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おばあさんを背負って階段をのぼる

私は和歌山県の、とある世界遺産の山で撮影しているアミーゴです。

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いい天気の澄んだ空の下で気持ちよく営業していると、女性添乗員さんが汗だくになって走ってきました。
尋常でない様子に私は思わず駆け寄りました。

「どうしました? 何かあったのですか?」
「実は、お客様のおばあさんが動けなくなってしまって…」

バスを降りてここに来るまでに急な上り階段があるのですが、その手前でお客様が一人動けなくなってしまったそうです。

「それは大変ですね! 私もご一緒します!」

私は添乗員さんと一緒に走りました。
行ってみるとたしかに、上り階段の手前でおばあさんが一人うずくまっています。
「おばあさん、大丈夫ですか?」
「ああ… 足がもうダメになっちまって… もう一歩も…」

とてもこれ以上は歩けない雰囲気。たとえ歩けたとしても、この先には300段近い急な階段があります。
おばあさんには申し訳ないけれど、ここでのツアーはいったん諦めてもらい、足が回復するまでバスで待機していてもらうのが得策かと思えました。
ですがせっかく来ていただいた私たち自慢の観光地。少しでも、一目でも楽しんでいただきたいという気持ちに意を決して、おばあさんをおぶって階段を上ることを決意しました。

「ありがとう、申し訳ないねぇ」

おばあさんは幸いにも小柄な方で、おぶってみると意外に軽い。何とか最後まで上ることができそうに思いました。
全身にグッと力を入れて軽快に歩き出します。300段近くある階段を一歩一歩踏みしめて。このまま一気に上り切ろうと考えていました。

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しかし半分も上ったあたりから、足がふらつき始めました。息は荒くなり、めまいもしてきました。最初は軽かったおばあさんの重みがだんだんと増していきます。

「すまないねぇ、悪いねぇ」

その様子を察してか背中で恐縮するおばあさん。
私は不安にさせまいと、疲れを見せないよう努めて元気に振る舞いました。無事上り切ったときには、やり遂げられた嬉しさに自然とガッツポーズが出てしまうほどでした。

「おぶってくれてありがとう、この場所はずーっとずーっと来てみたかったの。じっくり見て回るね」
「おばあさんも揺れる背中で疲れたでしょう。うんと楽しんでいってくださいね」

添乗員さんに連れられて笑顔で去っていくおばあさん。その表情は、これから見られる景色が楽しみでたまらない、そんなワクワクに満ちた素敵なものでした。
この表情が見られただけでも、頑張った甲斐があったなぁと自分の決心を誇らしく感じられました。

数カ月後、その時の添乗員さんがまた現場に来られました。
あの時は本当にお世話になりましたと、改めてお礼の言葉をいただきました。

「本当に素敵な場所ですね」

去り際に添乗員さんが何気なくこぼした一言が何より嬉しく感じました。

「私もそう思います」

この場所が好きだから。1人でも多くのお客様にこの観光地を楽しんでいただきたいから。
そのためになら、私ができることを全力で頑張ろうと思った想い出でした。

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