自分の論文を自分で解説する(その1)
先日、初めて論文を出すことができました!いえ〜い!
その論文がこちら!
タイトルは
「光子数が保存する空間3次元・時間依存型 一般相対論的輻射輸送コード:CARTOON」
です。長いですね。
天文学分野の研究になります。
その中でも、特にブラックホール天文学という分野の研究です。
せっかくなので、今回の論文の背景や内容を噛み砕いて紹介してみようと思います。
「その1」というの部分には、今後また論文を出したときにもやりたいな、という気持ちが入っています。
キーワード
まずは、この論文を説明するときに重要となるキーワードを選りすぐって、簡単に説明したいと思います。
ブラックホール
宇宙に存在する超高密度天体です。
平たく言えば、超重いのに超ちっちゃい星です。
どれぐらいの密度かというと、地球と同じ質量で角砂糖サイズ、これくらいの高密度な天体がブラックホールです。とてつもないでしょ?
超高密度のため、ブラックホールの周辺では重力がとても強くなります。
重力がとても強い天体の周りでは、光の軌道が曲がるなどの特有な現象が起こることが知られています(地球上での太陽の光は直進していると考えて差し支えないですよね)。ブラックホール降着円盤
ブラックホールの周りの物質は、その強い重力によりブラックホールに落ち込みます。
ブラックホールに物質が落ち込むとき、真っ直ぐ直線的に落ち込むわけではありません。
渦を巻くように、回転しながらブラックホールに落ち込んでいきます。
ちょうど、天気図で見た台風のようなイメージです(台風の目がブラックホールの位置にあたります)。
このように、ブラックホールに回転しながら物質が落ち込むときにできる円盤状の構造を、ブラックホール降着円盤と言います。輻射
光・放射のことです。
天文学では、慣習的に光・放射のことを輻射と呼びます。輻射輸送・輻射輸送方程式
天文学や大気物理学で、物質中を通過する輻射の持つエネルギーの変化を取り扱う手法を輻射輸送と言います。
例えば、「太陽からの光が地上の空気をどれだけ暖めるか?」などを考えたいときに必要です。
また、輻射輸送を調べるときの基本となる方程式を輻射輸送方程式と言います。この方程式を解ければ嬉しいわけです。数値シミュレーション
近年のコロナ情勢の中、ニュースなどで飛沫が広がっていく映像を見たことがないでしょうか?
飛沫の拡散は、複雑すぎて人の手で計算することはできません。
そういう複雑な現象を予測するには、コンピュータによる計算が必要です。
現実の複雑な現象をコンピュータの中に作り出し、計算をしてもらう手法のことを数値シミュレーションと言います。
宇宙で実際に起こる現象は複雑すぎるので、数値シミュレーションを用いて研究する場面もたくさんあります。
この論文の目的は?
ズバリ一言で!
ブラックホールの周りで、輻射の伝わり方を正確に計算することです。
なぜブラックホールの周りでは輻射が重要なの?
ブラックホール降着円盤など、周囲の物質の構造に大きな影響があるからです。
みなさん、シャボン玉を想像してください。
シャボン玉の表面では、シャボン玉の外側の空気から受ける力と、内側から受ける力が均衡しているので、ある大きさの玉として存在します。
この力は、どちらも圧力のお仲間です。
シャボン玉のような感じで、空気や水のような流動的な物質(流体)の表面では、圧力のバランスが重要です。
世の中、いろんなものが圧力を加えることができます。
空気からの圧力は大気圧ですし、水からの圧力は水圧です。
同じように、光も圧力を加えることができます。これを、輻射圧と呼びます。
よく知られた現象で、輻射圧が重要なものに、彗星のしっぽがあります。ほうき星です。
![](https://assets.st-note.com/img/1665145978378-EQO7V2Qef9.png?width=1200)
彗星のしっぽがなぜできるかというと、宇宙に存在する細かな砂のような物質(ダストと言います)が、太陽の光による輻射圧を受けているからなんです。
このように、実は光も圧力として物質に力を加えることができます。
ブラックホール降着円盤の話に戻りましょう。
ある特定の種類のブラックホール降着円盤では、降着円盤の内側で効果的に輻射圧が働きます。
こういった状況では、降着円盤の構造を知るためには、どのように輻射圧が働くかを正しく知らないといけません。
ブラックホール降着円盤の他にも、ブラックホールのすぐ近くで輻射圧が重要になる現象はあります。
いずれにせよ、ブラックホール周囲の物質の構造を正しく理解するためには、正しく輻射圧を理解することがとても重要になってきます。
正しく輻射圧を理解するためにはどうしたらいいの?
そのために必要なのが、輻射輸送方程式です。
輻射輸送方程式をなんとかして解くことで、輻射圧の親玉となる輻射のエネルギーのような量(放射強度と言います)を求めることができるんです。
ただし、ブラックホールの近くで輻射輸送方程式を解くのは簡単ではありません…
どうしても、数値シミュレーションが必要になってきます。
そのために、今回紹介する論文では、
「ブラックホール近くで輻射輸送方程式を解いてくれるシミュレーション」
を作りました。
シミュレーションの一部を紹介!
今回作ったシミュレーションの結果を紹介します。
ブラックホールの近くに小さな光の球があったとき、その球から放たれる光がブラックホールの近くを伝わっていく様子がこちら!
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/88500706/picture_pc_3b420fd12c5c13db9dea7bedcb774b8c.gif?width=1200)
球から出た光が出た光は、ブラックホールの周りをぐるぐると周りながら伝わっていく。
こんなふうに、ブラックホールの周りで正確に光が伝わる様子を知ることができれば、ブラックホール降着円盤など、輻射が重要な構造をより正確に知ることができるのです。
まとめ
ブラックホールの周辺で起こる輻射が重要な現象は、周りの物質の動きにも影響を与えそうですよね。
周りの物質の動きが変われば星や銀河のでき方も変わって…回り回って、宇宙全体の構造にまで影響を及ぼすこともあるでしょう。
例えばブラックホールなど、小さなスケールでどのような現象が起きるのかを正しく理解しておくことは、宇宙全体の構造を知るためにもとても重要なことなのです。
より詳細な内容を知りたい方は、ぜひ論文の本編を読むことにチャレンジしてみてください!笑
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