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「乾杯」で鳥取との関係人口を増やしていく -倉吉ビール株式会社 代表取締役 福井 恒美-

東京での商社勤務ののちにUターンで地域活動に従事する福井さんは、少子高齢化と人口減がすすむ鳥取県でコミュニティの再生に取り組む活動が評価され2019年に「総務大臣賞ふるさとづくり大賞」も受賞されました。

今回はそんな福井さんに、都会のメリットとデメリット、コミュニティにとって必要なことなどについて伺いました。

簡単、便利、楽ちん、スピードが都会の魅力!でも

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現在、鳥取県中部にある倉吉市在住の福井さん。大学生のときに上京し、そのまま東京で就職したもののUターンで戻ってきたきっかけは何だったのでしょうか。

福井:「僕は生まれも育ちも倉吉です。大学から東京に出て、10年くらいは東京で仕事をしていました。

その後、いったん鳥取に帰って7、8年会社員をやって、またあることが起きて東京に行って...と、色々とバタバタしていた青春時代でした(笑)

鳥取県に定住したのは自分の家が家業をしていたので、後継ぎとして帰ってきたのがきっかけかな。それで現在、倉吉市に住んでいるというわけです。」

都会暮らしを経て改めて鳥取だからできることに気づいたと言う福井さんに、都会のメリットとデメリットについても伺いました。

福井:「都会の魅力としてよく語られる簡単・便利・楽ちん・スピード―これらは確かに都会の良いところだと、僕も思います。

ただ、それが弱点になることもあるんだよね。例えば”簡単”。良く言われているけど、今はLINEなどで簡単にメッセージは送れるけど、気持ちが伝わりにくかったりするじゃないですか。

一方手紙は汚い字だったとしても、それも含め気持ちが伝わりやすいもの。

つまり、都会のいいところっていうのは裏もあるんだよね。都会は便利で簡単でスピーディーで楽ちんなんだけれども、スピードがあるがゆえに見逃しちゃうこともある。

AからBに行く間に美味しいものがあったり綺麗な景色があったりすごい人がいるのに、スピードを上げてさーっと行ってしまうと、見えなくなってしまうこともある。

昔はゆっくり行くしかなかったからこそ、色んな出会いや気づきがあったという面もあると思うんです。

こうした偶然の出会いは、スピードを重視すると無くなってしまう。本当は魅力的なものなのに、時間がなくて気が付かなかった、とかもね。」

一方、田舎のメリットについて福井さんはどう考えるのでしょうか。

福井:「田舎は、今挙げた”簡単、便利、楽ちん、スピード”はどれも都会には及びません。でも、簡単にできないから考えるし、便利じゃないから工夫する

楽ちんじゃないから寄り道をして、スピードを重視しないから時間を感じられる。町ぶらとか道草とかそういう表現がありますが、まさにそれに近いかな。

ぶらぶらせざるを得ないがゆえに新しい何かに気づいたり、人と人との温かさに触れたり、コミュニケーションを取ってみたり―そういった偶然から生まれるものが、田舎にはあるんじゃないかなと思います。」

生活して感じた「コミュニティ再生」の必要性

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都会と田舎、両方の生活を経験した福井さんはUターンで鳥取に戻ってきた際に、街の変化に気づき危機感を感じたと言います。そこで、ふるさとを盛り上げるために必要なことは「コミュニティの再生」にあると思い至ったそうです。

福井:「鳥取で生活する中で感じたのは、やっぱり関係性が希薄になっていること。

核家族や高齢者の増加、いわゆる少子高齢化が進んで人口が減りどんどん町が寂しくなっていました。

里山では限界集落も増えて、どんどん若い人が住まなくなっちゃったんだよね。するとおじいちゃんおばあちゃんだけが鳥取に残される。

彼らがもっと年を取ると、買い物に行けなくなる、コミュニケーションもとれなくなる。そこに課題意識を感じて、これはまずいなと思いました。

そこで、こうした町の地域づくりに何が必要なのかと考えた時に、商売も大事だけどやっぱりコミュニティなのかなと思って。コミュニティがあるからこそ様々な世代の人たちが繋がれるわけじゃないですか。」

コミュニティを通して地域での世代を超えた繋がりを作るべきだと語る福井さんは、コミュニティをこのように定義します。

福井:「話を聞く場と話をする場を一体化させる―それがコミュニティだと、僕は思っています。

例えば身近なコミュニティはカップルや夫婦。彼女や奥さんがいたら、相手の話を聞く機会もあるし、自分が話をする機会もあるので、二人は同じコミュニティです。

それから家族もそうだよね。さらに、もし近所で話をする人がいれば今度はご近所さんも同じコミュニティ。

そこから鳥取市とか鳥取県とか、もっと大きなスケールだと日本とか。規模の大小に関わらず、話を聞く場とする場を共有することがコミュニティだと僕は考えています。

例えば先日釧路のリモート飲み会に参加したんだけど、終わると釧路行ってみたいなって思ったんだよね。たった1時間くらいリモートで参加しただけなのに。それくらいコミュニティの影響力って大きいと思うんです。

友達とか家族とかご近所とか、一緒に何かをする関係性であることが前提で、それを“共有”できることがコミュニティの醍醐味なんだろうな。」

コミュニティ再生で始めた「地ビール作り」

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そうしたコミュニティ再生に向け、福井さんはシェアハウスやシェアオフィスなどの空き家の活用に目を向けたそう。空き家活用の際に福井さんが大切にしていることは何だったのでしょうか。

福井:「一つは空き家のロケーションがもっているポテンシャルを念頭におくことですね。

僕が運営しているスペースは白壁土蔵群っていう鳥取県で初めての伝統建築物保存地区で、文化庁が管理しています。

だから、この文化的で歴史的な建物をできるだけ保存しよう、という基本方針で空き家活用を考える必要がある。活用者のひとりよがりではいけないんです。

空き家は地域の資源の一つなんです。地域の資源は所有者だけでなく、そこに住んでいる人たちの資源でもあります。

そういう意味でも空き家を活用する際は、地域に住んでいる人たちに納得してもらう必要がある。京都の建物の色が制限されているのもそれが理由の一つだよね。

地域のコミュニティの方々に納得してもらえる物は何だろう、と考えながら空き家を活用することが重要だと思います。」

このように地域の歴史や文化を踏まえて空き家を考えた時にたどり着いたのが、現在行っている地ビール作りだと言います。

福井:「倉吉市は実はキリンビールさんと深いつながりがあって。創設者の一人が倉吉市の出身なんだよね。

磯野長蔵(いそのちょうぞう)さんという方で、倉吉市の初代名誉市民でもあります。五十年ほど前に亡くなられましたが、その方が東京で大変な思いをしながらキリンビールの社長・会長を兼任して日本一にしたんですね。

そういう偉業をなした人がこの町から出てる。それを育てたのは当時の地域の人たちだから、町内の人は誇りに思っているというのを肌で感じたんです。

一方で、こういう偉業をなした人がいると知らない人がいかに多いかっていうのもわかったんです。

そこで『キリンビールの生みの親が育った場所でビール作りをしよう』と思いました。コミュニティの資源である空き家を使って。

ただ、この町でビール事業を興すということには覚悟と責任がいるわけですよ。

キリンさんがもしかしたら見てるかもしれないし(笑)でも実際、元キリンビールの副社長が来られた際に『美味しい!』って言ってもらえてね。少しほっとしました。」

伝統とストーリーを”乾杯”にのせて伝えたい

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福井さんは地ビールを通して、県外の方々にも鳥取県や倉吉市の魅力を知って欲しいと語ります。

福井:「空き家を活用して鳥取と関わる人を増やしたいですが、物理的な距離が遠いとなかなか繋がることができないという欠点もあります。

でも、お店を歩いて移動させるわけにはいかないけど、地域の魅力と歴史を込めたビールは全国に送れるじゃないですか。

まさに今なら倉吉でできたビールを手に持って、みんなでリモートで乾杯してもいいし。そうやって関係人口というか、鳥取県や倉吉市に興味を持ってもらいたい。

鳥取県や倉吉を言葉で表現するだけではなく、思いを込めたもので伝える。同じビールを持って乾杯し、”美味しい”って言いながら共感する。

コミュニティにおいて一番大切な、”話を聞く場所、話をする場所”を作るということに関しては乾杯のできるビールは一番相性が良かったかなと思ってます。」
インタビューの最後に、福井さんが今後目指していきたい地域コミュニティの姿についても伺いました。

福井:「商売は生きていくためにもちろん必要なことだけれども、僕たちは大金持ちになろうっていう気持ちでビール作りをやってるわけじゃないんです。

やっぱり豊かな地域には、必ず豊かなコミュニティがあると思うんですよ。そしてそこには家族みたいな付き合いができちゃう友達も大勢いる。

だから基本的に僕たちが目指してるのは、地域社会が豊かになること。商売はツールにすぎないんです。もっと簡単に言えば、地域に幸せな人を増やしたい。

笑顔があったり、ありがとうっていう言葉がたくさん聞こえるとか。美味しい、嬉しい、楽しいという言葉もそうだと思う。そういう幸せな人が発する言葉がたくさん溢れる社会を目指していきたいです。

そのために僕たちができる最大限のことが、ビールというツールを使った、人と人とのつながりを作るお手伝いなんです。

鳥取県倉吉市の地域の伝統や誇りがつまったビール作りを通して、今後もコミュニティ作りのサポートをしていきたいですね。」

地元の伝統と誇りが詰まった商品を作っている福井さんの言葉には、郷土愛が溢れていました。

SNSが生まれて簡単に人と繋がれる一方、孤独感を感じることの多い現代社会。本当のつながりとは何か、コミュニティとは何か。福井さんの言葉には、アフターコロナ を考える際のヒントが隠されているかもしれません。

倉吉ビール株式会社 代表取締役 福井 恒美                                                株式会社鳥プロ代表取締役及び倉吉ビール株式会社代表取締役。 鳥取大学地域学部非常勤講師。 2019年総務大臣賞ふるさとづくり大賞受賞。人口減少と高齢化が進む地域において、コミュニティのつながりや希薄になりつつある状況に課題を感じ、持続可能で豊かな社会を作るためコミュニティの再生に取り組むなど、地域を活性化する事業を数多く手がけてきた。

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