【コロナで脱資本主義】エピソード3 なぜ、彼はパンと帽子の交換を拒否したのか?(1)
エピソード3
なぜ、彼はパンと帽子の交換を拒否したのか?(1)
さて、こうしてマルクんの言うところの「分数の計算」を学ぶことになったボクとエリカだが、二回目の講義で、完膚なきまでにボクのやる気をそぐかのようにマルクんが発したフレーズを、ボクは永遠に忘れることはないだろう。
「さて、エリカさん、多喜二くん。胸やけがするかもしれませんが、五秒間だけ我慢して、このフレーズを見てください」
そう言って、マルクんはその「胸やけのする」フレーズを黒板に書いた。
―― 交換とは、異なる使用目的を持つ同価値の商品間においてのみ成立しうる経済行為である ――
「エリカ。俺、帰るわ」
「ちょっと、なに言いだすの!」
「だって、あのフレーズ、さっぱりだし、俺には永遠にわかりそうにないし……。それに、資本主義の仕組みなんて知らなくても、別に俺、困らないし」
だが、エリカは、教室を出ようとするボクの腕を掴んで言った。
「多喜二。マルクんの狙いがわからないの?」
「狙い?」
「マルクんは、別に私たちを奈落の底に沈めたいわけじゃないの。確かに、最初にこんな『言語明瞭、意味不明瞭なインテリジェンスなフレーズ』を持ち出されたら、そりゃあ不安になるわ。でも、逆にそのほうが、その意味が理解できたときの喜びもひとしおなんじゃない?」
すると、マルクんが合の手を打った。
「まさしく、それが私の狙いです。二人には、これから、このフレーズが理解できたときに感じる感動を味わってもらいます。もちろん、心配ご無用。
乗れなかった自転車に乗れるようになったときには、もはや『乗れないことができなくなる』。ですよね?
同様に、私の説明を少しだけ聞けば、このフレーズも『理解できないことができなくなる』こと請け合いです。
あとで、このページに戻ったときに、『どうしてあのときは、こんな当たり前のフレーズがわからなかったのだろう』と、未来の二人は、現在の自分を不思議に感じることでしょう」
ボクは、「このページ?」と突っ込みそうになったが、なぜかその一言が「特定の人たち」にはとても重要なことのように思えて、やめておいた。
って言うか、さっきから、ボクとエリカ以外にも、マルクんの講義を一緒に聴いている人がいるように思えてならないのはなぜだろう……。
ボクがそんなことを考えていたら、マルクんがたとえ話を持ち出した。どうやら、そのたとえ話で、先ほどのフレーズが理解できるようになるらしい。
※※※※※※※※※※
ここに、外国語をマスターしようとしている二人の女性がいる。英語をマスターしようとしている「あゆみ」さんと、フランス語をマスターしようとしている「來未」さん。
二人は、三年間、一日も休まずに勉強に勤しみ、結果として二人ともネイティブ並みの語学力を習得することができた。
では、ここで二人に質問したい。
「あゆみさんは三年間も勉強したのに、なぜフランス語が話せないのでしょうか?」
こんなことを聞くと、二人に叱られそうである。
「あゆみさんが勉強したのは英語でしょう。だからフランス語が話せなくても当然じゃないですか!」と。
ごもっともである。「三年間、勉強した」というのは勉強の「量」である。しかし、勉強の「目的」は「英語」であった。だから、あゆみさんは英語は話せてもフランス語は話せない。
しかし、この「ごもっともなこと」が、「勉強」だけではなく「労働」にも当てはまる、と言うと、「え? それはどういうこと?」と、ちょっと焦り始めるのではないか。
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エピソード4までは無料でお読みいただけます。 「資本主義はもっとも優れた経済制度」と子どもの頃から刷り込まれ、それを疑うこともしない日本…
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