。それでいて鉄の香りがする不思議なお湯。
外観は黒地に白縞、とんがり屋根と実に可愛らしい。大浴場には銀色の向日葵の銅像が配置されていたり、芸術的な空間としても楽しめる温泉となっている。

ラムネ温泉

⑥長門湯本温泉〈山口県長門市〉

☆ユニークポイント
温泉街を未来へ繋ぐスタイリッシュなブランディング!

山口県の山陰側には、川棚温泉や俵山温泉などの名湯が点在している。その名湯の一つが長門湯本温泉だが、この温泉は異彩を放っている。
長門湯本温泉「恩湯(おんとう)」は一面全体がガラス張りという洗練された外観。また大浴場は黒タイル張りとなっている。
まるでその空間に合わせたかのように、お湯は淡く透き通った青色を呈しており、肌触りもつるつるとろとろ。湯船の奥には厳選の湧き出す岩盤を見ることができ、いかに新鮮なお湯を味わえているかがわかる。
この恩湯だけでなく、温泉街全体が整然としており、とてもスタイリッシュ。それもそのはず、2016年より「長門湯本温泉観光街づくり計画」が策定され、温泉街再生に向けた取り組みが行われている。長門湯本温泉を支えているのは、絶えず湧き出るお湯と絶えず変わっていく覚悟である。

恩湯

⑦千原温泉〈島根県美郷町〉

☆ユニークポイント
いつまでも浸かっていたくなるような足元湧出の茶褐色炭酸泉!

島根県石見エリアには、温泉津(ゆのつ)温泉や三瓶(さんべ)温泉など茶褐色の温泉を見かけることが多い。千原温泉もその一つである。
しかしその最大の特徴は足元湧出。酸素に触れていない生まれたてほやほやの温泉がぼこぼこと足元から湧き出てくる。さらに炭酸泉なのでシュワシュワ感も十分楽しめる。
おまけに温度は36℃のぬる湯。上せることもないので、浸かりすぎてふやけそうになる。上がり湯として五右衛門風呂が沸かしてあるので、ちゃんと温まったうえで素晴らしい温泉体験を締めることができる。

千原湯谷湯治場

⑧熊の湯温泉〈長野県山ノ内町〉

☆ユニークポイント
志賀高原に湧く湯の華たっぷりの緑の湯!

志賀高原は群馬県境に隣接する長野県山ノ内町に位置し、地獄谷野猿公苑の「温泉に浸かるニホンザル(スノーモンキー)」が世界的に有名である。しかしさらにその奥に進むと、とても個性的なお湯が待っている。
熊の湯温泉「熊の湯ホテル」の大浴場に入ると、まず目を引くのは鮮やかな緑色の温泉。香りは硫黄のような出汁のような、癖になる複雑な香りを放っている。
極めつけは露天風呂。あまりに温泉成分が濃厚すぎて、水面に湯の華の膜が浮いている。その膜を掬い取って腕に塗れば、うるうるつるつるの肌触り。これは至福のひとときである。

熊の湯ホテル

⑨丸駒温泉〈北海道千歳市〉

☆ユニークポイント
支笏湖パノラマビューの圧倒的開放感!

北海道の玄関口・新千歳空港の位置する千歳市。その西側には支笏湖が澄んだ湖水を湛えており、その湖畔に丸駒温泉は佇んでいる。
丸駒温泉最大の魅力はなんと言っても露天風呂。目の前には巨大な支笏湖が広がり、北海道の大自然にただ圧倒される。温泉でじっくり温まったあと、テラスの椅子に座れば、清浄な風と開放感を味わいながら涼むことができる。
温泉自体も、緑がかった茶褐色を呈しており独特な色。酸味のある鉄の香りが、温泉の濃厚さを示してくれる。

丸駒温泉旅館

⑩豊富(とよとみ)温泉〈北海道豊富町〉

☆ユニークポイント
宗谷の大地にぽつりと佇むハーブの香りの石油温泉!

日本最北の街・稚内市は知名度が高く、行ってみたい人や行ったことがある人は割といるだろう。しかしその隣の豊富町は、知らない人も多いかもしれない。道民であれば、セイコーマートの牛乳の生産地として知っている人も一定数いると思う。
そんな酪農の町・豊富町には石油の温泉が湧いている。石油臭い温泉なんてあり得ない、と思う人もいるだろうが、実際は石油の香りというよりハーブの香りに近い。肌触りもぬるぬる感とすべすべ感が共存しており、とても不思議な感覚。でも確かに茶色い湯の華と一緒に石油が漂っている。
中でも「川島旅館」はシックな外観が魅力的。一方内装はお洒落で可愛らしく、一度は泊まってみたくなるほど心を奪われる空間となっている。

川島旅館

今回紹介した温泉は、正直なところ行きにくい場所が多い。しかし今、そこでしかできない体験があると知り、少しでも心が揺らいでしまったなら、後悔しないためにはどうすべきかはあなた自身がわかっているはず。
さあ、ユニーク湯に行くイメージ、ぽこぽこと湧いてきましたか?

※写真は全て筆者撮影

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