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薔薇色の紫陽花

来年の梅雨も、きっと雨が降る。傘の要らない雨が降る。
雨上がりの街に残る雨音の残響が、帰り路の足音を静かに洗う。外では野良猫が誰かと話をしている。眠っている夢の外で、離れられず夢中になっている。毎日、真夜中には活字に化けた昨日のニュースがそれぞれの家々に届けられ、世の悲惨さと滑稽さの境界線が文字になって、言葉の意味を失っていく。

道端の草木は夜風に浮かび、手入れされた植木も野放しの枯れ木も一様に涼しげで、無頓着に空だけを眺めている。気張る事も横着も知らない。金に困る事も、時間に縛られる事も、責任を負う事もない。少しばかり退屈に思えるけれど、窮屈では無い様だ。自由ではあるが、身動きがとれない様は少し気の毒である。

もう七月だから、五月と夏の合間に紫陽花が顔を出すのは昨日の事だ。水の色と淡紫の真昼。乾かない雨と冴えない光の落ち着いた風情。見飽きた六月は何処にも無い。それ故に薔薇色の紫陽花には驚いた。着飾る事も無く目を奪う佇まいに思わず足が止まる。季節は相変わらずだ。

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