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【エヴァ考察】 使徒の量産化?(庵野秀明展③)

今回は第11使徒と第12使徒を考察するための準備+おまけになります.『庵野秀明展』のネタバレがありますのでご注意ください.

1.『庵野秀明展』の衝撃

(1)状況
まず第11の使徒、第12の使徒について何が問題となっているか、簡単に確認します.

第11使徒については、本編に登場せず一切の情報がないことから存在すらあやしいことです.もっとも使徒の番号は登場順に付されるという一般的な理解からすれば、Qの第12使徒の登場によって第11使徒の存在が推認できます.したがって、本編に登場しなかったけれども物語上は存在したと考えることができ、そこでいったい、いつ、どこで登場し、いなくなったのか.その予想をめぐっていろんな考察がなされています.

次に第12使徒です.QでMark.06の装甲から突然飛び出した全身コアなるものが、第12使徒と認定されました.NA☆NI☆GO☆TO.今のところ、Mark.06の正体を探ることで第12使徒の手がかりにしようという考察が多いようです.

シンエヴァでは残念ながらこの2つの使徒について新情報は特にありませんでした.そして考察班は各々孤軍奮闘するも、その後何か有力な説が提出されたといった進展もなかったように思います.しかし、この間の『庵野秀明展』で公開された、とある資料で状況は一変しました.次の画像です.

ヱヴァQ「第11使徒初期デザイン案」
ヱヴァQ「第12使徒初期デザイン案」

情報量が多いですが、本編で見たMark.04シリーズにそっくりな機体?がどうやら制作段階では第11使徒、第12使徒だったらしいということです.

第11使徒案はMark.04Bへ、第12使徒案はMark.04Aへ.「Bパート案」単体エヴァも、多数並ぶ様子がシンエヴァのアバンで登場したMark.44Bを彷彿とさせます.

(2)本編の前に
新資料から本編の考察をしたいところですが、その前にまずはこの資料自体を検討します.資料当時の世界設定はいかようなものだったのか.

1)その1
まず資料の第11使徒について.宇宙にある初号機を奪取しに来るヴィレを妨害するために設置されたと考えられるので、この使徒はネルフ(ゲンドウ)の制御下に置かれていたことがわかります.つまり人類は使徒を使役するに至ったことが読み取れます.破の冒頭、次の台詞を思い出します.

(破C-14A)加持「On its own, humanity isn’t capable of holding the angels in check(人類の力だけで使徒を止めることは出来ない)」

あの場面では第3使徒を抑え込むことはできないという意味でしたが、全体を通してみると、“使徒を支配下に置くこと、管理することはできない“という意味にもとれます.状況はここから進み、遂に使徒を制御できるようになったわけです.加持の台詞は伏線だったのですね.

2)その2
次に、第12使徒です.資料の絵から指摘できるのは、①外見がエヴァであること(Mark.06)、②量産化されていること、そして③合体していることの3つです.

使徒であるのに外見がエヴァであることは破の第9使徒と3号機を彷彿とさせます.つまり使徒とエヴァの融合.エヴァの合体は以前取り上げたマルドゥック計画に関わるのでしょう(詳細は「マルドゥック計画/ネブカドネザルの鍵」の1).

気になる量産化という設定ですが、たとえば使徒の殲滅は人類補完計画の一部だったはずです(人類が使徒として新生するためにそれ以前の全ての使徒を滅ぼす).

人類自ら殲滅すべき相手を量産してどうするのでしょう.これがゲンドウらに渡されたシナリオとは異なる死海文書“外典”に基づく筋書きなのでしょうか.そして量産Mk6のすべてが第12使徒というのはこれまでのエヴァの世界観からは違和感があり、スッと入ってこない.

この違和感についてもう少し.量産化という言葉からは綾波・式波タイプを連想できます.クローン技術.そういった操作が使徒に対して用いられた可能性は指摘できるでしょう.つまり、レイやアスカのようにオリジナルとそのコピーの図式が制作段階の第12使徒にもあるというわけです.

したがって,量産型Mk6は第12使徒のコピーであり,そのオリジナルはコピー作成のためにどこかに保管されており、いつでも倒せる状態で生かされている.それが『3.333』所収の前田監督イメージボード集にあった、エヴァの生産工場のあの巨大なコアだったりしませんかなど.

以上が差し当たり没資料から読み取れる没世界設定です.
それでは上記初期案がすべて本編でMark.04に置き換わっていることを確認した上で、次に第11使徒と第12使徒について考えていきしょう.


2.第11使徒とMark.04

まず第11使徒から検討します.

(1)第11使徒=Mark.04説の検討
上述の通り、資料の第11使徒と第12使徒が全て本編でMk4となっていたことから、資料使徒らは量産化されたコピーなのでは?という疑いがとても強い.

そのことを直接検討する前に、遠回りになりますがまずはMark.04=第11使徒説がおそらく成り立たないことを見ていきたいと思います.

使徒を識別した各モニターの表示を見ます.

①「Pattern Analysis: Blood Type ≈BLUE」
②「Blood Type: BLUE」「CONFIRMED: 12th Angel Varification」
③「Pattern Analysis Blood Type BLUE」

①はUS作戦時、Mark.04Bを検知した際の表示
②は槍を抜いた後、Mark.06を検知した際の表示
③は裏コード999発動時の表示(第9使徒)

まず②の第12使徒の場合、パターン青とセットで「CONFIRMED: 12th Angel Varification」のように使徒として識別される表記が付されます.③のアスカの裏コード999のときも、モニターの描写こそありませんでしたが、シゲルが「ネルフ本部内に第9使徒の反応あり!」と報告していたのでモニターには第9使徒である旨表示されていたと考えられます.

次にMark.04に関して.近似を意味する「≈」が用いられています.パターンだいたい青というわけです.これは先ほどの使徒の場合には使われていません.また、これの他にもMark.04のモニター表記は「Mk.04A」(Q・C-14B)、「E04c」(Q・C-158A)といったものが見られる一方で、決して先ほどの使徒のように「Angel」表記はありませんし、ヴィレクルーが読み上げることもありませんでした.

以上の比較からみられるこれらの違いをMark.04=第11使徒説は説明できないように思います.お気づきだと思いますが、ここでの第11使徒はコピーではないオリジナルの使徒であることを暗黙の前提としています.


(2)使徒のコピー説

それではMk4=使徒のコピー説を検討します.コピー(模造品)といってもフィクションあるあるとして我々に馴染みのあるものになります.どういうことかというと、オリジナルとコピーという対比.オリジナルに比べてそのコピーは性能が劣っているというあるあるな設定のことです.

エヴァでも採用されていて、神のコピーであるエヴァが不完全な存在であったり、アヤナミレイ(仮称)は「リリンの模造品」として魂がないので聖なる槍を回収できないという、オリジナルにできることができないといった設定を与えられていましたね.

そしてこのMk4=使徒コピー説の根拠の1つは、Mk4がシンエヴァ冒頭でマリに「使徒もどき」と言われていたことです.どのあたりが「もどき」なのでしょう.まず使徒とは…

(序1.11追加部分)ゲンドウ「単独で完結している純完全生物だ」

単独で完全な生命体ならば、本来団体を形成し統率の取れた行動は取らないでしょう.同じくシンエヴァ冒頭で赤木博士も「もはや新たな生物ね」というのは、「見事な単縦陣」、群れるし列を乱さないし、ちっとも使徒っぽくないということです.

根拠のもう1つは、資料の第12使徒案がエヴァの装甲を着けて複数合体へ魔改造されていることです.使徒が単体で完全であるなら複数合体はおかしい.こうして本来の使徒の姿と矛盾するように見えるのも、それらが使徒の模造品ならば説明がつきます.オリジナルとは異なるため違ったこともできるし、リリンの都合で改造もされるというわけです.

劇中でアダムスがリリンに利用され散々な目にあってきたことがうかがえましたが、使徒も後ろの番号の方たちは同様の扱いを受けたのかもしれません.

ちなみにこのようにMk4はもともと第11(&12)使徒のコピー説を採用すると、次にオリジナルはどうなったとなります.そうして散々疑問視してきた第11使徒=碇シンジ(あるいは初号機)、第12使徒=破のMk6説がいずれも使徒オリジナルの装いを得て息を吹き返します.2体の使徒の議論はこうして振り出しに戻りそうです.この点はこの後の第12使徒の箇所でまた触れたいと思います.



3.第12使徒


(1)生き残ってる?の意味

ここ使徒の咆哮が聞けます

(Q・C-1248,1249)アスカ「まずいっ!第12の使徒がまだ生き残ってる」

次に第12使徒です.上の台詞から始めます.先ほどのMark.06の分析結果のうち、「CONFIRMED: 12th Angel Varification」の意味は“第12使徒であることの証明は確認済“といったものです.これに先の台詞を合わせれば、おそらく空白の14年でヴィレは一度、第12使徒と会敵しており、しかもヴィレとしてはそれを殲滅した認識でいることが推測できます.

ここで台詞の「第12の使徒がまだ生き残ってる」の理解について、もしかしたら2つの読み方が可能かもしれないので触れたいと思います.

例えば最初の制作資料の「第12の使徒の群」からすると、空白の14年にはMk6の量産化がされて本編のMk6はその生き残りであるといった理解が台詞の字面だけ追えば、一応あり得ます.QのMk6量産化説.

もう1つの読み方は、おそらく多くの人が今までそう理解していたもので、本編のMk6を倒したと思っていたら生きていたという理解です.つまり第12使徒はMk6のこれだけ.QのMk6オリジナル説.

Mk6というよりそこから出てきた第12使徒がもどきなのかオリジナルなのかが問題となっているといっていいでしょう.

(2)検討

この問題は、先ほどのオリジナル/コピーの考えを採用すればすぐに解ける話になります.Mk4=使徒もどきがモニター上で使徒と認定されることはなかったのに対し、本編のMk6は第12使徒とはっきり認定されています(先述モニターの表記).したがって、Mk6というか第12使徒はコピーではなくオリジナルということになります.

よって、ヴィレは空白の14年でこの第12使徒と会敵してとどめを刺したと思っていたということになります.

こう考えていくとインパクトの贄となっていたのはどれもオリジナルの使徒でありました.使徒もどきではエヴァは覚醒しなかったのでしょうね.


(3)Mark.06=第12使徒説について

さらに第12使徒についてはもう1つ論点があります.それはMark.06の素体が第12使徒説、あるいはMark.06そのものが第12使徒説です.割とポピュラーな気がします.

この説の根拠は、たとえばMk6が他のエヴァとは建造方式が異なる旨のゲンドウの台詞や、それまでのエヴァにはない飛行能力を搭載することや、エヴァはヒトという器を捨てて生命の実を得た新たな生命となるための器という人類補完計画の趣旨がMk6に合致するといったとことなどなど.使徒をエヴァにつくり替えたのがこのMk6という理解です.

(4)検討

魅力を感じるところですが、今のところ個人的には乗れません.1つは以前も指摘したのですが、この説によるとMk6は破で地球に降下した段階でネルフクルーに(マヤさんか?)「パターン青、使徒です」と認定されてしまいます.これのどこか問題かというと、この時点で第11使徒がまだ登場していないところです.

時系列的に第11使徒の説明が困難になる.実はこのこともあってMk6=第12使徒説は、碇シンジ(or初号機)=第11使徒と相性がいい、というか当然の帰結となります.この組合せなら「第11使徒ならいるよ、シンジ君」といえるので.

もっとも、先ほどの新資料によりシンジ=第11使徒説は微妙な立場にいますし、別の角度からシンジ説を疑問と指摘してきた筆者には乗れない話になります(「第11使徒/マリの正体(仮)」).ちなみに破の段階でMk6の使徒の力はまだ眠っているので使徒とは分析されないと考えるのは苦しいです.画像の通り飛行してしまっているので.

とはいえ、もしかしたら空白の14年のスタートはこれまでの世界観では理解しにくい衝撃的なものだったのかもしれません.初号機からは第11使徒の反応、ニアサーを止めた謎の機体から第12使徒の反応と続々と.そしてこの機体は敵か味方かわからないしどうなっているの、的な.

さて、Mk6はじめから第12使徒説を採用しない者にはその宿命として、Mk6はいつ、どうして第12使徒になったかという問いが課されます.もっぱら空白の14年の出来事なので答えは出ませんが、さしあたり次の台詞はヒントになり得ます.

(Q・C-1095, 1096)
シンジ「あれはエヴァ?」
カヲル「そう.エヴァMark.06.自律型に改造され、リリンに利用された機体の成れの果てさ」

「自律型に改造された」ことから、同機体は地球降下後に何者かにいじくりまわされたことが分かります.するとたとえば改造の際に何者かが使徒を忍ばしたとか、あるいは、サードインパクトのごたごたに乗じてネルフに侵入した使徒がMk6に取り憑いたなどが考えられます.



4.空白の14年劇場版:序(おまけ)

資料を読み込むことに疲れた考察班は息抜きに妄想をするんだとか.

「葛城.達者でな」
そう告げて男はVTOLに乗り込んだ.隣にはプラグスーツを着たチビレイ.下降していくVTOL.向かう先はセントラルドグマ.そこに槍を抜いてこと切れているMark.06があるはず.この状況を打開できるのはあの機体しかいない.はるか上空のネルフ本部とそこにいる初号機を取り込んだリリス.飛べない2号機と8号機では辿り着くのは困難.塔をよじ登れたとしてそれでは到底間に合わない.そしてMark.06を起動できるのは俺だけだ.

目標物が見えてきた.
「いくよお嬢ちゃん.しっかりつかまるんだよ」
そう言って少女を抱え、男はまだMark.06から距離があるにもかかわらずVTOLから飛び降りた.

落下の風で口の中が乾く.スイカ食べたい.

抗った、と思う.命令でベタニア基地に入り、例の予備を奪うにあたって、その予備が1つではないこと、それを自分がくすねることをあの司令が予想しないはずはない.もう少し上手く立ち回っていれば、こんな事態は避けられたかもしれない.とはいえ今さら後悔しても詮無いこと.向こうが一枚上手だったのだ.後のことは新しい司令に任せよう.

そしてこうなることを予想して最低限のことはやったつもりだ.新組織決起の準備や戦艦の貯蔵庫への改造と奪取.浄化無効阻止装置の配備準備.そして葛城.すでに意図せず多くの憎しみをその一身に背負わされた第3の少年.結果的にそんな彼に葛城を託してしまった…あのときは追い込まれていたとはいえ余計なことだった.シンジくん、あのとき言ったこと、重荷になる前にどうか忘れてくれ.確かに缶コーヒーじゃ割に合わない.誠にすまない.これからその落とし前をつけよう.今、助けに行くから.とはいえ…

「いやはや大変な仕事ですよこれは」
男はそのもう1つの鍵を自分に打ち込んだ.ドックン!なるほどそういうことだったのか.鍵を使うとすぐに司令がやろうとしていること、ゼーレの思惑などが急に理解できた.ただしこれから起こることはわからない.

宙に浮くことを覚えた男はレイをMark.06のプラグに乗せて告げた.
「これからおじさんが機体の制御を取り戻す.そしたら君は上の基地に向かい、そこにいるだろうリリスを処理し、この事態を食い止めるんだ.これは命令だ.わかったかい?うん、それじゃ頼むよ」
さてどこからコアに潜ろうか.


「私たちも作業に取りかかりましょう」
そう言われたが女は彼が心配でならない.了承したもののあんな小さなパイロットと2人でどうにかなるのだろうか.あまり不安そうにみえないリツコを見るに私にはまだ知らないことがあるようね.これからどうなる?サードインパクトを阻止したとして.流れのまま決起に参加したものの.リツコの言った通りまったく女には生きづらい世界だ.男というのはみんな私に何かを押し付け、私を残していってしまう.
「リョウちゃん.上手くいったみたいね」
リツコがそう言うと、先ほど彼が降りたところからMark.06が現れ、そのまま飛んでいった.通り過ぎる一瞬、こちらを向いたような気がした.

Mk6がリリスを仕留める少し前を想像して描いてみました.もう1つのネブカドネザルの鍵、大きく出たなという感じでしょうか.それより唐突な物語調に驚かれましたか.

これまで考察してきたことを踏まえると、このようなシーンもあったのではということで、創作を交えてそれらしくまとめてみました(他にもいくつかパターンが考えられます).シンエヴァのサード回想シーンによれば、リリスを葬ったのはMk6です.それによりサードは止まった.問題はそのことと“加持がサードを止めた“ことがどうつながるかということです.そこを意識して書きました.

若干の補足ですが、ヒトを捨てた加持さん、エヴァに乗る必要あったの?という疑問を持たれる方もいるかもしれませんが、貧弱なヒトの体のままでは物理的にやれることは限られるので融合したという見立てです.

以前の記事を読んでいただいた方にはこれまでの考察の軌跡を随所に見ることと思います.ありがとうございます.なお余計なこととは思いますが、念のため男は加持さん、例の予備・鍵とはネブカドネザルの鍵、あの司令はゲンドウ、新しい司令はカヲルくん、女はミサトさんです.

なお序とありますが続編はありません.


少しでもQ以降の解像度が上がったら幸いです.
今回は以上になります.最後まで読んでいただきありがとうございました.
感想等お待ちしております.

画像:©khara/Project Eva.

※追記(2022/2/19)
「3.5 Mark.04」を追加

※追記(2022/9/25)
文章削り、構成を大幅に変更

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