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「言われたことしかしない」若手が日の目を見た話

前回はそもそも「自発性はあるけどそれが主たる仕事の方向を向いていない部下」を前提に記事を書いていましたが、「そもそも部下が言われたことしかやらない」とお悩みの方は多いでしょう。しかし、言われたことをやるだけ、その部下はしっかりしているのではないでしょうか。実はこれも同じ話なので、例を変えてお話しましょう。

私がある会社で営業育成をやっていた時、研修では抜群の評価を取っていたのですが、現場に配属されると鳴かず飛ばずだったB君という営業マンがいました。T君は海外経験があり、受け答えも溌剌としており、身だしなみも清潔。非常に印象のいい青年でした。研修でのロープレは大変よい出来で、現場配属後の活躍が期待されました。しかし、配属後から数か月、彼はほとんど受注が取れなかったのです。

私は後日B君に同行しました。彼は研修時とは打って変わって元気がなくなっていました。モティベーションは低下し、チームでの評判も悪く、本人も自信が全く持てないという様子。しかし、「言われたこと」はやっているのです。毎日の電話に訪問。訪問先での商品紹介は研修時のまましっかり実施していました。つまり、どこをどう攻めればいいか、何をすれば売れるか、は誰も教えてくれなかったのでしょう。B君の自発性は「言われたことで満点を取る」ことに向いていたので、言われたこと以外の事を自分で考え、創りだしていく事には何も取り組まれていませんでした。例えば、5件のアポを取れと言えば取るのですが、どんなアポを5件取ればいいかは考えられなかったのかもしれません。

そんな中、彼に転機が訪れます。たまたま訪問したパソコンメーカーで大変な好評をいただき、大型の受注を決めたのです。そこで私は彼に、次回の営業勉強会での講師を依頼しました。なぜ今回の受注が生まれたのかを話して欲しいとお願いしたのです。

新たに「言われたこと」を示されたB君は今回の受注がお客様のどんな課題を解決するのか、同業界で横展開するにはどうすればいいのかなどを自分でまとめ、発表してくれました。この内容はたちまち評判を呼び、全国で同じケースでの販売が相次ぎました。B君は営業マンの間で「パソコン王子」と呼ばれるようになりました。後日私が彼と話したときに、B君は「仕事をするってどういうことか今回の事で分かった気がします」と話してくれました。それ以後は、自分なりに成功したケースを再現できるよう工夫しながら営業するようになり、販売成績も上向きだしました。

もう一人、私が勉強会に呼んだ若手をご紹介しましょう。営業がアポを取るのは永遠に続く作業の一つで、苦労する人も多いです。そんな中、「必ず2週間先までアポが汲める男」として白羽の矢を立てたのが、T君でした。彼に「なぜそんなに苦も無くアポが取れるのか、是非話して欲しい」とお願いしたのですが、彼の答えは「え、特に何もしてないですよ」でした。

電話をしてアポを取るとは、言われたこと以前のレベルでやる「当たり前の事」ですが、とは言え先々のアポまで常に組めているというのはその中でも群を抜いています。しかし当人には特に特別なことをしているという自覚は無かった、というのです。この講演も大変好評を呼び、アポ取りに苦労する営業マンを救いました。また、T君自身もその後リーダーとなり、部下にノウハウを伝授するようになりました。

B君のケースは、限定的な自発性を少しずつ外に向けることができた話。T君の話は、ぱっと見は当たり前のことをやっているだけですが、実はその中で他の人が思いもつかないような工夫をしていたという話(でも本人には自覚がない)です。こういう事は「言われたこと」「当たり前の事」という先入観の中では、彼らの自発性がどこまで及んでいるのか、どのような発揮の仕方をしているのか、中々周囲の人が気づかないことがあります。しかし何らかのきっかけでそれを他の人の目に触れさせ、フィードバックがかかるようにすることで部下の自発性を良い方向に導くことはできるのです。

誤解のないように言っておくと、私はあくまで育成担当なので彼らの上司ではありません。ただ、こういったことは別に誰がどういう形でサポートしてもいいのです。大切なのは、本人が気づくことなのですから。

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