Virgin Orbit社が空中発射ロケット打ち上げ成功 宇宙ビジネスの今 (思惟かねのWeekly News 22 Vol.2)

この記事は、Youtubeで水曜日に放送している「思惟かねのWeekly News 22」第1回で放送した内容の記事です。

第1回のトピック
バイデン大統領就任 どうなる米国政治と対中外交
Virgin Orbit社が空中発射ロケット打ち上げ成功 宇宙ビジネスの今

ニュースの概要:空中発射ロケット

1月17日、宇宙開発企業であるヴァージン・オービット社が軌道へのロケットの打ち上げに成功しました。

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搭載されたNASAの10個の小型人工衛星は無事地球の低軌道に投入され、ミッションは成功裏に終わりました

こうした衛星打ち上げの宇宙ビジネスが、近年にわかに盛り上がりを見せています。
今回はVirgin Orbit社のロケット技術について解説しつつ、その背景にある宇宙ビジネスの今についてお話しします。


衛星軌道を目指す現代のロケットたち

人類が衛星軌道に到達したのは1957年のこと。旧ソビエト連邦のスプートニク1号が成し遂げた快挙です。

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以来、人類は無数のロケットを天へ打ち上げてきました。ロケットの打ち上げ自体は、ニュースにはなるものの、もはやさほど真新しいこととはいえません。

けれど、Virgin Orbit社のロケットはそうした中でもユニークな特徴を持ちます。それは、ロケットの発射方式です。

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ロケットの発射といえば、皆さんが思い浮かべるのは普通、このようなタイプだと思います。これはスペースX社の主力ロケットの一つ、Falcon9です。
また宇宙と言えば、様々な映画にも登場してきたアメリカのスペースシャトルを思い浮かべる方も少なくないでしょう。

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しかし今回、Virgin Orbitが打ち上げに成功したロケットLauncherOneは、このどちらとも少し様子が違います

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こちらがそのロケットの写真です。ただの旅客機…かと思いきや、よく見るとその翼の下にはロケットが吊り下げられていることが分かります。

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これがVirgin Orbit社のLaunherOneです。
つまりこのロケットは、途中まで飛行機で運ばれて空中から発射されるという、空中発射型のロケットなのです。

LauncherOneは一見するとずいぶん小さいように見えますが、これを吊り下げて飛んでいるのは全長が70m以上もある世界最大クラスのジェット旅客機ボーイング747の改造機Cosmic Girl。LauncherOne自体は21.3m7階建てのビルほどもあり、500kgの貨物を高度2000kmの低軌道への投入できるとされています。

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Virgin Orbit社は2020年からこの打ち上げのテストを進めており、一度目は故障のために失敗、二度目は新型コロナウイルスにより延期されていましたが、今回三度目の正直無事打ち上げに成功したということです。


なぜ空中発射方式なのか?:現代のロケットと衛星ビジネスの事情

ところで気になるのが、なぜわざわざ旅客機で上空まで運ぶという、手間のかかりそうな方法でロケットを打ち上げるのかという理由です。
これには、宇宙開発で避けては通ることのできない、シビアなお金の事情が絡んでいます。

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例えば、日本の国産ロケットであるH-IIAロケットの打ち上げ費用は一機当たり100億円にもなります。ロケットというのは通常打ち上げたら使い捨てのため、機体の製造費用が全て打ち上げコストになってしまい、費用が高くなってしまいます。
衛星を使った宇宙ビジネスをしようとした時、この高額な打ち上げ費用が一番のネックになります。

この費用を画期的な取り組みで引き下げたのが、電気自動車のテスラ社の社長としても知られるイーロン・マスク氏が率いるスペースX社です。

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スペースXは、従来すべてが使い捨てだったロケットの一部を制御して回収する技術を開発しました。

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回収され地上に着陸するFalcon9ロケットの一部


その結果、100億円程度が相場だった低軌道投入のペイロード10トンクラスのロケットの打ち上げ価格を70億円にまで引き下げることに成功し、宇宙ビジネスに価格破壊を起こしました。

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しかし、こうした技術革新の一方で、実は「小さなロケット」に対する需要が高まりつつあります。

近年、開発コストと打ち上げ費用を従来よりも圧倒的に小さくできる非常に小型の衛星の活用が急激に増えつつあります。
事実、2012年から2019年にかけて、重量が600kg以下の小型衛星の打ち上げ数は10倍以上に増えています(下記資料参照)。他のカテゴリはほぼ変化なしなのに、です。

例えば、現在運用中の気象衛星ひまわり8号は、打ち上げ重量が3.5トンほどの衛星です。
しかし近年は技術革新により、重量を500kg以下に抑えながら高機能を実現している衛星が多く登場しており、実際SpaceX社が打ち上げている通信衛星スターリンク260kg程度ながら、地上との間で高速インターネット通信の提供を可能にしています。
CubeSatと呼ばれる10cm角、1kgあまりの超小型衛星も盛んに開発されています。

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こうした「軽い」衛星の打ち上げ需要が急激に伸びる中、一度に10000kg以上の貨物を打ち上げることが可能なロケットは少し大きすぎるのです。

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SpaceX社のFalcon9によるスターリンク衛星60個の一挙打ち上げの模様

そのためたくさんの衛星で相乗りをして、という方法が一般的ですが、これでは相乗りする衛星が集まるまでは待ちぼうけになってしまいます。
もっと少量の衛星を、もっと安く、早く打ち上げられる…そんなロケットが求められているのが今の時代なのですね。

そこで登場してくるのが、今回Vrigin Orbitが打ち上げたLauncherOneのような小型ロケットなのです。


LauncherOneの実力は?:他のロケットとの比較から探る

では、そのLauncherOneの実力を数字で見てみましょう。まずは先程紹介した、一部再利用型の最先端ロケット、Falcon9との比較です。

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こうして比べると、LauncherOneはFalcon9の3%以下のペイロード(搭載重量)しかありませんし、1kgあたりの打ち上げ価格でも9倍と大きく水をあけられています。
それでも一回の打ち上げ費用はFalcon9の1/5なので、たくさんの相乗り衛星を待たずに早い打ち上げが可能ということはFalcon9にはないメリットです。また相乗りといっても、いっぱいいっぱいに衛星を詰め込めるわけでもないので、実際にはさらにコスト面では差が詰まります。

もう一つのLauncherOneの強みが、その機動力です。
通常の地上発射型のロケットは、必ず専用の打ち上げ場が必要になります。地上の天候が悪ければ打ち上げも中止しなければいけません。
しかし空中発射型のロケットは、空に上がってしまえば天気は関係ありません。そして飛行場さえあれば世界中のどこからでもロケットを打ち上げることができるのです。
実際、Virgin Orbitは日本の大分空港をロケットの打ち上げ拠点の一つにすることを検討しているそうで、うまく話が進めば2022年には大分空港は日本の「宇宙港」となるそうです。

またロケットというのは、どんな軌道に乗せたいかによって発射に向いている土地が変わります。静止衛星軌道なら赤道直下が最適で、太陽同期軌道ならなるべく北の方が、という具合にです。空中発射型ロケットは、動けない発射場と違って柔軟にこうしたニーズに応え、効率の良い…つまり安い打ち上げを、スピーディーに行えるのです。


では、華々しく空中発射型ロケットとしてデビューしたVirgin Orbitにどれぐらい将来性があるのでしょうか?

こうした空中発射型のロケット打ち上げ事業は、実はVirgin Orbitが初めてというわけではありません。

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オービタル・サイエンシズ社が1990年に打ち上げたペガサスロケットは、世界初の空中発射型衛星打ち上げロケットとして注目を浴びました。が、商業的には振るわず、現在では競争力を失っています。実際、ペガサスの代わりに使われた軍用ミサイルを転用したミノタウロスIVロケットと比べてみると、コスト面の不利は一目瞭然です。

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しかし、これにLauncherOneも加えて比べてみると…

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Virgin Orbitの13億円という打ち上げ費用はペガサスロケットに大きく勝っており、コストの面でもミノタウロスIVより優れていることが分かります。
これならVirgin Orbitは行けるかも!

けれど、地上発射型ロケットにも強力なライバルがいます。

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SpaceXやVirgin Orbitと同じくアメリカの宇宙ベンチャー企業であるRocketLab社です。軽量なCFRPでロケットを製造し、エンジンは金属3Dプリンタで作製するなど最先端のテクノロジーを駆使している同社のエレクトロンロケットは、400kgのペイロードを持ちながらなんと7.5億円という打ち上げ費用の安さで人気を集めています。並べてみると、エレクトロンの方がコストで30%近く優れています

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また日本も負けていません。日本のJAXAが2019年に打ち上げたイプシロンロケットは、1500kgのペイロードで打ち上げ費用は38億円。

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エレクトロンやLauncherOneより一回り大きいサイズながら、1kgあたりの打ち上げ費用ではほぼ互角となっています。

しかし先ほども説明したように、LauncherOneには空中発射型ならではの強みもあります。コスト面でも大きく引けを取らないのであれば、こうした手ごわいライバルともうまく戦っていける可能性は十分にあるのではないでしょうか。


最後に:民間ロケットが切り開く宇宙利用の最前線

こうした新進気鋭の宇宙開発企業によって、これから人類の宇宙利用は新しい時代を迎えることになると思います。そんな宇宙を利用したビジネスの一つを紹介して、締めとしましょう。

先程Falcon9の開発元として紹介したSpaceX社は、実はロケットを打ち上げるだけの企業ではありません。自社のロケットを使って、世界中に衛星通信を使ったインターネット網を張り巡らせるという壮大なビジネスを今まさに実現しつつあります。

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それがこのSTARLINK計画です。累計12000基もの衛星を打ち上げるという壮大な計画ですが、SpaceXはなんとFalcon9でこの衛星を一度に60個も打ち上げ、低軌道へ1000基の衛星を既に投入完了しています。2020年には実際に商用利用をスタートしました。

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これが完成すれば、世界のどこででも高速インターネット通信が可能になる時代が来るかもしれません。

最先端のロケットが、未来の扉を開く日は、もう目の前に来ているのかもしれませんね。


Virtual Broadcasting Center、VBCの思惟かねがお届けしました。

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なお文中画像は全てWikipediaより引用・改変して利用しています。
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この他にもちょっとしたエッセイや、VRやVTuberに関する考察記事を日々投稿していますので、お時間あればぜひごらんください。

また次の記事でお会いしましょう。
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今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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