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そして(クマムシ)伝説へ【読書感想】鈴木 忠「クマムシ?!小さな怪物」

鈴木 忠 「クマムシ?!小さな怪物」 岩波書店 


クマムシ伝説


・放射線を浴びても死なない
・真空でも平気
・電子レンジでチンしても、余裕
・曰く、最強

数々の伝説がささやかれる、今話題のモンスター
クマムシ

その謎に迫る!

伝説の元になったもの

さて、そのモンスターだが。実物は1ミリにも満たない小さな生き物。
口絵写真のクマムシ。これがなかなか可愛い。
顕微鏡サイズの生き物というと、アメーバとかワムシとか。とにかくグロテスクな形を想像するけれど。
それに比べるとクマムシはずっと「動物」っぽい形をしている。なんだかモコモコムクムクしていて、ぬいぐるみのような。「熊」に例えた人の気持ちが分かる。
陸にも海にもどこにでもいるが、クマムシ研究者は何故か屋根上の苔から採取してくるのがお約束らしい。この本で引用された数多の論文・文献で、やけに「屋根の上」の文字が目についた。
そう、この本は、クマムシに関する過去の研究をまとめ、検証したもの。
クマムシ最強伝説の元ネタを探る本である。

そして探った結果は・・・・・・
伝説のほとんどは、誇張が過ぎる、ということ。

クマムシが恐ろしく耐久性が高いのは、論文によれば事実なのだそうだ。
ただその論文の解釈に問題があったり、インパクトのある部分だけを切り取って流布されたりしているのが、巷のクマムシ伝説。

というか。
本当のところ、クマムシ研究は始まったばかりで
まだ何もわかっていないに等しいくらいのようだ。
一般人に分かりやすいインパクトのある部分だけがクローズアップされて、やがて現実と離れた噂になって一人歩きしていくのは世の常だけれど。
そのタネを作ってしまったのは、自分たち研究者なのだと言う。作者に拍手。
その責任感。自負。科学者魂を見た。
カッコいい。好感度爆上がりである。

研究者の好奇心

「クマムシを飼いたい」
本文抜粋。作者の一言である。
飼うって・・・。
いやそんな、良い年した研究者が。大学で教鞭取るような教授が。
きらっきらに目輝かせた少年が「犬飼いたい」みたいなノリで言われても。
研究者という人種には、たまにやたら可愛い一面がある。

研究を進めるには、その生き物を継続的に観察する必要がある。
野外活動なり、実験室で飼育するなり。
クマムシみたいな小さな生き物なら楽に飼えそう。と思うのは、素人の浅知恵だった。
小さいからこその苦労というものがある。
餌の用意に、生活環境。
甲斐甲斐しいお世話の日々だ。
顕微鏡サイズの世界ではほんの少しの環境変化が命取りということも。
研究者の著書だから語られる、論文には載らない現実。
論文の行間に垣間見る研究者の苦労に思いを巡らせるのもまた楽しかった。

クマムシ まだまだ謎だらけ

さてそんな、研究者も一般人も魅了してやまないクマムシ。
実はその生活史も耐久性も、その鍵となる生理機構もまだほとんど分かっていない(この本は2013年発行だからもう少し研究は進んでいるかもしれなが)。
それどころか世界中から新種が見つかる段階だとか。
まだまだ、何種類いるかすら分かっていないということ。
新発見をして歴史に名を残したい人は、クマムシ研究は狙い目かもしれない。


研究なんてものは、別に「人間の役に立たなければならない」必要は無いと思う。
「知りたい」という好奇心だけで十分だ。

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