【エヴァ考察】エヴァに乗れ!
今回はゲンドウとシンジについてのあれこれです.特にゲンドウの考察はなかなか見当たらないので本記事がきっかけになれればと思います.
1.問題の所在
(1)ユイの再構成
今回扱う台詞です.
この台詞に表明されるゲンドウの悩みがよくわかりません.まずは台詞の「ユイを再構成」が何を意味しているのかの検討から始めます.
(2)前提
もっとも「ユイの再構成」の説明の前に確認しておく前提が2つあります(引用資料に丸投げするかたちですが).
1)ユイ=リリス
1つ目はユイの正体はリリスだったというもの.この話は過去記事でお馴染みですので次の台詞が起点となっていることと詳細は下記動画の解説に委ねたいと思います.
ちなみに,ユイ=リリスと考えると13号機の素体=アダムス+リリス説の説得力を補強することができます.両者のポーズと手の甲の類似性です.
2)初号機=リリス
続いて,もう1つは初号機の素体がリリスのコピーというものです(「初号機の素体」←URL埋め込み以下同じ).そして先ほどのユイ=リリス説も併せれば,初号機にはリリス(ユイ)の魂も宿っており,もはや同機体はリリス御本人といえることになります.
(3)初号機か巨大レイか
さて上記2つの前提を踏まえると,ユイ=リリス=初号機となります.すると「ユイの再構成」とはリリスの再構成と言い換えることができます.そして劇中でリリスの再構成に該当しそうなものに,初号機とアディショナルインパクトで現れた巨大レイの2つがあります.いずれなのか.
1)初号機?
まず,「ユイの再構成」=初号機とすると,この初号機はニアサーの覚醒初号機です.
さて,ユイの再構成=覚醒初号機説の場合,シンジの必要性は次の台詞で確認できます.
もっとも,シンジが必要となるよう計画を組んだということかもしれませんが,いずれにせよシンジをエヴァパイロットとして補完計画に巻き込む段階でゲンドウの悩みはそりなりに解消されていたと考えることができます.
そうなるとこの場合,冒頭台詞の「最後までわからなかった」の"最後まで"には時間的な意味はなく,苦悩の程度を強調する意味になりそうです.
2)巨大レイ
続いてユイの再構成=アディショナル巨大レイの検討です.旧劇の巨大リリスと似たような容姿でした.
このアディショナルレイにおけるシンジの必要性ですが(また新たなレイが…アディレイ,アディナミ?),おそらくゴルゴダオブジェクトでの初号機と13号機の「調律」儀式に,彼が必要か否かがわからなかったのだと思われます(「調律」の意味は「13号機とシンクロの話」の2).
この場合,ゲンドウの悩みは解消されたのでしょうか.
これについては,①シンジは必要とされてゴルゴダに連れて来られたのではなく自分からゲンドウに着いてきたこと.②両機体ともパイロットに不足はなく,シンジがいなくても調律の儀式は行えそうなこと.③でも,シンジがいても調律に成功していること.
これらの事情を考慮すると,結局,彼がいてもいなくても調律儀式は遂行できるよう計画されていたようです.この場合,ゲンドウの悩みは棚上げ状態,つまり解消されてはいません.
これはシンジが必要か「最後までわからなかった」という台詞と一致します.こちらの方が落ち着きがよさそうです.
以上から,ここでは「ユイの再構成」をアディショナル・レイと考えます.それではようやくゲンドウの胸の内に迫りたいと思います.
2.ゲンドウの悩み
(1)知らない人って初めてだよ.君の願いは?
では,ゲンドウがユイの再構成にシンジが必要か否かどうして判断できなかったのでしょうか.次の台詞から考えます.
シンジが槍を掴んだことでロンギヌスからカシウスに変わりましたが,ゲンドウはこのことに少し驚いている様子です.つまり,カシウスに変形せずロンギヌスのままだった可能性も彼の頭の中にはあったということ(『:Q』ではロンギヌスでしたね).
槍がカシウスに変わったことは彼にとって吉でした.次の整理を見ます.
チーム名にすることで少し残念な感じになってますが,このように両機体の諸々が希望/絶望と対照的に揃うことが彼の計画にとっては重要です(「13号機とシンクロの話」の2).シンジが初号機に乗りつつロンギヌスだと綺麗に揃わない.
続いて上記各パイロットについて触れます.各自乗っている機体には理由がある模様.次の台詞です.
カヲルとアスカが13号機に乗っている理由について詳しく検討できませんが,絶望の機体に搭乗していることからすると,少なくとも彼らが希望に満ちていないことは補完シーンからも読み取れるはずで,おそらくそのことが関係している.
次に初号機のレイはどうか.彼女が初号機に乗っている理由は「エヴァに乗らない幸せ」を願うから.その願いがユイの願いに重なるからです.ユイについては次の台詞です.
神殺し.それがガイウスの槍でエヴァを貫くことを指すのであれば,初号機=リリスは神だったといえます.さて,神であるユイの視点からみれば,それは自身の神としての死.それによって開かれる,神(アダム)に運命を強いられることのない人が人として生きていける世界(その旅立ちに立ち会いたかったゲンドウ)のことを意味します.
内容的にはネオンジェネシスです.したがって,先ほどのカヲルを参考にすれば,レイそしてシンジもその願いがユイと重なるから初号機に乗っていたことになります(結果として三位一体).
話を戻すと,ゲンドウがシンジの扱いに迷っていたのは,彼の願いがユイ側(希望)なのかゲンドウ側(絶望)なのか,分からなかったからと考えることができそうです.
いえ.もっといえば,シンジが希望と絶望の間で揺れていたというよりも,そもそも願いを抱くまでに至ってなかったと言った方が正確かもしれません.
(2)願いとは
先ほど,シンジが願いを持たないことがゲンドウを悩ませていた可能性に言及しました.どういうことか.
これについては「所信表明」から始めます.
この「何度も同じ目に遭いながら」とは喪失を重ねたことでしょう(喪失の数々は「ゲンドウの話/リリスの転向」の2).そして『エヴァ』で主人公が立ち上がるとはエヴァに乗ることとリンクしています(第6使徒,第10使徒など).
そして立ち上がるための動機が,何かを叶えたい願いを持つことにリンクしています.たとえば『:破』と『:Q』についてみてみると,
このような話の構造が共通します.『:破』ではレイの救出を願いました.『:Q』では世界の修復(やり直し)と贖罪を願いエヴァに再び乗りました.世界の修復については次の台詞です.
この台詞はまた,エヴァで世界を変えられることが示唆され『シン・』への伏線になっていることも確認できます.そして贖罪は次の台詞から読み取れます.
ちなみに2つ目の台詞からカヲルがシンジにとって希望だったことも読み取れます("カヲル君のために").
以上から,人は願いを叶えるためにエヴァに乗っています.冒頭所信表明も併せれば,喪失を重ねつつも,何かを強く願い,それを叶えるために立ち上がる(エヴァに乗る)という構造で物語が組み立てられていることも分かります.
したがって,メタ視点に立てば『エヴァ』では願いを叶えるためのエヴァだから,願いを持たないシンジであればエヴァに乗ることはないためユイの再構成に不必要ということになります.
よって,ゲンドウがユイの再構成にシンジが必要かを悩んだのも,果たしてシンジは何かを強く願っているのだろうかという疑問があったと考えることができます.
(3)喪失の意図
さて,上述のように悩むゲンドウではありましたが,何もせずにいたわけではなさそうです.副司令の台詞がヒントです.
別レイの喪失がゲンドウによって,それもシンジとの関係で,仕組まれた可能性を示唆します.そこで仮にゲンドウの意図したことだしたら,その意図はどのようなものだったのか,ここで考えたいと思います.
1)喪失を与える理由
与えるのが喪失である理由はゲンドウの個人的なものかもしれません.というのも,自分がそうであったからです.願いのために全てを犠牲にしてきたその動機がユイの喪失でした.なのでシンジにも喪失を経験させれば狂ったように協力してくれるに違いない,といった超弩級の安直だったのかもしれません.勝利者バイアス.他人に当てはめて上手くいく保証は何もないのに.
事実,別レイ以前にも彼は喪失を経験しますが,その都度,自分の殻に閉じこもりました.諸々乗り越えてエヴァに乗っても悲惨な結果となった面はあったので当然といえば当然でした.
したがって,冬月としては喪失がシンジのためになるの?という意味は上記のようにシンジはゲンドウとは違うし…ということかもしれません.
2)別レイ
さて,別レイの喪失によってシンジが何かを強く願い,再びエヴァに乗るかどうか選択の機会をシンジに与えたのでは,という読み方をしました.
しかしながら,それまでのシンジは喪失を与えられても「エヴァに乗りたくない」だったことも簡単ですが指摘しました.しかし,別レイの喪失だけはシンジをエヴァに乗せる方向に作用します.
そこで今度はあえて喪失の経験がシンジのためだったという方向で考えてみます.要するに喪失を与えたゲンドウの意図をもう少し別の視点から考えたい.
次の台詞がヒントを提供します.
このまま第3村で生きたかった別レイでしたが,専用施設で調整しないと個体(固体)を維持できないためその願いは叶いませんでした.補完計画のために造られた存在ゆえの制約から,人として生きることが許されない.まさに理不尽です.
この理不尽な世界を変えられるのはエヴァしかない.もしこの喪失に思うところがあるなら再びエヴァに乗れ,シンジ.
これがゲンドウの意図だったのではないでしょうか.ちなみにこのように考えると,これまでシンジが経験した喪失というのは,別レイだけでなくアスカやカヲルも含めて運命を仕組まれた子供たちが人類補完計画の犠牲になるものでした.ここから,補完計画さえなければと補完計画のない世界を願うとき,その行き着く先はネオンジェネシスとなります.
シンジがネオンジェネシスに至ることはゲンドウの意図するところではなかったと思いますが,少なくともシンジにとっては別レイの喪失がきっかけとなっており,そのきっかけを与えたのがゲンドウだったという考察になります.
本記事の主題は概ね以上になります.
3.第10使徒戦について(おまけ)
(1)マリとシンジ
「願い」に関連して第10使徒戦を取り上げたいと思います.ここにはシンジが再びエヴァに乗る経緯について裏話があります.
それは第10使徒戦にあたる旧作ゼルエル戦で,再びシンジがエヴァに乗る理由が描写されなかったことについてです.シンジは加持に言葉をかけられたもののどういう心情の変化があってエヴァに乗ったのかは具体的に描かれませんでした.鶴巻監督はこの空白を想像で埋めてはいたものの,『:破』に取り組む中で結局庵野さんの考えとは違っていたとインタビューで明かしています(破全集ハードカバー版).
このような視点で『:破』を見ると,旧作と異なりシンジがエヴァに乗る理由が諸々と補完されていることに気づきます.その1つが上記ゲンドウの台詞です.
この台詞は変更後のもので,変更前は旧作と同じでした(「お前には失望した.もう会うこともあるまい(コンテC-1348.TVシリーズと同じ(19話C-69)).
この台詞により,アスカのとき(3号機事件)と異なり,綾波救出はシンジが自分の願いのためにエヴァに乗ったことが際立つ演出となったわけです.
そして,もう1つ追加されたのがマリとの会話です.
この台詞の直後に零号機捕食シーンとなります.そしてこの台詞は『これまでのヱヴァンゲリヲン』や『Character Promotion Reel 真希波・マリ・イラストリアス』にも拾われておりマリの重要な台詞ということは示唆されていましたが,残念ながらその意味はよく分かりませんでした.
ちなみに『Q』『シン』で繰り返されます.
このように他の台詞も並べることでマリとカヲルの台詞がシンジの台詞のための伏線だったと気づきます.
それはそれとして,上記マリの一言が何かしらシンジのエヴァに乗るきっかけになっていることを以下で示したいと思います.特に"泣いていたら救えない"を参考に.
具体的にマリや他の人の台詞とシンジの行動は次のような関係になっています.
加持については,シンジがエヴァのケージに向かって走る場所が加持の畑(蛇口とスイカの描写)にすることで関係を匂わせています.彼の具体的な台詞は「それはオレに出来ない,君にしか出来ないことだ」(破C-0764)に掛かっています.エヴァに乗って綾波を救うことはシンジにしか出来ないこと.
ちなみに『:Q』の場合,カヲルはマリと同じような台詞を言いますがシンジはピクリともしません.もうその言葉は効きませんという.そこでDSSチョーカーを自分に移すことでようやく安心させて乗る方向になります.
(2)庵野マジック
先ほど旧作ゼルエル戦のマジックに触れました.シンジがエヴァに乗る動機が全く描かれないのに,庵野さんの編集力でその辺り疑問が持たれないように作られているという.実は,本作でも第10使徒戦にはマジックがあると思っています.
それは次のようなことです.第10使徒戦では,エヴァに乗れば綾波を助けることができる,少なくともその可能性があることをシンジがそれなりに確信していないと成立しません(使徒を倒すためにエヴァに乗ったということも考えられますが,シンジの中では「世界がどうなったっていい,でも綾波だけは絶対助ける」と「世界<レイ」です).
しかし,第10使徒の捕食を目の当たりにした我々一般リリンとしてはあれはどうみても綾波南無三です.救出可能とは想像もつきません.それなのにシンジはなんの迷いもなくケージに直行し,そしてあのラストシーンが始まるのです.どうして彼は助けられると思ったのか.
映像に音楽,圧倒的情報量でツッコむ暇を与えませんが,冷静になってみると,彼が当然のように使徒のコアに手をかざすところなどは,「おいおいおいおい,待て待て」(某兵長)となる方がいてもおかしくないです.おそらく『シン・』のオリジナルアスカがヴィレアスカを回収するシーンでも用いられたあの特殊なATフィールドの使い方.旧劇のアスカのように(これが本当のATフィールド!のシーン),シンジが急にその使い方に目覚めたというのでしょうか.
というわけでシンジがエヴァでレイを救えると考えた根拠について果たして設定はあるのかというところですが,綾波救出が急遽こしらえたシナリオであるため(破全集インタビュー.簡単には「ゲンドウの話/リリスの転向」の2),特にないかもしれません.
『:破』でシンジの願いはいったんクライマックスとなります.そして変わり果てた世界を前にシンジはあらためて何を願うのか,すなわちどのような思いでエヴァに乗るのか.これがQ以降の物語となります.
今回は以上になります.お読みいただきありがとうございました.
・参照記事一覧
「初号機の素体」
「13号機とシンクロの話」
「ゲンドウの話/リリスの転向」
・参考文献
A. リチャードソン/ J. ボウデン編『キリスト教神学事典』(教文館,2005年)
画像:©khara/Project Eva.
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