見えるシェアから、広がるつながり。シェアする棚がつなぐ地域の可能性と未来
シェアする棚 = 自分もできる?が見える場
南相馬市のアオスバシに設置された「シェアする棚」。この棚は単なる物の展示スペースではありません。地域の誰もが自由に使え、自分のアイデアや得意なことを共有するためのプラットフォームです。
シェアする棚の魅力は、その「見えるシェア」という特徴にあります。例えば、本を並べたり、手作り作品を置いたりするだけではなく、「これもシェアできる?」という疑問が、思いもよらない新しいつながりや活動を生むきっかけになっています。
この棚が目指しているのは、地域の中で「何かを始めてみたい」と思っている人々の背中を押し、参加の間口を広げること。そして、棚に触れた誰もが「もしかして自分にもできるかも」と感じられる場を作ることです。
シェアする棚の実際の使われ方
この棚を使って、あるいはこの棚をきっかけにいろんな活動が生まれています。
1. 小学生が始めた図書館プロジェクト
幼稚園の頃から本が大好きだった男の子が、「いつか図書館をやってみたいと思っているんだけど、この棚を使わせてくれないか?」と来てくれました。そして、この棚で「図書館」を運営してくれています。
彼はこれまで読んできた本を、読みやすさや対象年齢ごとにシールで分類し、訪れた子どもたちが本を手に取りやすいよう工夫してあります。お店に子どもたちが来るたびに手に取ってくれて楽しい時間を過ごせているので、本当においてくれてありがたいなと思っています。
2. 地元のアロマサロンとのコラボレーション
地域で活動するアロマサロンのオーナーが、この棚に自作のアロマ製品を展示。アオスバシの施設内でも香りを調合して使用しています。トイレや作業スペースにぴったりな香りを作り出し、訪れた人々にリラックスできる空間を提供。アロマ製品の認知拡大だけでなく、施設全体の雰囲気を向上させる取り組みとして成功しています。
3. 整体師の体験会:チラシから始まった挑戦
「この棚に整体のチラシを置いてもいいですか?」という問い合わせがきっかけで、新しいつながりが生まれました。「チラシだけでなく、ここで体験会を開いてみませんか?」と提案したところ、棚を活用した整体の体験会が実現。
棚でできることだけではなく、棚があることで生まれるきっかけというのもあります。
また、こういう使い方をしていると芋づる式にいろんな活動の呼び水になり、ネイルサロンなどをやってくれたりもしています。
4. 切り絵アーティストの展示と活動の広がり
仙台でシルエットアートを学んでいた地域の方が、この棚で作品を展示。先生の作品と一緒に合同展示会のようなものをやってくれました。
「まさか習っているだけの自分がこういう展示をしたりできるようになると思っていなかったから本当に嬉しい」といってくれていて、そういう表現の場としても機能できるのであれば嬉しいなと思います。この展示をきっかけにアート関連の展示イベントも複数行われるようになりました。
現在では季節ごとに作品を入れ替えてくれいて、お店の窓際を彩ってくれています。こちらからは場くらいしか提供できていないのですが、嬉しい限り。
なぜシェアする棚を作ったのか?
南相馬市は、原発事故の影響で多くの住民が避難を余儀なくされました。その後、避難解除に伴い戻ってきたものの、地域の暮らしを再建する中で「どうやって地域を取り戻していけばいいのか」という悩みに多くの人が直面しました。
制御不能にも思える困難はだんだん地域の人の主体性を蝕んでいき、結果的に行政任せになってしまいます。しかし、まちのことを他人任せにしていくとどんどん他人事になり、批判的になり、自分が関われないことに孤独を感じるようになると思います。これでは表向きは活性化していても地域の人にとって幸福な生活とは言えません。
だからこそ、もう一度たくさんの人が「地域」に参加し、自分たちの力も使いながら地域を育みなおしていく、そういうムーブメントを作りたかったという思いがあります。
棚を通じて、物を置くことが新しいつながりを生み、地域の日常を少しずつ豊かに変えていく。その繰り返しが、地域の未来をより明るくする手助けになると考えています。
見える場所に置くと、何かがはじまる
活動でもものでも、人から見える場所に置くと何かが始まります。グランドレベルの田中元子さんが1階にこだわっているのもそういう理由もあると理解しています。
「シェアされていることの見える化」は、「自分たちもここを使ってよいのかも知れないぞ、」と人に思わせ、新しいつながりを作り、地域の可能性を広げ、豊かさをつくっていくきっかけになると思っています。
棚じゃなくても、なにかそうやって「いろんな人が参加してOKなんだよー」といえる間口、オススメです。ぜひ試してみてください。