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アフターコロナの『人と人とのつながり』を考える-関係人口推進室 室長 岡本圭司-

よそ者でもなく、住民でもない。それぞれが出来る方法で接することができる”居心地の良い”地方への関わり方として、近年注目されている 「関係人口」 という言葉。みなさんは耳にしたことがあるでしょうか?

総務省 によると、「関係人口」は下記のように定義されています。
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。
出典:総務省 関係人口ポータルサイト

こうした中、市町村も含め県全体を上げて「関係人口の創出・拡大」に取組む鳥取県の取組みに注目が集まっています。


今回は、令和元年に新たに創設された鳥取県庁・ふるさと人口政策課関係人口推進室の初代室長である岡本さんにお話を伺いました。


人と関わることが好きだった幼少期の経験から、人と人とのつながりが良い結果を生み出すことを肌で体験してきた岡本さん。


なぜ鳥取県の関係人口創出・拡大の取組みに注目が集まるのか、またコロナ禍において孤独感を解消するアプローチについても教えていただきました。

全国的に注目される鳥取県の関係人口推進施策

関係人口8

そもそも「関係人口推進室」が、令和元年に鳥取県で新設された経緯はどういうものだったのでしょうか。


「きっかけは令和元年4月の鳥取県知事選挙です。鳥取県は人口約56万人に対し、毎年約2000人の移住者がいます。実は人口あたりの移住者の数としては全国的に見ても多い方なんですね。

とはいえもともとの人口が少ない鳥取県ではそれだけでは足りず、それを補うためには ”関係人口の創出・拡大” が鍵を握るという方針から、令和元年7月に関係人口推進室が創設されました。”関係人口”を冠した部署があるのは、鳥取県だけかと思います。」


こうした鳥取県の関係人口の取組みが注目されている理由は、どういった点にあるのでしょうか。


「もともと色いろんな研究者の方が、鳥取県を題材に関係人口に関する研究を行っていたことが下地にあり、関係人口が豊かな地域と言われていたことも一つであると思います。」

「つながり過疎」― 人はコロナでつながりに飢えている

孤独感アンケート

出典:Kasperskyレポート:コロナ禍の孤独感に関する意識調査

こうして昨年7月に新設された「関係人口推進室」の初代室長として、チーム一丸となり関係人口の創出・拡大に邁進する岡本さん。


しかし、令和2年4月には新型コロナウイルスの感染拡大により全国的に緊急事態宣言が発令、世の中の状況は一変します。「人と人とのつながり」が避けられない関係人口の取組みに、新型コロナウイルスはどう影響したのでしょうか。


「一つはもともと関係人口のキーワードとして挙げられていた ”つながり過疎” が顕著になったことです。


新型コロナウイルスの影響で、 約2人に1人以上が孤独を感じている という 調査結果 も発表されています。しかしそれ以前から、現代人は仕事の関係でしか人間関係が作れていない、日常的に会うことが難しい昔の旧友しか人間関係がないなど、人とのつながりが希薄だと言われていました。

やはり人間が生活する上で、希薄な関係だけで満たされた生活をするのは難しいものです。テレワークに移行したことでさらに孤独感に拍車がかかった人たちもいると聞きます。

また、学生もオンライン授業だけだと心が荒み、休学希望者や退学希望者が増えたというニュースも目にします。」


岡本さんはこう続けます。


「コロナウイルスで人と人との交流が制限され、”つながり過疎”が深刻になった環境で、多くの人がより一層リアルなつながりを求めています。

こうした背景も、関係人口に今注目が集まる理由の一つだと思っています。そのため私たちも、 オンラインを入り口とした関係人口創出・拡大の取組みに力をいれています。

オンラインとオフラインとの併用で正のスパイラルを巻き起こす時代に

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「オンライン」という言葉が出ましたが、鳥取県は関係人口を増やすためにオンラインをどのように活用しているのでしょうか。


「鳥取県は、4月から「オンライン関係人口未来プロジェクト」という取組みに参画しています。

これは、令和2年2月に関係人口のシンポジウムをした際に集まった長野県の塩尻市役所や県内のNPOなどの関係者同士で始めたもので、毎週土曜日の朝7時にオンラインセミナーを開催する中で、実際の行き来はないながらもそれぞれ事例を紹介したり、今後の可能性について議論しているものです。

最初は知り合い同士中心だったのが1回も会ったことのない方も参加してくださるようになっています。


この取組みを通して、1回も直接会ったことがない関係性から関係人口になり得るのか。まだ過渡期ではありますが、ウィズコロナ・アフターコロナにおける関係人口のあり方にもつながるところもあり、沢山の方から注目されている取組です。


実体験を全てオンラインに代えることは当然出来ないにしても、オンラインを通じて事前に人となりをしっかり理解できれば相手方の地域に入っていきやすいと思います。

また、併用していれば、オフラインで体験したことをオンラインで広い対象にフィードバックすることもできます。そういった意味では正のスパイラルが巻き起こることもあると考えています。

これからの「関係人口」というのはオンラインとオフラインを併用する時代ではないかと思います。」


さらに、オンラインが広げた関係人口創出の可能性について、岡本さんはこう語ります。


「時間や経済の垣根を取り払える点も、オンラインの大きなメリットの一つだと感じています。

今までは、私たちも東京に行かないと多くの人に発信ができない、来る人にとっても関わりたい地域に実際に足を運ばないといけないというハードルがありました。

しかし、オンラインツールを活用することで、自宅からでもたくさんの地域の人と関わることができます。

こうしたツールが関係人口づくりに、いろいろな可能性を示してくれているなと思っています。」

人との関わりが好きだった子ども時代

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鳥取県を盛り上げるために、人と人とのつながりづくりに日々奔走する岡本さん。岡本さんご自身の幼少時代についても伺いました。


「小さい時からよくしゃべる子どもだったと周りから言われます。田舎の子どもだったので、帰り道におばあちゃんたちに『梨をどんどん食べていいからね。』と言われたり、畑でうさぎとにらめっこするような、地域の人や自然に慣れ親しむ子ども時代でした。


旅行に行くのが好きで、高校生ぐらいの頃には青春18きっぷで四国を一周したりもしました。特に自分の知らないところに行くのが大好きで、就職したのち東京転勤になった時も週末にはさまざまな地方を巡りました。」


そうした経験が、今の関係人口の拡大・創出の仕事にどう活かされているのでしょうか。


「全国各地を旅した経験で感じたことは、 多様なバックグラウンドをもった人たちをつなぐと思いがけないことが起きる ということです。


それ以来、『人と人をつなぐ』ことは日常でも仕事でも大切にしています。 『この人とあの人をつなげば、何か鳥取県にとって良いことが起こるかもしれない』と日々考えながら、仕事に取り組んでいます。


オンラインでのつながりはチャンスと語りながらも、同時にオフラインも大切にしているという岡本さん。その背景には、こうした考えがあるからだと言います。


「SNSがあれば遠くに住む人々にも私たちの情報をフォローしてもらうことができますが、私たちが『フォローしてください!』と言うよりも、リアルな友達に『鳥取県が発信する情報、おもしろいよ』と言われたときの方がフォローしてみようという気持ちになりますよね。


このようにSNSなどのつながりも、 オフラインでの関係性の上でより活きる のだと思います。


今のようにオンラインが注目される時だからこそ、オフラインで関わることも重要なのだと考えています。」

関わりに恵まれた土地が”心のふるさと”

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インタビュー終盤、岡本さんに関係人口推進室が今後目指すところについても伺いました。

「関係人口とは、みなさんそれぞれが関わりたいと思うところで、自由に関わってもらうものです。芸術やITなど特定のスキルを持つ人というよりは、鳥取県の地域をおもしろがって一緒に盛り上げようという “Will(意志)” を持つ方においでいただくことを目指しています。


とはいえ、“Will”も今日明日すぐに湧き上がるものではありません。なので、まずは鳥取県に足を運んでもらい、そうした気持ちを持ってもらえたらうれしいですね。


私たちもそうした”ウェルカム”の気持ちを第一に、県外本部(東京・大阪)の案内所を『とっとり歓迎案内所ウェルカニ』と命名しています。」

ウェルカニ

最後に 「ふるさと」 について、岡本さんから素敵な言葉をいただきました。


「『ふるさと』というと、生まれた場所の一つだけを指す印象が強いもの。ですが、思い浮かべてみると、おじいちゃんおばあちゃんが住んでる場所、合宿で行った場所など人生で関わってきた地域は意外と多いものです。


どこに生まれたかというよりも、 関わりに恵まれた地域がふるさとになるんじゃないかな、と私は思っています。そして、鳥取県がみなさんにとってそういう地域になればうれしいですね。」


ますます発展するオンライン時代に生きる私たちにとって、「ふるさとは一つだと限らない」という岡本さんの言葉は心強く感じられるもの。


ふと孤独感を感じたときに、この言葉を思い出してみてはいかがでしょうか。

岡本 圭司(おかもと・けいし)                   鳥取県出身。鳥取県庁で勤務する一方、地域の様々なコミュニティで活動。人と人とのつながりが新たなイノベーションを生みだすことを間近に見てきた。現在は鳥取県交流人口拡大本部ふるさと人口政策課関係人口推進室長として鳥取県の関係人口を増やす取り組みを行う他、国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」委員も勤めている。


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