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森が私の原動力。”暮らし”で得られるエネルギーで子育て改革 ー智頭の森こそだち舎 理事長 西村 早栄子ー

県外から移住してきたからこそ気づく、鳥取の魅力とは。今回インタビューをした西村さんは、ご自身が東京からのIターン。各種メディアに取り上げられている「森のようちえん」をはじめ、フリースクールやシェアハウスなど鳥取県の自然を生かした教育活動に取り組んでいます。

今回は西村さんに智頭町で森のようちえんをはじめようと思ったきっかけや、活動の原動力などについてお話を伺いました。

はじまりは自分の経験、智頭町での満たされた子育てを広めたい

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まず西村さんに、森のようちえんを立ち上げたきっかけについて伺いました。

西村:「私はもともと東京出身ですが、Iターンで夫の出身地である鳥取県に引っ越してきました。そこで鳥取県庁職員として智頭町に関わり始めたのですが、町の自然に惚れ込んでしまって。ちょうど2人目の子どもの出産もあり、自然豊かな場所で子育てをしようと智頭町に移住を決めました。

豊かな自然があって、子どもの成長を間近で感じることができる。実際、自分で言うのも何なんですが、智頭町で”満足な子育て”ができたと思ってます。次第に、自分の経験で感じたことを伝えたい、自分が子育てした智頭町の良さをもっと都会のママパパたちにも知ってほしいと感じるようになりました。

そんな時に思い出したのが、幸福度が一番高い国と言われるデンマーク発祥の『森のようちえん』でした。以前、森のようちえんについては本で読んだことがあり、また学生時代や社会人になってからもずっと森に関わっていたので『そんなのがあったら我が子を通わせたい』と以前から憧れていたんです。

そうして考えてみると、日本の山村で、日本にローカライズされた形で森のようちえんが実現できれば、中山間地域を活性化させるための一つのアイコンにもなるんじゃないか、と。

こうした経緯で『森のようちえん』を智頭町で立ち上げることにしました。森のようちえんを通して、もっと智頭町に人があつまるようなシステムを作りたかったんです。」

やはり自然の中で子育てをしたほうが、子どもたちも成長するのでしょうか。そんな疑問を西村さんにぶつけてみました。

西村:「子どもたち本人は、他の場所での育ちと単純に比較できませんが、体力面、精神面とも明らかにたくましいです。また、ご両親が満たされた子育てをすることが、子どもの成長に確実にプラスの効果を与えていると思います。

ご両親がいつもイライラしていて、『ああしなさい』『こうしなさい』と子どもに指示ばかりしている環境とは、違ってきますよね。

私も智頭町で子育てをさせていただき、本当に満たされた子育てができました。自然なのか人なのか、空気なのか、水なのか...理由は一つではないかもしれない。でも満たされた子育てを経験し、もっと他の人にもおすすめしたいという気持ちでいっぱいです。」

こそだちシェアハウス”はじまりの家”の由来とは

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森のようちえんやフリースクールといった教育施設以外に、現在はシェアハウスも運営されている西村さん。そのきっかけについても伺いました。

西村:「森のようちえんは今12年目ですが、実際に入園を目的に県外から移住定住者が来たのは開始4年目ぐらいからです。

それ以降現在までに63家庭、220人が森のようちえんを目的に智頭町内外(鳥取県内)に移住・定住してきました。でも、希望者はもっとたくさんいましたし、相談を受けることも多かったです。

じゃあ何が移住定住のボトルネックになっているのか。考えてみると『住む家が見つからない』ということが大きな要因だとわかってきました。お仕事については、移住定住をする前に見通しを持つことができるものの、住む家については、需要に対して供給が足りないという状況でした。」

西村:「せっかく森のようちえんに通わせたいと思われる親御さんも、最後には家が見つからずに移住定住を諦めてしまうケースがたくさんあり、もったいないと感じていました。

そこでたまたま大きな空き家を手に入れることができたので、思いきってシェアハウスを作ることにしたんです。

中山間地域には、市街地と比較してマンションなどのすぐに住める状態での賃貸物件が不足しています。空き家とはいえ、家を購入するのは人生の大きな決断なので、まずは簡易的に「ひとまず」「すぐに」でも住めるような場所を提供する必要があると感じました。

このシェアハウスを起点として、またそこからお家を探し、鳥取や田舎での子育ての魅力に気づいてほしい―シェアハウスの名前を”はじまりの家”にしたのは、そのような経緯です。まずは移住・定住の最初の一歩を、ここからはじめてほしいですね。


産む・育てる・学ぶ―森をベースにした幸せの形を広げる

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智頭町で立ち上げられた森のようちえんが県内、そして全国に広まっていった経緯についても伺いました。

西村:「12年前の立ち上げ当初は県内初でしたし、西日本でも本格的な森のようちえんは初めてでした。ただいつまでもここにしか森のようちえんがないのでは、森のようちえんの魅力が多くの親子に知ってもらえないと感じていたんです。

そこで全国どこでも森のようちえんが保育の選択肢になればと、出した答えが行政との連携でした。

まずは智頭町からご支援をいただき、鳥取県全体へ。さらに国でも昨年幼児教育無償化(一部森のようちえんは対象外)が始まったことで、森のようちえんの立ち上げや通園は昔に比べてハードルが低くなってきました。

こうした努力が実り、現在はそれぞれの特色や特徴を生かしたうえで、子育て世代に寄り添ったサービスが全国に続々と増えています。」

森のようちえんを開設しやすい環境づくりに邁進していた西村さん。今後の展望としては、”自然な子育て”を保育のみならず「産むこと・学ぶこと」にも広げたいと語ります。

西村:「森のようちえんを卒園したあとも自由な学びをそのまま続けたいと思うのなら、新田サドベリースクールというフリースクールに通うことができます。

子どもの主体性を重視したアメリカ発祥の自由教育を実践しています。現在20名近くの小中学生が毎日ここに通い、日々自分のやりたい事・知りたい事をベースにのびのびと自由な学びをしています(映画化決定!)。

また現在産院を作るプロジェクトとの連携も進めています。入園前の段階で、自然なお産に繋がる場を提供するためです。

お母さんが出産に満足して、『早くもう一人ほしい』ってなるような感覚。そういった満足のいく出産ができるような環境をお母さんのために作りたいと思っています。

それができると、”産む”、”育てる”、”学ぶ”という主体性を大切にした活動が一貫して実現できる。智頭町でしかできない、幸せで豊かな生活が提供できると思います。

西村さんは”森”をベースにした、みんなが幸せになるような仕組みづくりを今後もしていきたいと続けます。

西村:「私は学生時代からずっと森に関わっていて、子育てのフェーズに入った段階で森のようちえんを仲間たちと立ち上げ、子供たちが学びの段階に入ってからフリースクールを立ち上げました。いわば、自分の人生の歩みに合わせて、必要なものを考えてきたという感じです。

例えば今後自分の両親が介護が必要になれば、もしかしたら森のデイサービスみたいなものを欲しいと思うかもしれません。

森というものをベースに他ではできない体験や、みんなが幸せになるような仕組みを今後も智頭町で作っていきたいと思っています。

3つの活動の原動力、「行動・体験・暮らし」

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(写真右が大学院時代の西村さん。研究先のミャンマーにて)

智頭町、鳥取県の魅力をPRするためにこれまで様々なことに取り組んできた西村さんに、活動の原動力についても伺いました。

西村:「私の中ではこの3つが原動力になっていると感じます。

まず、”考えるよりまずは行動”という性格。子供のころから勇敢というか鈍感というか(笑)心配するよりもやってしまえという性格でした。

あとは、”体験”。大学院では熱帯林の研究をしていたので、東南アジアの国々に行ったり留学もしました。ジャングルに入って調査をする中で、日本だと学べない珍しい体験もできましたし、度胸もつきましたね。

最後は、”暮らし”。自分たちが気に入った智頭町に移住して、さらにそこで自分たちが理想とする家や山も手に入れたこと。

毎朝目が覚めて鳥の声が聞こえて、自分たちがこだわった住まいで生活している。自分たちが思い描く暮らしができているのは、本当に幸せなことです。

智頭町での暮らしが私のエネルギー源で、ここにいるだけで満たされるから、どんどん頑張れて、新しい発想も生まれる。人のために何かしたいという気持ちが湧くのも、ここ智頭町で暮らして、生活が満たされているからだと思っています。

最後にご自身も移住者である西村さんならではの言葉で、鳥取の魅力についてもお話いただきました。

西村:「東京出身の私の場合、鳥取は”子育ての場”。まだ、これからどんどん良くしていきたい。そして、”謙虚にさりげなく、魅力が残っている場所”で“社会が変革するヒントのあるエキサイティングな場所”でもあると思います。

これは、大学院の時に学んだ『周辺性(marginal)』という言葉で説明できると思います。

例えば、良いことも悪いことも、流行りは東京みたいな人口密集地を中心として同心円状に広がっていきますよね。一方、周辺とは中心から一番離れている同心円の縁の部分のこと。中心部では生まれては消える出現と消滅を繰り返しますが、周辺では出現と消滅以外にも”未消化”のものが混在する場合があるんです。そこで化学変化が起こる。

つまり、中山間地域には、都市部にはもう残っていない”古き良き日本”が残っていますし、むしろここにしか残っていない、みんなが求めている魅力がある。

都会と田舎という軸で考えれば、一見ネガティブなイメージを持ちやすい中山間地域ですが、全国に影響を及ぼすような革命的なアイディアが誕生する可能性もある空間でもある。

新しい付加価値が誕生する瞬間に立ち会えるのは非常にうれしいことです。これはここでしか得られない体験かもしれません。」

今回お話を伺った西村さんの言葉からは、ご自身が移住者という立場で、主体的に暮らしを選択してきたからこそ語れる町の魅力が溢れていました。

価値観の多様化、情報の錯綜。”暮らし”がなかなか主体的に描けない現代社会において、もう一度自分の身の回りの環境について、文化や人、自然をベースに見つめ直してみることも時には必要かもしれません。

あなたも自然豊かな鳥取県でもう一度”暮らす”ということを考え直してみてはいかがでしょうか。鳥取県はあなたの移住・定住をサポートしてくれます。

特定非営利活動法人智頭の森こそだち舎 理事長 西村 早栄子     西日本初の本格的な森のようちえんであるまるたんぼう【完全預かり型】をはじめ、すきぼっくり【共同保育型】、新田サドベリースクール【フリースクール】、はじまりの家【こそだちシェアハウス】の4施設を運営し、智頭町の移住定住等に携わっている。内閣府「そうだ、地方で暮らそう!」国民会議委員。

智頭の森こそだち舎
https://co-sodachisha.org
新田サドベリースクール
http://shindensudbury.org
智頭町森のようちえんまるたんぼう
http://marutanbou.org/
空のしたひろばすぎぼっくり
https://www.facebook.com/sugiboccuri

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