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刺蝟記

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デジタルハリネズミ
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損なわれたもの

損なわれたもの

 東日本大震災のあと三度、いわき市を訪れた。まず、その年の八月に久ノ浜地区を訪れ常磐線の臨時バスから遠く福島第一原発を眺めた。次に、同じ年の十月に旧磐女出身であるバイトの先輩にマークXでいわき復興祭まで拉致され、いわき踊りを踊った。あと、もう一度いわき市を訪れたと思うけれど、いつ行ったのか思い出せない。青春十八切符の余りで行っただろうから十二月か一月だと思うけれど。

 この写真はそのとき小名浜の

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どこかの海

どこかの海

 トイカメラの楽しさは日付と位置情報の無さ、にある。もちろん日付を設定できるトイカメラもあるけれど、電池を交換すると日付が初期設定に戻ってしまい、そのままになっていることが多い。だから後日に画像データを見返しても、いつどこで撮ったか分からない写真が何百枚も出てくる。やけに親しげな三人の違う女性が同じ日の画像データ集に出てくる、なんてこともある。

 海の写真である。おそらく主な被写体は今の妻だろう

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産まれた日の空

産まれた日の空

 午前五時に産気づいた妻を病院へ連れていく。九時前に破水して、十時に児が産まれる。一眼レフで妻と産まれたばかりの児を何枚も撮る。それから、市役所に出生届を出して、入院に足りないものを病室に届けて、忘れ物を届けてと自宅と病院を何往復もする。

 午後になり病院の駐車場も混んできて屋上にしか停める場所がなくなる。車内が暑くなるので、みんな屋上には停めない。屋上から見た青空はどこまでも広がって、街全体を

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