第5の力の存在を示唆する研究:思惟かねの気まぐれニュース解説

現在物理学では、自然界には4つの力が存在し、それによって私たちの世界が形作られているという説が支持されています。
4つの力、つまり「電磁気力」「重力」「強い相互作用」「弱い相互作用」です。これらの力は個々に理論物理学により体系立てて語られていますが、さらにこれを統一的な理論で語ることができれば、より宇宙の根源的な部分に迫ることができるのでは…という考えから、これらの力を統一して記述できる理論が研究されています。実際、電磁気力と弱い相互作用について、この2つの力を統一して記述することで、両者が電弱力という一つの力を異なる捉え方をしたものであると示した電弱統一理論が1970年頃に完成されています。
これに続けと、さらに一歩先を行く大統一理論(GUT:重力を除いた3つの力を統一)、さらに重力を含めた4力を統一しようという野心的な超弦理論などが研究されているのが現在の状況になります。

さて本題です。上記のことからも分かるように、4つの力はもはやそれを前提に数多の理論的な探求がなされているほど現在では物理学界での常識となっているわけですが、先日これに続く第5の力の存在を示唆する研究が発表されたというニュースが飛び込んできました。
もしこれが真実であれば、1970年頃より定説となっていた4つの力説を塗り替え、統一理論の研究にも新たな一石を投じるとんでもない大発見になります。それだけのインパクトが有るニュースなのです。
なおの第5の力が期待されているのは、この第5の力を導入することで、現在の4つの力では説明がついていないダークマター(暗黒物質)についても、説明が可能になるのではないか?という期待があるためでもあります。

この研究はハンガリー科学アカデミー核物理学研究所(ATOMKI)に所属するアッティラ・クラスナホルカイ(Attila Krasznahorkay)氏によるもので、この第5の力のキャリアと考えられているのがこの論文で述べられている「X17粒子」と呼ばれるものです。

ただし、これだけだと胸躍る話なのですが、残念ながらこの第5の力とX17粒子の存在はかなり疑わしいのでは?というのが実のところです。
(ここからは後記のForbesの記事からの抄訳を交えた内容になります)

というのも、こうした物理学の実験には誤りがつきものであるためです。例えば過去10年の間でも、

・ニュートリノ粒子が光速を超えたという研究 ⇒ 設備の不良が原因の誤報
・インフレーション(ビッグバン直後の宇宙の急拡大)に起因する重力波を観測したとする研究 ⇒ プランク宇宙望遠鏡と宇宙塵に関する推定の誤りが原因
・LHCでの新粒子の発見 ⇒ データ不足による統計的な揺らぎを誤解したことが原因

…などなど、数々のセンセーショナルな物理学的発見が、研究上の誤りが原因の誤報であったことが分かっています。
なお、いずれの研究も何らかの瑕疵はあれど、捏造と言われるような悪質なものではなく、ごくごく僅かな信号から粒子を検出することで成り立つこうした研究が、設備、前提条件、統計誤差というような実験に伴う外乱にいかに弱いかという証左でもあります。

ゆえに、こういった研究の信憑性を確かめるには、他の研究機関での実験による追加検証が必須ですし、一方ではこうした現象を裏付けるような理論物理学の仮説が存在することも強力な証拠となります(たとえばアインシュタインが一般相対性理論からブラックホールの存在を予言していました)。

そして残念なことに、このX17粒子と第5の力は、既に2016年に同氏が別の実験により存在を提唱したにも関わらず、後に誤りだったとされており、他研究機関による追加実験という段階にすら達していません。当然理論物理学的な仮説にもこれを支持するものはありません
加えて、同氏のチームは2001年、2005年、2008年と3度に渡って別の粒子の存在を実験的に発見したと発表し、その全てが誤りだったと後に判明しています。つまり、言い方は悪いですが素粒子物理学界のお騒がせ者というのがKrasznahorkay氏の一般的な認識なのですね(事実Forbesの記事中ではオオカミ少年扱いされています汗)。

と、いうわけでこの「第5の力」にまつわるニュースは正直眉唾も眉唾、というのが界隈での一般的な評価なのでしょうね。
ただ、このような否定的な評価はニュースバリューとしては微妙なので(もっと世間を連日賑わすような発見であればともかく)、この「発見」以上に人目に触れることもないのだろうなと思って今回記事を書いた次第です。
もちろんこのニュース自体も真偽がはっきりするのは早くて数カ月後でしょうから、ほどほどにもてはやされた後、続報を待つこともなく大半の人の記憶からは風化して消えていくのでしょう。
ショッギョ・ムッジョという感じです。

皆さんもたまにはこうした「世紀の大発見かも?」と騒がれたあの記事を掘り返して、「あの人はいま」とその後の経緯を尋ねてみてはいかがでしょうか?

なお、下記の元記事ではKrasznahorkay氏の行った実験の原理から、論文そのものの中身の怪しい点の指摘まで、かなり踏み込んだ詳しい内容が説明されています。「この人が言うことだからなあ」と門前払いしているわけでは決してありません科学とはかくあるべしという姿勢を感じて感心してしまいます。
興味がある方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか(専門的な内容の英語なので、専門外の方だと私のように辞書片手になるでしょうが…)

以上、思惟かねの不定期ニュース・トピックでした。

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