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単位って大事

海苔の栄養価

 栄養成分表にはいろんな食品100グラムあたりの栄養成分の量が載っている。それを見ると、海苔はミネラル、ビタミン、そしてタンパク質も豊富である。野菜や果物・肉や魚・穀物のいずれと比べてもである。ミネラルの量もビタミンの量もタンパク質の量も、海苔の方が多い。
 よほど特別な海苔の話をしているのではない。スーパーに売っている普通の焼き海苔・板海苔・味付け海苔のことである。それでいて海苔は安い。一食当たりの海苔の値段は数円〜十円程度だ。この値段は、野菜や果物・肉や魚・穀物と比べても安い。
 つまり、海苔は安くて栄養豊富な食品である。いろんな栄養成分を安くしっかり摂ろうと思うなら、海苔が一番である。

 では、ここで【問題】です。上の文章の間違い(おかしな点?)を指摘してください。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 この問題、家族の栄養を考えながら毎日スーパーで買い物している人には簡単なんでしょうけれど、私の勤務校(男子校)の生徒たちにはなかなかそうはいかないようでした。
 第一段落と第二段落はどこも間違っていません。どちらも正しいです。けれども、そこから第三段落が言えるかというと、実はそうは言えません。
 ポイントは単位です。第一段落は「100グラム当たり」で、第二段落は「一食当たり」。つまり、単位(もしくは分母)が違うんですね。要するに「100グラム当たりで、栄養豊富」で「一食当たりで、安い」からといって、この2つから「安くて、栄養豊富」と言えるとは限らないのです。
 考えてみてください。100グラムの海苔を食べれば確かに栄養豊富ですが、海苔100グラムってかなりの量ですよ。普通そんなに食べませんね。それに海苔100グラムのお値段は全然安くないですよ。むしろかなりお高い。
 逆に、一食当たりの海苔は安い(例えば、おにぎりに海苔1枚)ですが、その量が少ないから安いんですね。量が少ないということは、栄養も少ないということ。それだけで栄養たっぷりというわけにはいかないのです。

 でも、どうでしょうか。先ほどの文章、第三段落まで読むと「ふむふむ、なるほど」と納得してしまうのではないでしょうか。「間違いを指摘しろ」と言われて初めて、違和感を覚えるんじゃないでしょうか。実際そんな書き方(よくある間違い、もしくは騙しのテクニック?)を時々見かけます。気をつけましょう。単位、大事です。

電車広告にあふれる「条件付き確率」について

 12月中旬、採点が終わった答案と2学期の成績を持って学校に向かう途中でのことです。電車の中で次のような広告を見かけました。

  成婚率 業界 No.1

 結婚相談所の広告です。こういうのを見ると私はいつも思うのです。「分母はなに?」と。
 しばらく考えて、わかりました。その企業が事業展開しているエリア、得意な年齢層などに絞れば、この手のことは大抵言えてしまいます。いや、極端に言えば、成功した事例が1つあれば、非常に限られた範囲で「成功率100%」が成り立ちます。こうなれば、他社がどうであろうと、間違いなく「No.1」ですね。「同率1位」であっても、確かに「No.1」に違いありません。
 例えて言うなら、こういうことです。定期試験で ◯ が1つあれば、「その問題に限れば、自分の正答率は100%」なわけですから、確実に「学年トップ」なのですよ。同率の人がたくさんいても、自分の「正答率が学年で1位!」であることは確かです。
 というわけで、電車の中の「成婚率 業界 No.1」みたいなことは必ず言えてしまいます。つまりウソではありません。
 そして定期テストにおいても、(自分が ◯ をとった問題について)「私が正答率 学年トップだ!」と言えます。そう言っても間違いではありません。おめでとう!

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 テストの模範解答のプリントの隙間に上の文章を貼り込んで生徒たちに配りました。模範解答だけ印刷してもつまらないので、こうして何かしら付け加える。毎度のことです。
 ところで、成婚率であれ正答率であれ、それも「確率」には違いないですし、しかも分母によって値が変わるという意味で、これは「条件付き確率」の話です。そして条件付き確率こそが、統計を攻略する鍵だと思うんですよ。上の文章からその感覚、つかめるでしょうか。

 後日、高校3年の定期試験の際に、上の文面に下の文面を追加して再利用しました。(2021年秋)

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 次の日、電車の中で次のような広告を見かけました。

ベストセラー 第1位

 ある本の広告です。聞いたことのないタイトルです。こういうのを見ると私はいつも思うのです。「分母はなに?」と。
 おそらくウソではないのでしょう。しばらく観察して、わかりました。デカデカと、とびきり目立つようにデザインされた「ベストセラー第1位」の下に、小さく目立たないように、ホントに小さく書いてあるのです。「○○書店、○○店、○○部門、○月○日」と。
 業界の自主規制みたいなものがあるのでしょう。一応、分母が書いてありました。「特定の本屋の、特定の店舗の、さらに部門を絞って、ある一日に限定して」の売り上げが第1位だということのようです。
 そう、この例も結婚相談所の場合と同じく、たぶんウソではない。なんなら自分で買えば良いんですね。1冊か2冊買えば「同数1位」にはなりそうです。
 以上、「分母を変えれば、確率が変わる」という意味で、条件付き確率の話でした。コロナ禍中の医学部入試で何らかの形で問われそうな話でもあります。

恐竜が絶滅したのは紀元前何世紀ごろの出来事か?

  ├ 恐竜が絶滅したのは紀元前何世紀ごろの出来事か?
  ├ 人口がアボガドロ数より多い国をすべて挙げよ。
  └ 太陽から最も近い恒星までジェット機で行くと何ヶ月かかるか?

◇       ◇       ◇

単位の話 〜  
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   + 恐竜が絶滅したのは紀元前何世紀ごろ?
▷ 光は1秒間に地球を7周半回るのか?     
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