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「即興」

大学の掲示板に貼られていたチラシを見て興味を持ち、その日は午後に指定されていた教室を訪ねた。
山海塾に所属する舞踏手、岩下徹と学生が主催の即興表現の自由参加セッションが行なわれると言う事だった。

それまで、土方巽の名前くらいは聞いたことがあったかも知れないが、暗黒舞踏を見たことはなかった。
チラシにあった岩下徹の経歴、滋賀県の精神病院でのダンスセラピーの試みに興味を抱いたのだと思う。

複数人が教室の空間の中で、場を支えるために関係性を作っていた。岩下がリードして引っ張り上げていた部分はあったと思う。

小さい頃に兄の通っていた養護学校の親子旅行に連れて行かれていた。スキー旅行に行った年、夕食前だったのか皆んながホールに集まって時間を潰していた。

私は1人で椅子に座って何も考えずに周りの様子を見ていた。手をブンブン振りながらグルグルと歩き回っている体の大きな男の子や、椅子の上に体育座りをして、じっとしている人がいた。

ブンブン歩き回っていた子が、体育座りをしている人の目の前を通りかかった時に、それまで微動だにしていなかった彼が、パッと手を伸ばして腕を掴んだ。体の大きな男の子の動きが瞬間止まった。

私は、その出来事に驚いたが、彼は直ぐに掴んだ手を離して、お互いが何事もなかったように元の動作に戻ってしまった。他に見ている人もいなかった。

関係性によって、劇的に場面が変わる衝撃。その時の事を思い出して、それから岩下徹の即興セッションに通い詰めるようになっていった。

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