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【エヴァ考察】式波アスカのオリジナル

今回はアスカの特集第2弾になります.


1.アスカだけ

(1)問

シンエヴァ最終盤、旧劇のラストによく似た海辺のシーンに、いきなり大人になって現れたアスカさん.相変わらず情報量が多いためか、あることを見落としていました.

それは,一連の補完シーンで大人の姿になったのが,彼女だけだったことです.例えば,隣のシンジは最終的に駅で大人の姿になりましたが,海辺では14歳のままでした.このシーンに続くカヲルとレイも同様.

ちなみにマリはどうだったか.大人に見えなくもなく分かりづらいです(下記画像参照.駅での姿もあまり参考にならない).とまれ大人かどうか明らかでないなら演出的に彼女を大人にする意図はなさそうですし、結論からいえば今回の考察を通してアスカを除きマリだけ大人になったと考えることはできないため、ここではマリは子どもの姿と考えたいと思います.

となるとどうしてアスカだけ変身したのか.その理由を探っていきます.


(2)エヴァの呪縛

まず前提として,彼らの体が10代で止まっていることから始めます.『:Q』で『:破』から14年経ったのに,アスカの姿が変わっていないことを疑問に思ったシンジに対して,アスカは「エヴァの呪縛」と答えます.

“エヴァの呪縛“.本記事でもその意味をはっきりさせることはできませんが、差し当たり人類補完計画に携わるエヴァパイロットが被る負担とでも理解しておきましょう.とりあえず体の成長が思春期で止まります.

ここで成長が止まることの意味についてです.成長しないことは歳をとらないこと.つまり永遠の命に関連します.この性質は『エヴァ』の世界では言わずもがな生命の実を与えられた使徒が持つものです.エヴァパイロットがコア化大地を防護服なしで長時間歩いたり、半裸で月面に立ったり(!)できるのも使徒に関係するこの性質のためでしょう.

ちなみに生命の実の要素を備えたパイロットは劇中で「リリンもどき」や「ヒトに戻れなくなる」といった表現を与えられます.これには理由があると思われますが、本記事では便宜上この性質を指すときは、“生命の実を備えた“、“人外”、“使徒化“といった言葉を用いることにします.いずれも同じことを指していると思ってください.



2.使徒化の原因

先ほどエヴァの呪縛すなわち体の成長が止まることは、生命の実に由来するということを指摘しました.今度は彼らがその使徒性を備えるに至った経緯を見ていきます.経緯はそれぞれ異なることに気がつきます.

(1)レイ

まずアヤナミレイ(仮称)ですが、同型のレイがネルフで量産されている様子がシンエヴァで映されました.

これに加えて下記公式のツイートのアドバンスドの“コア化処理”から推測するに、これらのレイはコア化状態です.彼女らは全身コアの生命体であると考えられます.

全身がコアであることの詳細は別記事に譲り(「人類補完計画とコア化」)、ここでは簡単に済ませます.

例えば、劇中で“全身コア“と言われたのは覚醒アダムスの器(Mark.09)と、『:Q』でMark.06から現れた第12使徒でした.過去の考察によれば、Markシリーズは生命の実(使徒)の機能を備えた機体です.ですから,全身コアの別レイも生命の実の性質を備えた人造人間ということになります(先ほどの記事ではアドバンスド・アヤナミシリーズにも触れています).

ちなみに、こうした人外としての綾波レイの理解は実は旧作にも見られるものです.第24話では,カヲルとシンジを追う3人目のレイはATフィールドを放つなどエヴァや使徒同様の力を発揮していました(「綾波レイと等身大エヴァ」).

記事ではレイの体がアダム由来と結論づけています

そしてここがポイントですが、先ほどのシンエヴァの画像からすると、レイは新造される過程でコア化しています.したがって生まれた時から使徒に近い存在ということが指摘できます.

次に、本家綾波レイです.

画像は『:破』でゲンドウ「食事にしよう」のシーンです.水槽には封印柱でおなじみの呪詛文様が描かれています.呪詛文様は,封印柱のように使徒やコア化に対する結界を張る際に用いられるものです.したがって,これは綾波レイにも制御すべき使徒の性質があることの証左になります.

そして綾波レイと別レイとを異なる扱いにする理由も見当たらないので、彼女もその誕生においてすでに使徒に近い者と考えてよさそうです.


(2)シンジ、マリ、カヲル

さて、『:Q』以降「リリンもどき」扱いの碇シンジ.彼の人外化のタイミングはニアサーです.それ以前はヒトだったことは次の台詞から読み取れます.

(破C-1761,1762)
リツコ「やめなさい!シンジ君っ!ヒトに戻れなくなるっ!」

初号機が覚醒する前まで彼はヒトだった.補完計画に深く関わる博士の言葉ですからそのまま受け取って構わないでしょう.したがって、使徒化のタイミングが先ほどの綾波タイプとは異なることになります.

これに対して、自らを第1使徒と名乗るカヲルがはじめから使徒の性質を持った存在であることは説明不要でしょう.マリについても使徒説に立てば同様ですし、クローン説でも綾波型と同じと考えることができます.

ちなみにマリが2号機でヒトを超えた獣化エヴァを操れるのは彼女が人外だからと理解することもできます.

(破・C-1510)
「ヒトを捨てたエヴァの力、見せてもらうわ」

機体がヒトを捨てられたのは、パイロットもヒトを捨てていたからと考えることができます.獣化の際に「がまんしてよエヴァ2号機.私もがまんする!」という台詞はそうした機体とパイロットが共に人外であることを示唆するものだったかもしれません(そうなると『:Q』以降のアスカの裏コードは彼女が使徒化していたことを実は意味していたという理解もできます).

以上、少し脱線しましたが、生まれながらに使徒の性質を備えている者と後天的に使徒になった者とがいることがわかりました.


(3)アスカ

ではアスカはどうか.

アスカ「私たちエヴァパイロットはエヴァ同様,ヒトの枠を超えないよう設計時に抑制されている.非効率な感情があるのもそう.人の認知行動に合わせてデザインされている」

別のシーンでクローンと判明した彼女.すると,ここで彼女がいう「私たちエヴァパイロット」とはクローンの人造人間(つまり式波と綾波)であり,そこからシンジは除かれていることになります.なぜなら,彼がユイのお腹から生まれたこと、つまりクローンではないことは回想シーンから分かります.

そして台詞のパイロットが「ヒトの枠を超えないよう」設計されているという点から、アスカが本来ヒトの枠を超えた存在つまり使徒を構成するもので造られている、というニュアンスがあります.

ではアスカもレイ同様生まれながら使徒の性質を持つのでしょうか?

ここで彼女の使徒化は3号機事件の時という説を検討します.アスカの左目に第9使徒を宿していたことがシンエヴァで明かされたからです.

個人的には否定的でした(量産型パイロット).しかし、仮にレイとアスカが共に生まれながら生命の実を備えた人造人間だったとしたら、作中でレイとアスカとで異なる諸々の事情をどう説明すべきかという厄介な問題が生じます.具体的にはアヤナミ型だけ調整が必要な理由とか(この点は後述します.末尾「5.おまけ」(2)).

これを説明しようすると複雑な議論になります.そこでこの際、素直に3号機事件すなわち第9使徒との融合によって、アスカは生命の実を備えたという説に乗り換えたいと思います.

そんなわけでアスカも後天的な事情で使徒化したとここでは理解します.


(4)結論

ここまでの考察で各パイロットが人外となった経緯を調べた結果、シンジとアスカが後天的で他は生まれながらという事情がそれぞれあるものの、全員使徒の性質を持つに至ったことを確認しました.

「エヴァの呪縛」とは,エヴァパイロットの使徒化に伴う身体的制約ということになりそうです(使徒化の時期は不問).



3.大人アスカを考える

(1)再び海辺へ

アスカとの海辺シーンに戻ります.ここまでアスカだけ大人の姿になる理由を探るべく、体の成長が止まる「エヴァの呪縛」について探ってきました.その結果、エヴァパイロットは全員生命の実の性質を備えた生命体である/になったことを確認しました.

そして検討したわけではありませんが、劇中でアスカだけ使徒要素がなくなりヒトに戻るといった事情は見当たりません.結局、全員成長が止まっているのにアスカだけ海辺で“大人化する理由“はよく分からないことになります.

これは同時に海辺の大人アスカをヴィレの式波アスカと同一視することに難点があることを意味します.ヴィレアスカでないとすれば、大人アスカは何者なのか.

当然、オリジナルのアスカではないかということになります.

というのも、彼女はクローンアスカと異なり,シンジ同様人造人間ではなくリリンとして生まれたはずです.そして彼女はエヴァパイロットにならなかったため「エヴァの呪縛」に罹ることもなくそのまま大人になったはず.

そもそもネオンジェネシス発動後の駅でパイロットたちが大人の姿なのは、「エヴァがなくてもいい世界」に書き換えられたからです.書き換えられた世界では、使徒と人類のゴタゴタが無い結果、決戦兵器エヴァンゲリオンが開発されなかった世界です(ここから駅で親しげなカヲルとレイをアダムとリリスの確執の解消という解釈が出てきます).

エヴァがないのでエヴァの呪縛も存在しない.したがってみんな成長して大人の姿.翻ってネオンジェネシス以前に大人の姿になれるのは、エヴァパイロットにならなかったオリジナルアスカだけ、というわけです.

したがって海辺のアスカは、ヴィレアスカが大人の姿になったのではなく、オリジナルアスカが海辺に現れたと理解することができます.


(2)顔が赤い

でも、海辺アスカの正体を考えたことのある人なら、彼女をオリジナルアスカと考えるのもおかしいと気づくでしょう.

シンジが「好きだと言ってくれてありがとう」と言葉をかけた対象はどう考えてもヴィレのアスカです.オリジナルにはシンジの告白で顔を赤らめる理由がないからです.彼とは面識すらなさそうなので.

あのシーンで顔を赤くすることができるのはオリジナルではなくヴィレのアスカだけなのです.

こうして海辺のアスカはオリジナルおよびヴィレの式波アスカの統合体と考えられることになるのです.大人の姿になったのはオリジナルアスカでもあったことの表現ということになります.

レイについても、つばめの人形を抱いているので黒波さんが統合しているかも?

さらにいえば、アスカのプラグスーツは旧作のものなので、結局海辺アスカは旧作を含めた全てのアスカの統合体ということになります(したがって、ここから惣流アスカも顔を赤くしているのだという説が唱えられることに).

首にある2つの黒い長方形が目印(若干角が丸みを帯びていますが)
概ね上と一致します
ちなみに式波さんは菱形

このように旧作も含める統合体という点は,シンジがカヲルの補完シーンで口にした「何度もここに来て、君と会っている」という台詞にも表れています.過去の世界(TVシリーズおよび旧劇)の記憶がなければこのような台詞にはなりません.

ゴルゴダオブジェクトが「全ての始まり.約束の地」(ゲンドウ)というのは、全ての(庵野)エヴァンゲリオンワールドの始まりの地点であり終着地点でもある.あらゆる世界線のシンジやアスカが統合体となって現れる場所といった感じでしょうか.


(3)強制送還

さて、あのときゴルゴダオブジェクトにいた人物たちは皆、その者の全ての統合体という解釈に立ちました.ここで1つ気づくことがあります.それはシンジがアスカを第3村に飛ばす際、インテリアに座る彼女が大人アスカだったことです(第3村で着ていたコートのサイズが小さくなっているため大人アスカ).

つまり、シンジはオリジナルアスカもまとめて第3村に飛ばしたということになります…よね.ヤーーー!ってことでしょうか(某きんにくん).

そして旧作のプラグスーツではなく第3村での服装になったことから、飛ばされたのは新劇アスカの統合体のみで、それ以外の惣流は含まれていないと考えることができます.



4.回収シーン

(1)疑問点

さて、いつものことですが一定の結論に至った途端、すぐ次の課題にぶつかります.

例えばシンエヴァにおける新2 vs 13号機の場面.オリジナルのアスカがヴィレのアスカを回収するシーンです.あの時2号機のプラグに現れたオリアスがどうみても子どもだったことをどう説明すればいいのか.

これまでの考察からすると13号機に乗っているオリジナルは大人アスカなので、この疑問はここまでの考察を無にする可能性を秘めています.

もっとも一応説明はつけられます.それは演出を優先させたというものです.たとえば、あの時点でオリジナルの存在を大人の外見で登場させた場合、情報量が多くすぎて海辺アスカの印象が薄れるおそれがあり、そのことへの配慮があった可能性です.やはり大人の姿は海辺のシーンでドーンと見せたほうが映えるし、効果的だという.

設定面でも最低限説明はつきます.たとえば現れる姿はATフィールドを応用した技と思われるので,見た目はいかようにも変えられるとか.おそらく設定よりも演出的な理由かなと思いますが(いずれにせよメタ的な説明になってしまう点が弱い).


(2)難問、再び

次に、以前から抱えていた宿題に取り組みたいと思います.

オリジナルアスカ「あなたも愛とともに私を受け入れるだけ」

これは以前、エヴァ難解台詞四天王に認定したものです.この中のあなた“も”を筆頭に何から何まで理解できず、課題としていました.これを書いている時点でも自信はないですが、皆さんの考察の参考になればと思い暫定的な見解ですがここに記します.

(a)「あなたも…私を受け入れるだけ」
まずこの「も」の解釈です.字面だけ追っても難しいので適宜言葉を補うと2通りに読めます.

①“他の者“がそうしてくれたように私を受け入れなさい
②“私は受け入れた“からあなたも私を受け入れなさい

②が本命なので以下検討を加えます.

(b)オリジナルが受け入れたもの
式波に受け入れさせる前にオリアス自身が受け入れたものがある、とすると彼女はいったい何を受け入れたのでしょう.ここからは憶測に頼らざるを得ないことを了承ください.

まず13号機に乗っていることからして、おおかたゲンドウの計画に乗ったことだと思われます.彼女がコールドスリープしていたわけではないとすると、物心ついた頃から補完計画に関わり、旧作同様、幾度となく精神的な危機に見舞われたと想像できます.

たとえば母親の喪失.旧作ではキョウコさんにあたる人が新劇でも実験の事故に見舞われたとすると、その後の展開を含めてトラウマになったことでしょう.

そして式波シリーズ.彼女らの存在を知った時期は不明ですが、仮に自分がエヴァに乗らないことと引き換えに式波シリーズの計画を了承したといった事情があったとしたらどうか.

大量生産されたクローンのうちたった1人しか生き残れないことを知ったとき、罪悪感に襲われることは想像に難くない.自分ではないとはいえ自分の分身が次々とパシャパシャするのは相当な無神経でない限り良心が痛むはずです.

これらの出来事を通して、おそらくゲンドウを襲った耐え難い喪失とそれに伴う絶望に近いものにオリジナルアスカも陥ったのではないか.そこにゲンドウの計画が希望に見える隙ができた結果、彼に手を貸すことになったとか.

もしかしたらゲンドウがユイとの再会を望んだように、彼女もキョウコさんとの再会を希望、計画に加担したのかもしれません.だからアスカも「父さんと同じ機体に乗っていたんだね」.絶望の機体に乗っていた理由にもつながります.

「あなたも〜私を受け入れるだけ」
→私(オリジナル)は絶望のあまりゲンドウの計画を受け入れた.あなたも計画に乗るべし.


(c)「愛とともに」
では愛の部分はどう理解できるでしょうか.これはアスカの回収がヴィレアスカにとっても決して憂うことではないという意味では、と考えています.

どういうことか.次のマリの2つの台詞を確認します.

「しまった!ゲンドウ君の狙いは使徒化した姫か!」

「ワンコ君、第13号機の中に姫の魂が残置されてる可能性がある」

2つ目の台詞はオリジナルアスカがヴィレアスカを引っ張ったように見える例のシーンの説明と理解できます.

この台詞によって、上記画像の描写はパイロットのプラグ深度を強制的に下げ、体をLCLに還元することであらわになったアスカの魂を回収するものだった、ということを間接的に説明していたのではないでしょうか.

ちなみに、アスカの回収を13号機が新2のプラグを噛み砕いたシーンではなく、上記のシーンと考えたのは、次の山下さんのツイートを参考にしたからです.

ここではATフィールドを使ってパイロットを引きずり出すというアイデアに触れられています.本編でオリジナルが行ったのはこれかなと.個人的には『:破』で覚醒シンジが綾波救出で行ったことと同じ原理.

ここで一度脱線します.この「使徒の入手」と「アスカの魂の回収」について考えたい.というのも、ゲンドウの狙いに照らし考えてみると、これら2つの内容は結びつきません.どういうことかというと、彼の狙いはフォースの贄となる使徒が手に入れば達成されるはずです.アスカの“魂“の回収は彼の計画にとって完全に蛇足ではないか.このことは、ゲンドウ自身ヴィレアスカの魂が13号機に回収されたことにおそらく気づいていないことにも表れています(気づいていたとしても計画に支障はないので放置といったところかもしれませんが).ミサトに「アスカを使い捨てにするか」と責められても「問題ない」と彼が返答するのは、使い捨てるためにアスカを用意したのだから当然であって、アスカの魂は回収したから問題ないでしょ責めないでよという意味ではないと考えられます.ゲンドウとしてはアスカは人柱を全うしたと思っている.

したがって、13号機へのアスカの回収はゲンドウの計画ではなくオリジナルアスカの独断である可能性が高い.

であるとしたら、次にオリジナルアスカはどういう意図で回収に及んだのでしょう.ここも憶測に拠るしかありません.考えうるのは、ヴィレアスカを迎えに行ったというものです.ゲンドウのプランのままだと本当にあの場でアスカは使い捨てにされていたので、彼女の力の及ぶ範囲でヴィレアスカのためにできるだけのことをした.

オリジナルがそうまでする動機ですが、たとえば、オリジナルは彼女の分身たちが生まれてからテストの繰り返しの生活でずっと孤独だったことを知っていた.このままだと使い捨てにされた挙句、あの場所でまた独りにさせてしまう.パイロットとしてのこれまでの彼女の努力を思うとこの結末は耐えられなかった.計画が完遂する最後の時くらい一緒にいてあげたかったのではないでしょうか.

オリジナルとしては絶望ゆえに受け入れた補完計画という現実と、エヴァパイロットを押し付けてしまったことへのせめてもの罪滅ぼし.式波シリーズに愛を求める資格があるかと言われればよくわかりませんが、オリジナルアスカが式波シリーズに思うところがあるとすればこのあたりかな、ということが伝わればと思います.

というわけで、魂の回収はいわばヴィレアスカを迎えに来たのであって、彼女にとっても受け入れる理由があることをあの台詞は言っていた、というのがここでの考察になります.

ちなみにこの見解の難点は察しの通り、絵にそのニュアンスが全く感じられないことです.オリジナルの表情が不敵だし不気味すぎるし、仁王立ちで態度が大きいし?そうなるとやはり「愛」とはキリスト教専門用語としてのそれから理解すべきことになるのかもしれません.



5.おまけ×2

(1)「S.S.ASUKA」について

彼女のグッズ化が異様に早いと感じたのは私だけでしょうか.でもこのかわいさだから頷くしかありません.まず最初のおまけはチビアスカさんです.

海辺のアスカが全アスカの統合体なら、この小さい子も統合体なのでしょうか.それとも異なるのか、という問題です.

これを考えるきっかけの1つが彼女のリュックにぶら下がる「S.S.ASUKA」のカード.採用する見解で読み方も変わってくるでしょう.私も思いつきですが少し考えてみます.

・統合体
→惣流・式波・アスカ

・オリジナルアスカ
→Source/Start  Shikinami Asuka

・ヴィレアスカ
→Series Shikinami Asuka

どれもありそうです.というわけでこれだけでは先に進めそうにありません.

1)試論①
そこで視点を変えてアスカの回想シーンの開始部分に注目したいと思います.

シンジに呼ばれたアスカが水槽の中で目を覚ますことから彼女の補完シーンは始まります.水槽の中にいるアスカが何者かといえば、クローンである式波シリーズ、ヴィレアスカしかいない.彼女の目を開けてから記事冒頭画像の大人アスカが目覚める海辺のシーンまではヴィレアスカの回想であり、したがってチビアスちゃんはヴィレアスカだと考えることができそうです.

想像上の架空のエヴァがいるイメージの世界におけるシーンなので理由として脆弱ですが、一応成り立つ説明だと思います.

2)試論②
それではまた別の視点から考えます.次の台詞について各見解はどう読むのか.

パパはわからない.ママもいない

前提を確認しながら進めましょう.そもそも親が誰を指すのか、ということから説明を要します.

というのも、惣流(あるいはオリジナル)の場合は血縁上の実の親を指しているのでしょうが、ヴィレのアスカの場合、クローンの血縁上の親を決めることはできるのかという難問にぶつかります.仮に現実世界でクローン人間が合法的に生まれて、我々同様に生活をするとなると、当然その親を決める必要が出てくるでしょう(保護者としての親).その親を血縁上の親にしようとすると、それに関する一律共通のルールを設けることは容易ではないことは想像つきます.これについてはあまりに先端的な問いでここでは答えられそうにありません.

ではクローンの親を一律に決めることができないとしても、親と呼べる存在がいるとしたらそれは育ての親、養親が考えられます.すると他のアスカと同じような台詞の解釈が可能になってきます.

そして庵野さんによれば当初は『:破』でアスカと母親の話が挿入される予定だったとのことなので(破全集ハードカバー版356頁)、一応ヴィレアスカにも母と呼べる人が存在した可能性があります(あるいは母親がいないことについてのお話だった可能性もありますが).

つまり、どの見解でもこの台詞は解釈可能となります.おそらく台詞の理解としては、父は行方しれずで「わからない」、母は絶縁もしくはお亡くなりになっているので「いない」といったことなのかもしれません.

というわけでこの台詞だけでは何とも言えないことになります.なお旧作では「パパもママもいらない」というのが幼少期アスカの台詞なので、そことの比較を検討することで何か見えてくるかもしれませんが今後の課題とします.

3)試論③

では最後に、シンエヴァでチビアスカが碇家族を眺めるシーンから1つ考えてみたいと思います.以前、このシーンはアスカが家族を羨む様子を描いただけではなく、ユイとの出会いを示唆するのではないかということを考えました(「アスカの話(人形、ユイ、レイ)」).

今回はユイがまだ初号機に融合していないことに注目します.ここから次の見解が出てきます.すなわち綾波シリーズがまだ生まれていないならば、式波型クローンの製造もまだ始まっていないと思われ、したがってあのアスカはオリジナルだという説明です.

以前よりチビアスカをオリジナル(旧作でいう惣流)と考える見方は把握していましたが十分検討しないままでした.最近SNS等を眺めていて検討に値すると思うようになり、今回追記で触れようと思った次第です.

以下では新劇の年月日を旧作同様の西暦で検討します(すなわちユイの消失時期を新旧同一として考察).

まず、先ほどの説明、「綾波シリーズがまだ生まれていないことからすると、式波型クローン製造もまだ始まっていない」について検討しましょう.ここには、綾波シリーズがまだ生まれていないこと,すなわち“ユイ消失後にレイが造られた“という前提が含まれています.

人類補完計画の経緯は旧作に情報があります.一段落とします.

2004年:旧作ユイが実験で消失.その後“たった”1週間の失踪を経てゲンドウが人類補完計画を始動.
2005年:アスカがエヴァパイロットに選抜され、おそらく同日母キョウコが亡くなる(24話C-1).同年に“1人目のレイ“が誕生(21話C-199下記コンテ参照).
→旧作はユイの消失後にレイが造られていることが確認できます.

マーカー引用者.2010年に5歳→2005年に製造

では新劇はどうか.ゲンドウの回想でユイの喪失に絶望するゲンドウとレイが入った水槽が多数並ぶカットが見られましたことに注目します.

つまり、仮に旧作同様ゲンドウが立ち直るまでの期間が1週間だとすると(上述)、レイの水槽カットはユイが消えてから1週間を経過していないことになります.すなわち、ユイの消失前にすでにレイの製造は始まっていたと考えることができます.

また、これは新劇では人類補完計画を提唱したのがゲンドウではなく葛城博士であることにも関係します.

ゲンドウ「セカンドインパクトと引き換えに自らの仮説を実証した君の父上、葛城博士の提唱した人類補完計画だよ」

つまり、補完計画の始動した時期が旧作よりも早い可能性が高い.ゲンドウの精神強度に拠って立つと微妙ですが、葛城博士の設定に拠るとその変更に伴いレイの製造がユイの消失前から始まっていたと考えることができます.

少し脱線です.旧作の設定を参考することについて一言.新劇の設定背景についてどれだけ旧作から引っ張って来られるかについては個別に考えていくしかありません.ここでの議論に関連するものとして、例えば新劇ではミサトのパッパが補完計画の提唱者であることが明らかにされました.旧作にはなかった事情ですから変更があったと見ることができます.もっともよくよく旧作を見ると気づくことがあります.E計画とアダム計画に加えて補完計画を提唱したと冬月に告げるゲンドウの台詞です.

(21話C-180,181)
冬月「まさかあれを?」
ゲンドウ「そうだ.かつて誰もなし得なかった神への道.人類補完計画だよ」

読み方によっては、机上の理論としてではあるけれど、過去に何者かによって補完計画が仮説として唱えられていたと読むこともできます.このように考えると、シンエヴァではその仮説を唱えた者が葛城博士だったという旧作で隠していた設定を補足しただけとも理解できます.もっとも、上述の通り新劇では仮説ではなく実行に移されていたと理解できるわけですが.

話を戻すと、ユイの消失前にすでにレイの製造に着手している可能性があることから、アスカのクローンも始動していた可能性があります.チビアスカがクローンの可能性.

もちろんこれだけで彼女がオリジナルである可能性は否定できません.五分五分でしょう.一応決定打が何もない中、現時点で考えうる可能性についてあれこれ見てきました.今後も引き続き考えていきたいと思います.


(2)レイとアスカの細かすぎる話

先程少し予告しましたが、レイとアスカは同じクローンであるのに両者ではっきりとした違いがあるので最後に見ていきます.1段落とします.

(a)羞恥心の違い
1つ目は、2人でシンジに裸を見られた際の反応が違いました.レイは裸を気にしないのに対し(序・Q)、アスカには羞恥心があること(破).

この羞恥心の描き方は例のごとく聖書に負っています.聖書では善悪を知る木の実(知恵の実)を食べたイブが羞恥心を獲得し、近くにあった葉(いちじくの葉)で局部を隠すというお話になっています(『創世記』).

ここから、生命の実が混ざったレイはそれだけ知恵の実の性質が少なく、結果アスカと異なる描写になっていると説明できます.そして第3村のアスカが裸を気にしないのは彼女が使徒と融合したことに起因する、となるのです.

(b)調整の要否
次にレイだけが水槽で調整を必要とする違いが挙げられます.アスカも実はこっそり調整していたとは考えにくい.両者に差別化が図られている.

これについては、アスカと異なってレイには生命の実の性質が備わっているためメンテナンスを要するということだと思われます.調整に用いられる技術が人外未知の代物だから、彼女は「ネルフでしか生きられない」.制作陣がシンジの「ここでしか生きられない…どういうことだろう」(破C-706)と気にするカットをわざわざ入れ手強調していました.

(c)アスカの調整?
ただし3号機事件によってアスカもレイ同様使徒の性質を備えたのなら、アスカも調整しなくていいの?という疑問が生じます.第3村にそんな設備ありませんし.

一応説明はつきます.おそらくアスカに融合した使徒がオリジナル、本物の使徒であったことが関係しているのではないか.つまり、それまでレイやアスカに使用された使徒素材はいわばオリジナルではない模造品だから調整が必要だった.ネルフのエヴァも神のコピーだったことと合わせているのでしょう.

(d)融合の態様の違い
2人の相違について続けます.レイもアスカも使徒との融合を果たし、インパクトの贄としてエヴァに使徒をもたらしました.その融合ですが、レイの場合は使徒に取り込まれるかたちをとり、アスカは使徒を自分に取り込むかたちでした.このように両者に相違が見られます.

関連して気になるのは、両者が融合した使徒が贄となるシーンです.次の場合はいずれもエヴァが積極的に使徒を取り込みました.
①ニアサー:初号機と第10使徒
②シン・フォース:13号機と第9使徒(アスカ)


しかし、次の場合は異なります.
・Q・フォース:13号機と第12使徒
この場合、使徒が自ら13号機の口元に向かい、取り込まれに行きます.そしてその第12使徒にレイが融合していることがカヲルやシンジのモニターに映る第12使徒の壁に無数の彼女が確認できます.レイの関与が仄めかされるのですが、どういうことか.

もちろんネルフあるいはゼーレがレイに仕組んだ仕掛けでしょうが詳細はよくわかりません.使徒の力が弱まったとき、あるいは彼女がシンジを感知したことをトリガーに母体の使徒を乗っ取るといったような.いわば取り込まれたと見せて実は寄生していたという罠のような仕掛けのようです.

このように考えると、レイがシンジに対する好意を持つよう設計されていた理由が説明できます.レイが抱くシンジと一緒になりたいという思いが、乗っ取った使徒をエヴァの元に運ぶのではないかと.レイを取り込んだ使徒はいずれもシンジが乗ったエヴァの贄となっていたのは偶然ではないでしょう.

すなわち、エヴァを覚醒に導くために、使徒が“進んで“贄となる必要があり、そのために使徒に取り込まれる綾波レイにシンジへの好意をプログラムしたと考えられるのです.贄とは犠牲になることを最終的に受け入れて自らを捧げるものですから.

(e)第10使徒戦
では冬月「やはり、あのふたりで初号機の覚醒は成ったな」(『:破』)はどう理解できるでしょうか.

第12使徒と異なり第10使徒戦は少し複雑です.脚本が変更になったことはご存知かもしれません.当初変更前の脚本は旧作ベースでした.すなわち使徒に侵食されたレイが初号機(シンジ)を求めて融合しようとするもなんとか自爆で防ぐというものです(これに則ったコンテも樋口真嗣によって作られていた.破全集ハードカバー版).レイの好意が前面に出ています.

しかし、脚本が榎戸洋司案に変更後は、レイがシンジと一緒になりたいことよりも「ごめんなさい.何もできなかった」に見られるように、シンジをエヴァに乗らないようにできなかった点が強調されました.

それに伴いシンジが願いを実現しようとする働きが前面に出ることになりました.この変更によって『:Q』の第12使徒の場合と異なり,レイの好意は見えにくくなっていますが、シンジに対する好意の点に変更はないでしょう.結局、先ほどの冬月の台詞は大要次のような話だったのではないか.

第10使徒が最強の拒絶タイプゆえに一筋縄ではいかないことをゲンドウも予めわかっていた.彼は2つのプランで考えていた.1つはダミーシステムによる討伐.2つ目はシンジによる討伐.本編では、3号機事件でシンジが降りたのでダミーシステムに切り替えたが作動せず困っていたところ、当初のプランのキーパーソンが戻ってきたという流れでしょうか.

しかし、彼が乗る場合、相手が強力なので“奇跡“を起こす必要があった.具体的には電源切れの初号機が起動したこと、左腕復元、光線等ヒトを超えた力に目覚めさせたこととして現れます.

こうした奇跡のためにシンジが願いを抱き、その願いを叶えようとする意思、覚悟を持つことが求められた(こうした「奇跡」と「意思」「覚悟」の関係はミサトの台詞や序全集の庵野秀明「はじめに」などでみられます).

シンジに願いを抱かせるため、ゲンドウ「次はもう少しレイに接近させ」(序C-958)、2人を親しくなるよう仕向けた.そしてレイの好意は食事会や救出シーンでシンジの願いを受け入れるかたちで一応表現されていると見ることができます.つまりレイの設定としては一貫している.

ちなみにこれまでの考察はシンジがレイに好意を持っていたかについて触れていません.この点は観る人の自由でしょう.

話を戻すと、大人たちはレイの想いを利用したエヴァの覚醒を計画していた(初号機&13号機).つまりレイの存在だけではなく芽生えたと思われた彼女の想いすら大人たちに造られたものだった.だもんでシンエヴァの黒波「でもいい.よかったと思えるから」に心を打たれるのです.

(f)第12使徒戦
さらにもう1つ触れたいこととして、レイを使徒に取り込ませたとしても、もうひと手間必要なことです.使徒を沈黙させる必要があるでしょう.第10使徒の場合はシンジのパイロットとしての覚醒によって成しました(疑似シン化第1形態).

『:Q』での第12使徒でもおそらくひと手間が必要で、それが黒波「これが命令」(Q・C-1257)の一振りだったのではないか.

(g)まとめ
以上になります.おさらいすると、①ともにクローン体であるレイとアスカにみられる違いはレイのみが使徒の性質を有するから.②レイの使徒要素はエヴァ同様模造品.③レイを取り込んだ使徒は彼女のシンジへの想いに導かれ、エヴァに自ら取り込まれた.④レイウイルス発動のためにはひと手間が必要(ex. 使徒の沈黙).


今回は以上になります.予想外の長文となってしまい、ご負担をおかけしたことと思います.最後までお読みいただきありがとうございました.質問や感想ございましたらよろしくお願いします.


画像:©khara/Project Eva.


アスカの特集第1弾↓.こちらもよろしくお願いします.


※修正(2022/9/22)
 アスカ「あんたには関係ない」関連の箇所を削除.
 チビアスカの正体について内容を足しました.
※修正(2022/9/22)
 アスカの使徒化時期を3号機事件時に変更
 それに伴う諸々の全体的修正
 第10使徒戦の説明を追加
※修正(2022/9/23)
 「5.おまけ×2」の(1)後半を加筆修正
※追記(2022/9/27)
 「5.おまけ×2」の(1)に「3)」を追加
※追記(2023/3/12)
   「5.おまけ×2」の(1)3)を修正
※追記(2023/4/7)
「5.おまけ」(1)1)レイの製造時期につい記述変更
同(2)第10使徒戦の記述変更

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