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再誕(短編小説8)

ふと気がつけば、地から足がふわっと浮いていた。

愛美は、あー、ついに浮いちゃったか。そう思って
一瞬逡巡した後、まー、いっか。と思った。

といっても、浮いたままでは周囲をびっくりさせてしまうので
意識をグラウディングさせてから
ショッピングセンターのお手洗いからでる。

手を洗いながら
愛美はハンカチ、、持ってきてたかな、と記憶を巡らす。

いや、持ってきてないわ。

辺りを見渡すと幸い、ハンドドライヤー、
風で手を乾かす機械が置いてあった。

しっかり手を振って水を切った後、そこに手を突っ込む。
だがしかし、全然反応してもらえない。

あー。
さっき、足浮いちゃったしなあ。。。
機械が反応できる周波数帯にまだいないかも。
それとも壊れてるの、これ?

後ろに人が待ってるので、愛美は仕方なしに場所を譲る。

ブオォオオオオ

その女性には普通に風が吹く。

ー普通に反応しとるやないかいー

愛美は、この気持ちのやり場がわからずに
もういいや、と思って濡れた手のままお手洗いを出る。

歩きながら目を瞑り、意識で手が乾くイメージをする。
さっと乾いた。

ーそれにしてもなあー

さっきちゃんと、お手洗いの鏡には映ってたかなあ、
気をつけないとなあ。。

愛美はもう一度しっかり地に足をつける。

先ほどまで、まだ若干、半透明に透き通っていた身体が
しっかりと濃度を持ち始める。

また1回転生したなあ。
今日は何日だ。2100年の5月1日。

何も失ってはいないのに、全てがもう、前とは違う。

前世で数秘という統計学を学んでいた愛美は、パッと暗算する。

ー今度の数秘は、9ね。前回は2だったー

もう今の時代、転生するために肉体が死ぬまで待つ必要はない。
個性だって才能だって役割だって、どんどん変わってゆく。

ふと前を見ると、
遠くの方で若い男の子が透きとおっていて
ショッピングセンターの天井で浮かんでいた。

ーいやいや、あそこまで行くとあかんやつやんー

愛美はくすくす笑いながら男の子に伝える

ー降りといで。足の指、にぎにぎしたら、戻れるからー

男の子は
ーわかった!!ー
とテレパシーを飛ばし、スーッと地上へ降りてくる。
その時にはもう身体は元に戻っている。

「あら、翔太、どこ行ってたの?ママ探してたのよ」

翔太の母親らしき人が安堵の声を出す。

「僕、ずっとここにいたよ?空飛んでたのー」

「はいはい、もう迷子にならないでね」

「ほんとだってー。」

そんな会話に耳を澄ませながら
愛美は買い物カゴを持つ。

今の私は、何を食べるのが好きなんだろう?

愛美は新しい生をまた、生き始める。

おしまい

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