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「組織内コミュニティが陥る罠と打開策」への質疑応答③ ~コミュニティ活動の継続性~

本日は個々人としてどう活動を続けていくか、そして日本全体としてこのような活動がどうなっていくかについて触れます。

ずっと根性だけでは続かない。
継続して活動するためにはどうすればいいか

組織の中の非公式なコミュニティと言うのは、非公式なわけですから業務時間中に何かするわけにはいきません。多くの人々は、終業後や休日に時間を捻出して活動をすることになります。活動規模が大きくなったりやりたいことが困難であるほど、このような活動スタイルは心身共に疲弊しやすくなります。

この様な状況を緩和する一つの方法は、組織とコミュニティの活動領域に重複する部分を作り出すことです。以前にご紹介した「二重編みの組織」となった場合、組織からの支援を受けて活動し、その成果をさらに実務に活かすという事ができます。こうなると、業務中にコミュニティ活動に関わる稼働時間をとったり、成果も仕事として認められやすくなります。

当然二重編みの組織は組織との関わり合いのモデルですから、そのような状態を目指すとなればおのずと活動領域が組織的な利益につながらなくてはなりません。しかし突然「新規事業を作りたいので業務時間中の稼働を許可してください」と言われてもあなたの上司はキョトンとするでしょう。まずは業務に関する勉強会だったり、若手のモティベーションアップの為の交流会など、組織側も頷きやすいところからスタートしていくのが良いでしょう。

他方、コミュニティ内部的には無理な参加を常態化しない、特定メンバーに負荷が偏り過ぎないようにする、などの内部マネジメントも重要になります。やりたいことが多いのはとても良い事ですが、身の丈に合ったものにしておかないと負荷は高まります。もちろん大きな成果を上げるには多少無理を通さなくてはならない時もあるのですが、そういう時に「私が頑張っているのに他の人はやってくれない」という思いが頭をよぎるようであれば、コミュニティとしての成熟度と出したい成果が釣り合っていないと思うべきでしょう。

コミュニティの成熟には、参加者の多さとその熟達度の高さが重要になります。これも部活に例えると、素人同然の部員が500人入ってもインターハイで優勝はできません。一方で、3年生だけが「黄金の世代」だとしたら、その卒業とともにそのチームは衰退するでしょう。

この時必要なのは、それぞれのメンバーが持っている技量とモティベーションに応じた参加の経路が用意されているか、という事です。1年生の素人には基礎練が必要ですが、そのメニューは体系化されているでしょうか。よくある悩みに応えられるようになっているでしょうか。こういった技量に応じた実践ができなくては、「地獄のしごきに耐えかねて逃げ出す」ような状況になってもおかしくありません。モティベーションの面では例え何回「ウチは伝統校なのだ」みたいなことを言っても響かないかもしれませんが、試合に出る先輩や負けた時の涙などを通じて体感的に物事の重みが伝わるという事もあります。このような経験をどこでどう積んでもらうか、と言うのも重要なポイントです。

経験を積む、つまり時間が立てば勝手に熟達度が上がるわけではありません。そこは新参者をどう中堅に引き上げていくかと言う仕組みも重要です。先輩は後輩をどうサポートするのが効果的でしょうか。後輩は先輩を見て盗めるようなオープンさがあるでしょうか。逆に、下の人を育てることばかりでは、古参者が自分のレベルアップできないと感じて辟易してしまう事もあるのでバランスが重要です。メンバーが自分のレベルアップや貢献度の増大を実感し、さらにコミュニティに深く関わっていく仕組み作りもとても重要です。

超ざっくりしたコミュニティの構造(筆者作成)

この様な日々の取り組みを通じてコミュニティ全体のレベル向上ができると、タスク分散や機動的な意思決定がしやすくなります。どうしても時間がかかる為、短期的な対策としては一部のメンバーで押し通したり、力のある人物をスカウトしてくるなどの方法もありますが、常にその方法では継続的な運用は難しいと思った方が良いでしょう。

この様な活動は今後日本でどうなっていくのか

この質問はONE JAPANにおけるコミュニティ活動を共有する場で出た物で、一部の人はこのような社内におけるコミュニティ活動が最近ムーブメントになっていると思っているかもしれません。しかし、実は日本企業においてこのような自発的な活動は昔から起こってきたことでした。

野中先生、竹内先生の大変有名な『知識創造企業』では、暗黙知を形式知へ転換する上で非公式で自発的な人間関係について言及されています。ホンダ技研の例では非公式なコミュニケーションが形式知と暗黙知の共有を促進するとして業務後の飲み会を挙げていたり、ホームベーカリー開発中の松下電器(現パナソニック)のエピソードとして商品コンセプトを検討する非公式なチームが結成されたりと、多くの企業で人々は自発的につながる場を持ち、互いに関わり合ってきたのです。つまり、質問に一言で回答すれば、「このような活動は昔からあるし、今もある。きっといつの時代もこのような活動は必ず生まれるだろう。」という事になります。

生まれはするが、うまくいくわけではないというのも現実です。このような自発的な取り組みとしてわが国で最も成功したものの一つがQC活動でしょう。製造業の方にはおなじみだと思いますが少し解説しておくと、QCとはQuality Controlの略で、日本科学技術連盟が提唱し、普及を進めたものです。1962年にQCサークル本部が設置されたことを皮切りに関連する交流会や学会が開催されるようになり日本全国に普及しました(日本科学技術連盟, 2015)。品質を向上させるために企業が何かをしたわけではなく、異なる経路で従業員が学び、それを現場に持ち帰り、QCサークルという名称で現場主導の品質改善活動が日本各地で行われたのです。この成果については「現場従業員の心理や意識、コミュニケーションの向上や、能力開発に一定の効果がある」(小川, 2009)とされています。ですが、QC活動の設立に大きく寄与された石川先生は、QCサークルが永続的、効果的に行われるためには自主性、自発性を尊重しながらゆっくりと進めることが必要であり、活動を強制して失敗したケースはあまりにも多いと指摘しています。つまり、現場が良いことを始めたからと言って「よしもっとやれ!」とか、他社を参考に「さぁうちでもやれ!」と始めてしまってはいけないという事ですね。

この様な会社からの介入によってかえって活動しにくくなったというお悩みはONE JAPANの加盟団体の皆さんからも伺います。非公式で自発的な取り組みと、組織はどう向き合っていけばよいのか。指揮命令系統にない物とどう関わればよいのか。この問いは、今も昔も企業にとっての課題であり続けていると言えるでしょう。

参考文献
石川馨. (1981). 『日本的品質管理―TQCとは何か』. 日科技連出版社.
Nonaka, I., & Takeuchi, H. (1995). The Knowledge-creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation. Oxford University Press.
小川慎一. (2009). 「もうひとつの企業社会論」. 『日本労働社会学会年報』, 20, 3–27.


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