【エヴァ考察】綾波レイと等身大エヴァ
今回は等身大エヴァという,少し変わった観点から綾波レイついて考えていきます.全体的に旧作のお話になります.
1.等身大エヴァって、なに?
彼らが何を話しているかというと,24話でターミナルドグマ(新劇のセントラルドグマ.リリスの安置所)に向かう第17使徒,渚カヲルをシンジが初号機で追うシーンについてです.あそこで没になったシナリオがあったと.
引用しませんがこの引用箇所の後ろで,当初は最終的にカヲルを潰すのはアスカが乗った弐号機だったと明かされています.それがやはり手を下すのはシンジじゃなきゃということで本編の形になったそうです.
この没案で登場した等身大エヴァとは何だったのか.等身大の用法はさておき,何とかライトで弐号機を人間サイズに縮めたという話ではおそらくありません.
さらに気になるのは,果たして当初のシナリオはどこまで没になったのかということ.たとえばカヲルにとどめを刺す者のみが没になったのか.それとも等身大エヴァという設定自体までも没になったのか.
当然,等身大エヴァが気になる筆者としては前者,等身大までは没になっていないと予想したいところです.というのも,ここまであえて触れませんでしたが,本編でカヲルとシンジを追ってターミナルドグマまで来た人物がいました.
綾波レイ.わざわざ2人を追ってきたのに離れたところからただ眺めていただけという不可解な行動と,何より強力なATフィールドを発生させました.彼女と等身大エヴァは関係ありそうです.
2.綾波レイって、なに?
さて,同書の続きにはレイに関する次の記述があります.
注目したいのは太字強調部分です.そこから読み取れるのはどうやらレイがいわゆるクローン人間ではないこと.ユイのクローンなら「遺伝子的には人間」のはずです.鶴巻さんの「たぶん、違う」という曖昧な回答は,例のごとく庵野さんがメインスタッフにも設定を共有していないことを表しています.なお,引用太字の「アダムの遺伝子」云々は後で触れます.
一般的に理解されるレイの正体はリリスの魂をもった人間(ユイ)のクローンです.リリスはエヴァの世界では神に等しい存在ですから,魂=リリスで体=人間,つまり半分神で半分人間の「デビルマン状態」ということになります.
もっとも,鶴巻さんの「せめて遺伝子的には」という意見が容れられなかったことからは,からだ自体も人間ではないという印象を受けます.次のシーンを思い出してください.
第16使徒戦で零号機ごと自爆したレイ.そのプラグの残骸を覗いたリツコの台詞です.極秘にしたいのはもちろんプラグ内の「最終的には人間じゃない」綾波レイ.画像のプラグ内を気にさせるアングルが体も人間ではないことへの想像を掻き立てます.
3.複製体のシーンって、なに?
そもそもエヴァとは、レイとは何か.
ネルフの地下施設にてリツコがレイの複製体を壊すシーンです.エヴァの難解台詞四天王の1つ.理解困難の原因は情報過多が1つ.
もう1つは,大量にあるレイの複製体を見せられた状況で唐突にアダムとエヴァの説明がされることでしょう.引用しませんでしたが上記引用の直前で、南極のアダムをセカンドインパクトで消失した話に絡めて,エヴァが造られた経緯を博士は明かします.大量のレイを目の前にどうしてその話をするのか.話の筋が見えにくいことが理解を妨げています.
そこで筆者の関心から台詞を次のように強引に整理します.
筆者の理解では,まず一連の台詞はエヴァとレイを一緒に取り上げることに意図があった.エヴァのアナロジーでレイを理解するために.
つまり,エヴァとレイはサイズが異なるものの共に人造人間であることを示すことで,エヴァの理解をレイの正体への糸口とした.そのような意図でこの台詞が差し込まれたのではないか.
それでは上の台詞を“魂とその器“いう観点から読んでみましょう.
まず「みんなサルベージされたものなの」というのは,レイの魂はリリスから引き揚げたものであり,器であるレイの複製体も初号機にダイブしたユイのサルベージ作戦で得られたものであること.つまりレイを構成する魂と器はいずれもサルベージされたものと理解できそうです.
また「ガフの部屋は空っぽになっていた」とは、ガフの部屋(おそらく黒き月)に残っていた最後の魂がレイに宿り、その魂はドグマに安置されたリリスのものであることを意味する.
そしてさらに,レイと同じ造りであるエヴァがアダム引いてはセカンドインパクトに関わるという種明かしも盛り込んだ.元来分かり易いを良しとしない方針に加えてこうした別の内容を接木したためウルトラ難解マンが生まれてしまった.私の理解ではこんなところです.
蛇足ですが、先の難解な台詞が出来た原因を推し量れるスタッフの記述があります.次に引用するのは,24話でカヲルがドグマの巨人がリリスであると気づく場面について、物語も終わりに近づく中で(26話が最終話)どうして今更リリスという新たな謎を追加したのか話している箇所です.
種明かしのタイミングを逃しつつあるなかで、レイの秘密にセカンドインパクトに絡めたエヴァの種明かしを無理やり差し込んだ.それが上記接木台詞の理由なのかもしれません.
4.レイの器って、なに?
さて,エヴァとレイの共通点を示したのが先ほどの23話.等身大エヴァが登場する予定だったのが24話となります.すると先ほどの台詞の,レイとエヴァを1つに括るような口ぶりは等身大エヴァ=レイの伏線として理解できる,というのが以上で述べてきたことから導かれるここでの仮説になります.
次のシーンは,等身大エヴァの名残りと見ることができます.
レイは物語の後半になって、カヲル同様に強力なATフィールドを発生させたり、空中に浮かべたりと突然ヒトを超える力を発揮します.
もっとも,等身大エヴァ=レイの仮説は問題を残しています.上述した通り、レイの魂と器をつぶさに見た結果、魂については先ほど一応結論が得られました.問題は器についてです.
先ほどから引用した文章に,レイにアダムの要素があることを示唆する発言を度々みられました.気になります.彼女の体=人間説は疑わしく再考の余地を感じているところでした.
そこであらためて彼女の器の正体つまり素体を考えていきます.ヒト以外の候補となるとアダム説とリリス説でしょう.まず後者のリリスから検討します.
リリス説の根拠はユイのサルベージが初号機で行われたことが挙げられます.初号機はリリスのコピーなので,そこから救出されたユイの要素にリリスの要素も混ざっていたと.ユイの情報はレイの器をユイの形に整える程度にすぎず、そのほとんどはリリス由来というイメージでしょうか.
したがって等身大エヴァとはいわばミニ初号機であって,レイはリリスの魂とリリス由来の素体を持ち,カヲルはアダムの魂にアダム由来の体を持つ.2人は綺麗に対をなす.
このようにお互いヒトの姿をした神だった.と結論づけられたらよかったのですが大きな問題があります.混み入った話なので次で説明します.
5.死に際のあなた、なに?
旧劇ではヒトが命を落とす際,綾波レイが現れる様子が描かれました.多くの人がこのレイはリリスであり,ヒトの魂がリリスに還ることの描写など考えられてきました.
誰も指摘しませんが聖書のイエスの母マリアが元ネタでしょう.
もっとも,イエスという特定人物に関係する設定を不特定リリン全員に拡大するのはどうなのという気もします.この借用の仕方については説明を要します.
まず聖書における「神の子」にはイエスという特定人物の他に、キリスト信徒一般を指す用法もあります.エヴァに引き直すと神リリスと神の子リリン.
そして神リリスは生命の源=母でもありました.つまりリリスは神であり母.そしてリリンは神の子.ここで神の子と母という設定が重なるイエスとマリアの逸話にリンクします.母として子の死を看取るマリアの設定をリリスとリリンに類推したと理解できるのです.
説明が難しくて申し訳ない.さてここからが本題です.
画像は1人目のレイ(チビレイ)がリツコの母ナオコ博士に首を絞められるシーンです.瞳の中がわかりにくいかもしれませんが,資料には「意識が薄れていくレイの顔のドUP.その瞳に映るカヲル」(コンテ・AR台本)とあります.
先ほどの説明から理解できるのでしょうか.死に際のカヲル君?急にどういうことですか,わけわからないですよミサトさん.
まず,ちびレイがレイの幻を見ないことの説明は簡単です.レイ自身が母マリアなので自身の死を自ら看取ることなどできないからです.
問題は,なぜカヲルの幻を見たのか.これが先ほど申し上げたレイ=リリスの魂+リリスの器説の問題点です.この見解はどうしてカヲルの幻影を見るのか説明できません.おそらく説明しようとしてもよく分からない新たな設定を持ち出すことになるでしょう.
6.1.アダム説
そこで頭を切り替えて,もう1つの見解すなわちレイの器=アダム説を検討してみます.
以前は劇中でアダムだったものがリリスと判明した混乱も相まって,この検討に躊躇していましたが,最近はその必要もないとわかったので,改めて考えてみたいと思います.
台詞によれば,カヲルはアダム由来の素体を持つ,いわば“等身大エヴァ“です.その彼がレイに「君も僕と同じだ」というとき,それは先ほどのように①お互い神の魂と神由来の器を備える存在としてという理解に加えて、②レイもアダムの器を持つ者と読むことも可能でしょう.
アダムは全てのアダム由来の生命の源であるため,カヲルの幻を見た先の現象はイエスの死を看取る母マリアで読み解くことが可能になります.母マリア/子イエスをアダム/アダム由来の生命体に適用するのです.
このようにレイの器をアダム由来と考える帰結として,リリンが死の淵で見たリリスの幻影と同様に,レイの「瞳の中のカヲル」を理解することができます.
こうした説明で何か不都合があるかと言われれば,実は何もないのです.むしろ説明がつくことがたくさんあります.
自爆した零号機のプラグ内の光景がわざわざ極秘とされることもレイの人外を匂わせるためのものだったと理解できます.また,綾波レイは魂がリリスでその器はアダム由来のまさに人型サイズの人造人間(エヴァンゲリオン)だったということになるので,カヲル君同等の強力なATフィールドを発生させられるわけです.
さらに最初の方で引いた各スタッフの発言,レイは「最終的には人間じゃない」,「せめて遺伝子的には人間にしてくれって話を,ずっとしてた.でも結局なんか,ダメだったみたい」(鶴巻)や彼女が「アダムの遺伝子を受け継がれている女」(貞本)も端的にアダム由来であることを端的に示していたことになります.
そして上の画像のように液体に浸かるシーンは新劇場版でも見られました.新劇完結後に振り返ると,これはレイの体がアダム由来ゆえに必要となった処理と理解できます(下記記事参照).レイの人外という設定は新劇にも引き継がれていることがわかります(彼女は新劇で生命の実の性質を持つ生命体でした).
以上,これにて瞳の中のカヲル君はひとまず片がついたと思いたい.
結局,先ほどリツコ博士がレイについて「みんなサルベージされたものなの」と言った意味とは,レイの魂はリリスで体はアダム由来の素材をユイの形に仕立てたというように,すべて他から回収されたもので構成されていることと考えられます.何一つヒトの要素がない.またここから半分人間,半分悪魔の「デビルマン状態」,「最終的には人間じゃない」というスタッフの言葉も理解が深まったことと思います.
7.精神分裂(おまけ)
ところで等身大エヴァ、皆さんはどういう印象でしょうか.突拍子もないでしょうか.いいえ新劇に似たような方がいました.
旧作とつながることでサイクロプスパパが少し身近になったのではないでしょうか.初見の時は驚きました.おっさんが急にビーム出すんだもの.というわけで諸事情で本編に盛り込めなかったものの,記事全体に関連する小ネタを最後に大放出します.
(1)ユイの欠片
今回でヒトと呼べる要素がほとんどなくなってしまった綾波レイですが,スタッフによれば「半分はユイの遺伝子」です.真面目に考えると半分もあるかいと思うかもしれませんが,個人的にレイにはユイの情報がそこそこ入り込んでいると考えています(魂と体の両方に).それは例えばTVシリーズ23話の第16使徒戦で垣間見れるように思います.
突然凍結が解除され出撃となった初号機を第16の使徒が襲い,シンジを庇うためにレイは自爆を決意します.彼女が死ぬ間際に光に見たものはご存知ゲンドウです.
確かにレイにとっても碇親子は特別な存在でしょうが,ユイにとっては言わずもがな.愛する者のために,愛する者の幻を見て彼女は逝った.躊躇なく自らを犠牲にシンジを助ける行動とゲンドウの幻視は,レイの中のユイの魂=心がそうさせたと考えると腑に落ちます.
したがって,ゲンドウとシンジをレイの最後に絡ませる構成は,レイの中のユイに光をあてたかったからと理解できる可能性が一応あります.
これは別の視点から言えば,レイの魂にはユイの魂も混じっているという見方を可能にします.
(2)魂の分裂
そこから発展させて,ユイの魂は初号機とレイに分裂したという見方ができます.たとえば惣流アスカの母キョウコさんを思い出してください.コアとの接触実験から戻ってきた彼女は魂のほとんどを弐号機に取り込まれても,なお夫への愛憎や人形をアスカと思い込む程度には心をヒトの体にも残している.彼女も魂が分裂していると見ることができます.
そして新劇でゲンドウがレイにユイをはっきりと見たのはレイにユイの魂があるからかもしれません.
ユイはシンジの中にもいた.これについては初号機に溶けた時にシンジに入り込んだと言われたりします.個人的には産むことを通して自身の魂の一部をもシンジに残していた可能性もあると思います(生まれたときから“ずっと“).もっとも新劇のユイは旧作とは設定が異なるためもう少し丁寧に見ていく必要がありますが.
(3)コアへのダイレクトエントリー
話は変わりますが,一般的に,新劇なら第4使徒戦の初号機の暴走はユイが動かしていたと考えられています(旧作なら第14使徒通称ゼルエル戦の覚醒初号機も).
そしてシンエヴァでは,画像の首の跡の通りゲンドウは13号機と完全にシンクロしています.この描写に加えて,ゲンドウが13号機の口に飲み込まれた描写や,同機体のエントリープラグには既に2名搭乗していることから,ゲンドウは13号機のコアにダイブしていたと考えられます.
新劇では「コアへのダイレクトエントリー」という言い方もしますが(Q・C-853)同じことを指します.注目したいのはエントリーという語を用いるようになったことです.
エントリーといえばエヴァのコントロールシステムで用いられる言葉です.ユイのエントリーは「極初期型制御システム」の一環として行われました.ユイがダイレクトエントリーで目指したものの完成形がこのゲンドウだったのでしょうか.
そこではエントリープラグを用いたエヴァの操縦ではなくコアへ融合することでより直接エヴァを操るみたいな話だった可能性があります.上述「初期型制御システム」という台詞にそういった設定背景を読み込むことはできないか.
エントリーするユイさんがプラグスーツを着用していたのは,彼女があくまでパイロットの位置づけだったことの表れなら合点がいきます.
以上ユイを引き継ぎ完成させたのがシンエヴァでのゲンドウのダイレクトエントリーだったかもしれないというお話.
ところで彼は自我を保ったまま同機体を完璧に操縦しているように思えます.シンジと言葉のやりとりをしながらなので,いわゆるながら操縦で余裕があります.
同じくコアにダイブしたにもかかわらず,ゲンドウに比べユイは不完全な印象を受けるのは未完成の理論に基づいたということに加え,ユイの分裂した魂が原因ではないかとも考えられ,先ほどの話につながるわけです.ユイの魂が初号機とレイに分裂してしまったこと.
もっとも,ゲンドウが完全に融合できたと考えられる理由はもう1つあります.ネブカドネザルの鍵です.この鍵,劇中でなんて言われていたかというと「神と魂を紡ぐ道しるべ」(加持)でした .13号機が神の機体であることは以前より指摘してきたところです.するとこの「神と魂を紡ぐ道しるべ」とは“エヴァにヒトの魂を融合させるキーアイテム“と理解できるように思えます.ヒトのままでは土台無理な実験だったのでしょうか.
ゲンドウはこの鍵を使ってヒトという器を捨てエヴァという器に移行した.もっともネブカドネザルの鍵自体はその経緯や名称の由来などまだまだ謎は多く,今後の課題となります.
(3)e.t.c
最後に、独断で格付けしたエヴァ難解台詞四天王ですが、そのいま1つは「悠久の時を示す赤き土の禊」です.これについては以前解説しました.
今回は以上になります.最後までお読みいただきありがとうございます.
質問や感想等あればよろしくお願いします.
・参考文献、記事等
大貫隆ほか監修『岩波キリスト教辞典』(岩波書店、2002年)
木田献一・山内眞監修『新共同訳 聖書事典』(日本キリスト教団出版局、2004年)
画像:©khara/Project Eva.
※追記(2021/12/11)
「7.結びに代えて」を大幅に増補
※追記(2022/1/24)
「7.結びに代えて(3)コアへのダイレクトエントリー」に加筆
※追記(2022/10/2)
「6.諦観」を削除,「6.1.アダム説」を追加
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